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仕込み屋3

2012/01/14 Sat 15:15

               7

「社長。このままでは本当にマズい事になりますよ」

柿島は丸田をソファーに座らせると、いきなりそう切り出した。

「しかし、いったいどうすればいいんだねキミ……」

丸田は頭を抱えたままソファーにグッと俯いてしまった。

「あの前田という男は、あの業界では名の売れたゴロツキです。あいつなら社長の選挙妨害どころか、このスーパーだって簡単に潰してしまいます。そのくらい危険な男ですよあいつは……」

「しかし、キミはよくそんな男に2千万もの大金を貸そうとしていたね」

丸田はいきなり顔を上げ柿島の顔を見た。

「……いや……実は、私もあの男にはちょっとした弱味を握られていまして……なんとか無理をして融通を利かせた次第でございまして……」

「だろうな……」

「ですから、ま、こんな言い方をしましたらなんですが、今回の万引き騒動では丁度断るきっかけが出来たと思って安心していたのですが……まさかこんな結果になるとは……」

今度は柿島の方が頭を抱えてしまった。

「この際、署長にワケを説明してみるか……」

丸田はそう言うと、静かに携帯電話を取り出した。

「いや、それは非常に危険だと思います」

「なぜだ。相手はたかだかゴロツキだ、署長ならあんなゴロツキの1人や2人なんとかしてくれるだろう」

「しかし、あいつは今回、何も悪い事をしていません……。どちらかというと立場は被害者です。たとえゴロツキと言えど何も犯罪を犯していない人間にいきなり署長を出すというのは……それに、もし失敗したら、あいつは傷を負った狼のように、社長と会社を告訴し、そして大勢の仲間を集めて街宣車で攻めて来るに違いありません……」

「じゃあ私の知り合いの暴力団に頼んでみたらどうだろうか?彼は関西の大手暴力団の組長のひとりでなかなかの人物だ。あんたと私で頼み込めば彼もきっと動いてくれるに違いない」

「いや……ヤクザを出すのは……飛んで火にいる夏の虫ではないでしょうか……それこそ社長の選挙妨害のネタになってしまうかと……」

「それに……」と柿島は続ける。

「以前にも社長と同じようにあいつに狙われた大手企業の社長がおりましたが、その人もある暴力団組長を仲介に入れて話しをつけ、まぁ、その時は事は穏便に終わったのですが……」

柿島はそのまま黙ってしまった。

「なんだね。早く続きを言いたまえ」

「……その社長は、数ヶ月後に変死体で発見されました……」

「変死?殺されたというのか?」

「いえ、殺されたとは発表されていません。が、しかし……他殺なのか自殺なのか今だ謎のままで……」

「……あいつが殺したのか?あいつが殺したんだな!自殺に見せかけて!」

「……たぶん……」

丸田は目玉をギョッとさせると、そのまま頭を押さえながら、どうしたらいいんだ……と考え込んでしまった。
そんな丸田に、額に汗を浮かばせる柿島がソッと呟く。

「……ただ、ひとつだけ助かる方法があります……」

柿島の言葉に丸田はゆっくりと顔をあげ「金ならないぞ……選挙資金で使ってしまって私は一文無しだ」と静かにそう言った。

「いえ、現金をやるのではありません。社長が、あいつの保証人になってやればいいのです」

丸田は「保証人?」と顔を斜めに傾けた。

「そうです。社長が保証人にさえなってくれたら、ウチの本社は前田に2千万円の融資をするでしょう。本社は保証人がしっかりした人ならば融資をする会社でございます、融資部長の私が言うんですから間違いありません。ただし、このスーパーの土地と建物は担保に入れてもらう事になりますがね……」

丸田はテーブルの上の灰皿を見つめたまま無言で考えていた。

「今回の件は、当社が前田に2千万円を融資すれば丸く治まる事だと思うんです。それにはどうしてもそれなりの保証人が必要なんです。社長が保証人にさえなってくれたら……」

「……しかし」と丸田はゆっくりと顔をあげた。

「私が保証人になって丸く治まるのはキミの問題だけで私の問題は何も解決しないではないか。今の万引き事件にしても選挙妨害にしても……」

「いえ、それは違います。もし社長が保証人になるとしたら、今回の件についての『示談書』を交換条件にするのです。示談書があれば裁判所はその告訴を却下するでしょう……それに、前田は自分の借金の保証人になってくれた人をわざわざ告訴するでしょうか。あの前田という男はそこまでバカとは思えませんが……」

「……じゃあ選挙妨害はどうなる?」

「それです。どうしてわざわざ保証人になってくれた人の妨害をしなくてはならないのでしょうか?選挙を妨害して社長が落選して前田は何の得がございます?落選した社長がそれこそ無一文にでもなろうものなら、困るのはそんな社長を保証人にしている前田本人でしょう」

「…………」

「社長。ここはひとつ賢く考えましょう。社長がヤツの保証人になれば、ヤツは社長の手の平に乗ったも同然。社長の言う事ならなんだって聞きますよヤツは……」

「…………」

「ところで社長、同じ武蔵野市から出馬する民共党の棚橋氏。なかなかの強敵らしいじゃありませんか……ここはひとつ前田を手玉に取って、棚橋氏への選挙妨害をさせたら……」

丸田はジロッと柿島の顔を見た。

「棚橋は元パチンコ店の会長をやってた男だ……あいつこそ叩けば埃がでる体だろう……」

丸田は独り言のようにそう呟き、テーブルの一点を見つめては何か悪事を企んでいるかのように何度も何度もゆっくりと頷き始めた。

「この案ならば、社長は一銭の金を出さずして事を丸く治める事ができます。そして私のほうもヤツに2千万円の融資が出来る事になり、ヤツに命を狙われなくて済みます。どうでしょう、ここはひとつ保証人の欄に判を押しては貰えないでしょうか……」

