我が輩は野良犬である2
2012/01/07 Sat 13:04
2
我が輩はさ、ま、人間用語でいう「捨て犬」っつーやつだったわけよ。
この「捨て犬」ってのもまったく人聞き、いや犬聞きの悪い言葉だよな。
だって我が輩は別に誰にも捨てられてないもん。
お袋がどっかの野良とファックしてさ、そんでお袋が我が輩達兄弟4匹を隅田川の河川敷で捻り出したんだもん、別に捨てられたわけじゃねぇんだから「捨て犬」ってのは変だよな、うん。
しいて言うなら、ま、野良犬だろうな。
まぁ、我が輩のお袋ってのはあの辺じゃ有名なプッシードックだったからね、今でも隅田川の河川敷なんか行くと我が輩の兄弟がゴロゴロしてるよ、ま、親父は全員違うけどね。
んで、我が輩はやっと歩けるようになってさ、隅田川のホームレスのブルーハウスなんかに忍び込んだりして、やつらの命よりも大切なコンビニ弁当なんかをかっぱらったりする盗賊やってたんだけど、ある時さ、隅田公園を我が輩が散歩してるとね、頭のすぐ上の言問橋に淋しそうな姉ちゃんがポツンと夜の隅田川を眺めてるわけよ。
あそこはよくやらかすんだよ、昔っから向島の芸者なんかがよくドボーンといってたらしいんだけど、今でも時々あるんだ、あそこは。
んで、我が輩は近くに行ってみたわけよ、ま、心配だったっつーのもあるけど、あそこでドボーンやられるとさ、この辺の愛犬家達が気味悪がって当分散歩に来なくなるんだよ。
我が輩たちはいつもこの辺りをペット連れて散歩してるあの愛犬家達からビスケットなんかをよく貰ってるからね、結構アレうめぇんだよな、うん。
そんな事もあるから、我が輩は公園から橋に向かってワンワンワン!って吠えてやったわけよ、ここよりももう一本向こうの吾妻橋のほうが楽に行けるぞ!ってね。
アッチで飛んでくれる分には、アッチの愛犬家達がコッチにくる可能性もあるしね、うん。
そしたらその姉ちゃん、橋の上からワンワンと吠える我が輩を探し始めちゃってさ、やっと我が輩を見つけると「ちょっと待っててね!」なんて橋の上から叫んだりして、公園に降りて来るわけよ。
あれは何時頃だったかなぁ、朝鮮人の朴爺が酔っぱらって小便垂らしてベンチで寝てた頃だから11時頃かな、朴爺がいつも酒飲み始めるのは10時頃だったから。
そんな時間にはあの辺にゃ危ねぇ野郎がウヨウヨしててね、川に向かって千擦りしながらウオーーーッ!なんて叫んでる元プロレスラーとか、ダッチワイフを草むらん中に引きずり込んでひとりでレイプごっこしてる浪人生とか、出刃包丁片手に「ぶっ殺す・・・ぶっ殺す・・・」なんて呟いてる電波系とかね、もうとにかく信じられねぇ用なヤバいヤツがウヨウヨしてたんだよ夜のあの公園には。
だから我が輩は「こっちに来ちゃ危ないよ!」ってワンワンと叫んでんだけど、ま、人間に我が輩の声が通じるわけがないわな。
だから我が輩は姉ちゃんをこっちに来させない為に、橋の階段まで走ってったんだよ、必死になってな、そしたらそれを見たその姉ちゃん、何か勘違いしたんだろうな、丁度、「冬のソナタ」とかいう韓国のドラマなんかが流行ってた時だし、本人なりきっちゃったんだろうね、冬のソナタの音楽なんか頭ん中で流れたりして。
我が輩が姉ちゃんに向かってバーって走って行くと、姉ちゃん両手広げて待ってんだよ。
そんでいきなり「のぶゆきーーーーー!」なんて叫びながら我が輩を抱きしめるわけよ、わぁーーーーっと泣いたりグスングスンと笑ったりしながら。
ま、それが今の我が輩の御主人様、ミキちゃんってわけよ。
ミキちゃんは多分、男が逮捕されちゃってひとりポツンと残されて淋しかったンだろうね、我が輩をその男の「移り身だ!」なんてホンキで思い込んじゃったりして、ま、今思えばあん時のミキちゃんもシャブ喰ってたんだろうと思うけどね、なんかこう異常だったもん、言動とか。
我が輩の事をのぶゆきって呼びながら「ウチに帰ろっ」なんて我が輩はそのまま誘拐されちまうんだけど、あん時、その1時間程前にクリスマスで酔っぱらった親父がおみやげのケンタッキーをベンチに忘れてってね、それを発見した我が輩は夜中にこっそりひとりで食おうと思ってトタン板の下に隠しておいたんだよ、まぁ、それだけが気がかりだったね、生まれ育った隅田川を離れるのは。
それで我が輩は、初めてタクシーというヤツに揺られながら、初めて嗅いだミキちゃんのいい匂いに包まれて新宿にあるミキちゃんのマンションに辿り着いたってわけなんだけどね、そのマンションっつーのがこれまた夜の隅田公園みたいに、いやそれ以上に危ねぇ野郎たちが住んでるマンションでさ、一応は「ペット禁止!」なんていう看板がデカデカと玄関のエレベーター前に掲げてあるんだけども、我が輩にはすぐにわかるわけよ、犬とか猫とかの匂いっつーやつが、マンションのエレベーターの前に来ただけでこのマンションはペットだらけだなってすぐわかったよ。
でも一応は「ペット禁止!」なんて掲げてあるけどさ、ペットなんかよりももっと凄いヤツラがそのマンション中にはウヨウヨと飼われているわけで、今更ペットがどーのこーのっつー次元じゃないわけよそのマンションは。
我が輩が連れて来られたクリスマスの日も、そのマンションの下には数台のパトカーがパカパカと赤灯を照らしててさ、それをミキちゃん知らん顔して、警察に「何かあったんですか?」って聞く事もなく、さもそれが当然であるかのようにフツーにエレベーター乗るわけよ。
あとで3階に住んでるチワワ野郎に聞いたんだけど、、あのクリスマスの夜、7階のソープ嬢がベランダから飛び降りたって言ってたな。男と待ち合わせしてたのに男が時間になっても来ないからって、絶望して飛び降りたんだとさ。
んで、その10分後にクリスマスプレゼント持った男がノコノコと部屋にやって来たらしい。プレゼントを買うのに迷ってて遅刻しちゃったんだとさ。
男は女が飛び降りた場所でプレゼント持ったまんま一晩中号泣してたらしいよ。
切ないね。
とにかくこのマンションってのは、歌舞伎町が近いってのもあるんだろうけど、ヤクザと水商売と風俗嬢が多くってね、まともな一般人っつーのもいるにはいるんだけど、旦那が暴れたりとか、女房が酒乱だったりとか、息子がひきこもりだったり、娘が金髪ミニスカートだったりと、まぁロクな野郎しか住んでねぇんだよこのマンションは。
だから飼われてるペットなんて最悪なヤツばっかりでさぁ、こないだも5階のビーグルが精神異常の風俗嬢に窓から投げ捨てられて死んじゃっただろ、あと2階にヤクザの事務所があるんだけど、そこで飼われてるパグなんて身体中にイレズミ彫られちゃってさ、そりゃあ無惨な姿になってるよ。
あとここの4階にガンマニアっつーかガンキチガイっつーかそんなエアガン男が一人住んでんだけど、こいつがとにかく我が輩達ペットを見つけると、飼い主がいようが何だろうがとにかくピチッ!ピチッ!と赤とか青とか白とかの小っせぇ玉を撃ってきやがるんだよ。
アレ、ケツの穴に当たると痛てぇなんてもんじゃねぇんだよな。