丸田は黙ったままコクリと頷いた。

「……あの糞右翼から選挙妨害されると思えば二千万なんて安いもんだ……それに、ついでに、あの邪魔な棚橋のガキを葬ることができるなら……」

丸田は独り言のようにそう呟くと、豚のようにタプタプと太った頬を揺らしながら「くくくくくく……」と笑い始めた。

そして柿島に顔を向けると「すぐに2千万円の借用書を持って来なさい」と、濁った目を貪よりと輝かせながらそう言ったのだった。










     8

右翼の朝は早い。
朝イチと呼ばれる街宣活動が朝から行なわれるからだ。
朝イチとは、企業などを糾弾する際、社員達が出勤する時間を狙ってその会社の前で街宣活動をするという悪質なイヤガラセで、これをやられると大概の企業はぎゃふんと根をあげる。

その日の朝も、前田を乗せたニコニコ山猫団の街宣車は、立川市にあるプラスチック工場に朝イチを掛け、社長がフィリピンホステスを妊娠させた件について猛烈な街頭演説を工員達にぶちまけた。

そんな朝イチの演説を終えた前田が武蔵野市に戻ったのは、既に「笑っていいとも!」が終わりかけの気怠い午後の昼下がりだった。

事務所の駐車場に街宣車が到着すると、事務所の中から戦闘服を着た坊主頭の少年達がドカドカドカと一斉に階段を駆け下りて来た。

「ごくろやっす!」

街宣車から降りて来た前田に少年達が一斉に掛け声をあげる。

前田は駐車場に停まっていた黒のレクサスをチラッと見た。

「アニキ、来てるのか?」

前田が深海魚のような顔をした少年にそう聞くと、深海魚少年は「はい。二階でお待ちしております!」と直立不動で答えたのだった。

前田は急いで階段を駆け上がった。
玄関に入ると、出迎えの若い衆が「叔父貴が中で待たれております」と前田に伝えた。
前田は「わかっとるわい」と若い衆の坊主頭をペタンと叩くと、応接間へと入って行った。

「アニキ、待たせてすみません」

前田がそう叫びながら応接間に入ると、ソファーにふんぞり返りながら『実話ドキュメント』を読んでいた柿島が「おう、朝イチ、御苦労さんやったな」と片手を上げた。

「いやぁ~あのプラスチックの社長はなんともケチな野郎でして、機関誌への広告料は年間100万しか出せねぇって突っ張りやがって、ホント頭にくる野郎ですわ……」

前田はそう言いながらソファーに座ると、柿島は「ま、この不景気だし、年間100万でもありがてぇほうだろ」と実話ドキュメントをポンとソファーに放り投げた。

「ところで……」と柿島が言いながら煙草を喰わえると、前田がすかさずライターの火を柿島に差し出した。
柿島は前田の火で煙草をスパスパとさせると、「例のスーパーマルイチの物件なんだけどよ、やっと買い手が見つかったってさっき不動産屋から電話があったよ」と嬉しそうに笑った。

「いくらで売れました」

「坪120万」

前田は「わおっ」と小さく叫ぶと、さっそくテーブルの下に置いてあった計算機を取り出した。

「坪120万円って事は、あの土地は220坪だから……」

前田が計算機を叩き始めると、柿島が「2億6千4百万だ」とニヤリと顔を緩ませた。
前田はヒュ~と口笛を吹きながら、「これでプレステ3と龍が如くがやっと買える」と満足そうに微笑んだ。

「しかし、あの丸田っつー社長もなかなかしぶとい男だねぇ。あのスーパーの前にコンビニあっただろ、ほら、前にバイトがレジから金を盗んだって件で街宣掛けてやったコンビニ」

「あぁ、あの潰れたコンビニですね」

「そうそう、あの丸田っつー社長、選挙も落選してスーパーも俺達に乗っ取られたっつーのに、あのコンビニの場所借りて、また一から『八百屋・丸一』から出直すらしいぜ」

前田はまたヒュ~と口笛を吹いた。

そこに「失礼します!」と坊主頭の屈強な男が、お茶を持って入って来た。
前田はニヤニヤしたまま、その坊主男に「おい、丸田の親父、今度はあのコンビニ借りて八百屋をおっ始めるらしいぜ」と言うと、坊主男は「へぇ~ゾンビみたいな親父ですねぇ~」とケラケラ笑いながらテーブルの上にお茶を置いた。

その坊主男こそ、何を隠そう柔道松村だった。

そんな柔道松村が「そういえば……」と言いながら前田の前にお茶を置く。

「あの万引きGメンの金山って野郎、あいつ今、新宿のドンケー・ホーケーに雇われて万引きGメンしてるらしいっすよ」

柔道松村がそう言うと、「ドンケー・ホーケー言うたら、あの大型ディスカウントショップのか?」と前田が茶をズズズッと啜りながら聞いた。

柔道松村がすかさず「そうです、あの歌舞伎町にドデカいビルを建てたトコですわ」とギラリと目を光らせる。

「……おい……歌舞伎町ならおもろいやんけ……前田、すぐに調査したらんかい」

分厚く切った『虎や』の羊羹をクチャクチャと頬張りながら柿島がそう言うと、前田はゆっくりと天井を見上げたまま何やら1人でフムフム……と考え始めた。

そしてしばらくすると「へへへへへ……」と、まるで丹下段平のような顔をして微笑んだ。

前田の新たな「仕込み」が始まろうとしていた。


(仕込み屋・おわり)<

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