1階に柴犬がいるんだけどさ、次郎っつーなかなかトッポイ野郎なんだけどね、あいつは年がら年中ケツの穴出してるだろ、だから次郎が狙われるのは決まってケツの穴らしいんだよな。
あいつ撃たれ過ぎてケツの穴がザクロみてぇにパンパンに腫れちゃっててさ、こないだ公園で会った時なんか「俺、このままだと捨てられるかもしんねぇよ」なんて、汁が垂れてるケツの穴を尻尾で隠しながら妙に弱気になっちゃってたよ。
ま、そんな狂った野郎がウヨウヨしているマンションなんだけど、そう考えると、我が輩の御主人様っつーのは優しいし可愛いし、そんでもっていい匂いがするしで、ホント、イイ女に拾われて我が輩は幸せだって思うよ、うん。
3
こないだ初めてミキちゃんのお店連れてって貰ったんだ。
ミキちゃん、部屋は汚ねぇけど、自分自身はめちゃめちゃ綺麗にするタイプでさぁ、2日に一回はエステとかサウナとかなんか色々行ってるわけよ。
そんな時には我が輩も一緒にペットショップなんかに連れてって貰ってさ、ミキちゃんがエステで無駄毛の処理なんかしてる間にアホヅラさげたトリマーなんかにゴシゴシと体洗ってもらったりしてんだけど、あのトリマーっつうヤツラ、なんとかなんねぇかなぁ。
最近のトリマーはなーんかカッコウ付けてるガキが多いんだよね。たいした技術もねぇくせに。
あいつら絶対に勘違いしてるね、自分を芸術家かなんかだと思ってんだよ、絶対。
いつも我が輩を洗う小娘はまだ19かハタチのガキなんだけど、我が輩をシャンプーする時にはいつもクラッシック音楽なんか掛けやがるんだよ。それもベートーベンの激しい曲なんかを小っせぇCDラジカセで。
「この曲流さないと巧く出来ないの」なんて言いながら曲が流れだすとアホみたいにノリノリになっちゃってさ、テメーがベートーベンになりきっちゃって耳に指入るわケツの穴に爪が刺さるわでホント大迷惑。
んで、いよいよトリミングなんて時には今度はショパンなんか流しやがってね、やっぱり「この曲流さないと巧く出来ないの」なんて言いやがるのね。
アホだよアホ。
こないだなんて、めちゃめちゃ尻尾を短く切りやがったからさ、アッタマきたから後ろ足カットしてる時に糞ちびってやったんだよ、そいつの顔目掛けて。
そしたらおもいっきり命中しやがってさ、そいつ顔に付いた我が輩の糞を必死になって無言で洗ってんのよね、ショパン聞きながら。
まぁ、店長はさすがにウマいけどね。
洗い方なんかもサッサッサって早いしね、痒いとこなんかもよく知ってるよアイツは。
ただ難点なのが息が臭い。
我が輩は、ほら、あんたら人間よりも鼻が何百倍もいいだろ、だから人間が「クサっ!」と思う匂いは我が輩達にしたら気が狂いそうなくらいに臭いわけよ。
この店長の息は最悪だね。人間技とは思えないよあの口臭は。
ここに来るペット達もみんな言ってるよ「カンベンしてよ……」って。
ただ、シャンプーは気持ちいいんだよな……ホント、残念だよ。
ま、そんな感じで、我が輩はペットショップでエステから帰って来るミキちゃんを待ってたわけだが、三十分ほどしてミキちゃんが迎えに来てくれたよ。
我が輩が檻の中から「ミキちゃん遅せぇよー、もうこいつの口臭で思考回路がショートしそうだぜ」なんてワンワンと吠えてっと、やって来たよ口クサ店長。
ミキちゃんがあんまり可愛いもんだからデレーっとした顔しくさって。
「ごめんなさい、遅れちゃって・・・」
なんてミキちゃんが財布から金だそうとしてると、口クサ店長は「のぶゆき君、いいコにして待ってましたよ」なんて、射精中の羽賀研二みたいな顔してほざきやがる。
「ミキちゃんそいつ口臭いから近寄るな!鼻が死ぬぞ!」って我が輩、必死になってワンワンと叫ぶんだけどミキちゃんは性格イイもんだから「うふふふふっ」なんて愛想笑いなんかしちゃってんだよね、多分、ミキちゃんも息止めながら笑ってたと思うけどね。
で、ペットショップから出ると、「どうする?お天気もいいし歩いて帰ろっか?」なんてミキちゃんはプンプンとイイ匂いさせて我が輩を抱きしめてくれるんだけど、ま、それもいいけど、でもどうせミキちゃん途中で「もうダメ」とか言いながらすぐにタクシー捕まえちゃうんだし、それなら最初っからタクシーにしとけば?なんてクンクン言ってると、そこにミキちゃんのケータイが鳴ったんだな。
ミキちゃんは我が輩をアスファルトの上に「よいしょっ」なんて降ろすと、バッグの中からケータイを取り出した。
我が輩は「どれどれ・・・」などと、足下からミキちゃんのミニスカートん中をチェックする。
悪徳エステなんかにHな事されてパンツ濡らしてないかとチェックするのも番犬の務めだしね。
え?おまえが番犬なのかって?
冗談言うなよ、我が輩、こう見えても隅田川では結構ブイブイ言わせてたんだぜ、酔っぱらったホームレスのアキレス腱を噛み切ってやった事もあんだぜ、伊達に修羅場は潜ってきてねぇよ我が輩は。
で、そのケータイの内容っつーのが、同じ店で働くレンちゃんが「今、お店のロッカー掃除してんだけど手伝ってー!」っつー、どーでもいい内容でさぁ、でもミキちゃんは人がいいもんだから「うん。いいよ、今、丁度お店の近くにいるから、すぐお店に行くね」なーんて、すぐに安請け合いしちゃうんだよな……自分の部屋も掃除できないくせに。
そこから歌舞伎町の店までトコトコと歩いて10分くらいらしいんだけど、電話切ってからミキちゃん、初めて我が輩の存在に気付いたらしく「どうしよう・・・」なんてひとりごと言ってんのよ道路の真ん中で。
で、我が輩もミキちゃんのピンクのパンティー眺めながら「ク~ン・・・ク~ン」なんて切ない声を出したりしてんのね、なんでかっつーとまたあの口クサ店長の店に預けられたら堪ったもんじゃねぇーからさ、ここは思いっきり甘えとかねぇーとね。
ったらミキちゃん、「一緒にお店行くぅ?」なんて聞いてくんのよ、我が輩に選択権は無い事を知っていながら。
だから我が輩、思いっきり「わん!」と吠えてやったの。
そしたらミキちゃん「じゃあ行こっ」なんて笑ったりして、ま、なんとかあの口クサ地獄を免れる事ができたってわけよ。
って事で、我が輩は初めてミキちゃんが働いてる歌舞伎町のキャバクラとやらに連れてってもらったんだけどね・・・・
(3に続く)

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我が輩はさ、ま、人間用語でいう「捨て犬」っつーやつだったわけよ。
この「捨て犬」ってのもまったく人聞き、いや犬聞きの悪い言葉だよな。
だって我が輩は別に誰にも捨てられてないもん。
お袋がどっかの野良とファックしてさ、そんでお袋が我が輩達兄弟4匹を隅田川の河川敷で捻り出したんだもん、別に捨てられたわけじゃねぇんだから「捨て犬」ってのは変だよな、うん。
しいて言うなら、ま、野良犬だろうな。
まぁ、我が輩のお袋ってのはあの辺じゃ有名なプッシードックだったからね、今でも隅田川の河川敷なんか行くと我が輩の兄弟がゴロゴロしてるよ、ま、親父は全員違うけどね。
んで、我が輩はやっと歩けるようになってさ、隅田川のホームレスのブルーハウスなんかに忍び込んだりして、やつらの命よりも大切なコンビニ弁当なんかをかっぱらったりする盗賊やってたんだけど、ある時さ、隅田公園を我が輩が散歩してるとね、頭のすぐ上の言問橋に淋しそうな姉ちゃんがポツンと夜の隅田川を眺めてるわけよ。
あそこはよくやらかすんだよ、昔っから向島の芸者なんかがよくドボーンといってたらしいんだけど、今でも時々あるんだ、あそこは。
んで、我が輩は近くに行ってみたわけよ、ま、心配だったっつーのもあるけど、あそこでドボーンやられるとさ、この辺の愛犬家達が気味悪がって当分散歩に来なくなるんだよ。
我が輩たちはいつもこの辺りをペット連れて散歩してるあの愛犬家達からビスケットなんかをよく貰ってるからね、結構アレうめぇんだよな、うん。
そんな事もあるから、我が輩は公園から橋に向かってワンワンワン!って吠えてやったわけよ、ここよりももう一本向こうの吾妻橋のほうが楽に行けるぞ!ってね。
アッチで飛んでくれる分には、アッチの愛犬家達がコッチにくる可能性もあるしね、うん。
そしたらその姉ちゃん、橋の上からワンワンと吠える我が輩を探し始めちゃってさ、やっと我が輩を見つけると「ちょっと待っててね!」なんて橋の上から叫んだりして、公園に降りて来るわけよ。
あれは何時頃だったかなぁ、朝鮮人の朴爺が酔っぱらって小便垂らしてベンチで寝てた頃だから11時頃かな、朴爺がいつも酒飲み始めるのは10時頃だったから。
そんな時間にはあの辺にゃ危ねぇ野郎がウヨウヨしててね、川に向かって千擦りしながらウオーーーッ!なんて叫んでる元プロレスラーとか、ダッチワイフを草むらん中に引きずり込んでひとりでレイプごっこしてる浪人生とか、出刃包丁片手に「ぶっ殺す・・・ぶっ殺す・・・」なんて呟いてる電波系とかね、もうとにかく信じられねぇ用なヤバいヤツがウヨウヨしてたんだよ夜のあの公園には。
だから我が輩は「こっちに来ちゃ危ないよ!」ってワンワンと叫んでんだけど、ま、人間に我が輩の声が通じるわけがないわな。
だから我が輩は姉ちゃんをこっちに来させない為に、橋の階段まで走ってったんだよ、必死になってな、そしたらそれを見たその姉ちゃん、何か勘違いしたんだろうな、丁度、「冬のソナタ」とかいう韓国のドラマなんかが流行ってた時だし、本人なりきっちゃったんだろうね、冬のソナタの音楽なんか頭ん中で流れたりして。
我が輩が姉ちゃんに向かってバーって走って行くと、姉ちゃん両手広げて待ってんだよ。
そんでいきなり「のぶゆきーーーーー!」なんて叫びながら我が輩を抱きしめるわけよ、わぁーーーーっと泣いたりグスングスンと笑ったりしながら。
ま、それが今の我が輩の御主人様、ミキちゃんってわけよ。
ミキちゃんは多分、男が逮捕されちゃってひとりポツンと残されて淋しかったンだろうね、我が輩をその男の「移り身だ!」なんてホンキで思い込んじゃったりして、ま、今思えばあん時のミキちゃんもシャブ喰ってたんだろうと思うけどね、なんかこう異常だったもん、言動とか。
我が輩の事をのぶゆきって呼びながら「ウチに帰ろっ」なんて我が輩はそのまま誘拐されちまうんだけど、あん時、その1時間程前にクリスマスで酔っぱらった親父がおみやげのケンタッキーをベンチに忘れてってね、それを発見した我が輩は夜中にこっそりひとりで食おうと思ってトタン板の下に隠しておいたんだよ、まぁ、それだけが気がかりだったね、生まれ育った隅田川を離れるのは。
それで我が輩は、初めてタクシーというヤツに揺られながら、初めて嗅いだミキちゃんのいい匂いに包まれて新宿にあるミキちゃんのマンションに辿り着いたってわけなんだけどね、そのマンションっつーのがこれまた夜の隅田公園みたいに、いやそれ以上に危ねぇ野郎たちが住んでるマンションでさ、一応は「ペット禁止!」なんていう看板がデカデカと玄関のエレベーター前に掲げてあるんだけども、我が輩にはすぐにわかるわけよ、犬とか猫とかの匂いっつーやつが、マンションのエレベーターの前に来ただけでこのマンションはペットだらけだなってすぐわかったよ。
でも一応は「ペット禁止!」なんて掲げてあるけどさ、ペットなんかよりももっと凄いヤツラがそのマンション中にはウヨウヨと飼われているわけで、今更ペットがどーのこーのっつー次元じゃないわけよそのマンションは。
我が輩が連れて来られたクリスマスの日も、そのマンションの下には数台のパトカーがパカパカと赤灯を照らしててさ、それをミキちゃん知らん顔して、警察に「何かあったんですか?」って聞く事もなく、さもそれが当然であるかのようにフツーにエレベーター乗るわけよ。
あとで3階に住んでるチワワ野郎に聞いたんだけど、、あのクリスマスの夜、7階のソープ嬢がベランダから飛び降りたって言ってたな。男と待ち合わせしてたのに男が時間になっても来ないからって、絶望して飛び降りたんだとさ。
んで、その10分後にクリスマスプレゼント持った男がノコノコと部屋にやって来たらしい。プレゼントを買うのに迷ってて遅刻しちゃったんだとさ。
男は女が飛び降りた場所でプレゼント持ったまんま一晩中号泣してたらしいよ。
切ないね。
とにかくこのマンションってのは、歌舞伎町が近いってのもあるんだろうけど、ヤクザと水商売と風俗嬢が多くってね、まともな一般人っつーのもいるにはいるんだけど、旦那が暴れたりとか、女房が酒乱だったりとか、息子がひきこもりだったり、娘が金髪ミニスカートだったりと、まぁロクな野郎しか住んでねぇんだよこのマンションは。
だから飼われてるペットなんて最悪なヤツばっかりでさぁ、こないだも5階のビーグルが精神異常の風俗嬢に窓から投げ捨てられて死んじゃっただろ、あと2階にヤクザの事務所があるんだけど、そこで飼われてるパグなんて身体中にイレズミ彫られちゃってさ、そりゃあ無惨な姿になってるよ。
あとここの4階にガンマニアっつーかガンキチガイっつーかそんなエアガン男が一人住んでんだけど、こいつがとにかく我が輩達ペットを見つけると、飼い主がいようが何だろうがとにかくピチッ!ピチッ!と赤とか青とか白とかの小っせぇ玉を撃ってきやがるんだよ。
アレ、ケツの穴に当たると痛てぇなんてもんじゃねぇんだよな。
1階に柴犬がいるんだけどさ、次郎っつーなかなかトッポイ野郎なんだけどね、あいつは年がら年中ケツの穴出してるだろ、だから次郎が狙われるのは決まってケツの穴らしいんだよな。
あいつ撃たれ過ぎてケツの穴がザクロみてぇにパンパンに腫れちゃっててさ、こないだ公園で会った時なんか「俺、このままだと捨てられるかもしんねぇよ」なんて、汁が垂れてるケツの穴を尻尾で隠しながら妙に弱気になっちゃってたよ。
ま、そんな狂った野郎がウヨウヨしているマンションなんだけど、そう考えると、我が輩の御主人様っつーのは優しいし可愛いし、そんでもっていい匂いがするしで、ホント、イイ女に拾われて我が輩は幸せだって思うよ、うん。
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こないだ初めてミキちゃんのお店連れてって貰ったんだ。
ミキちゃん、部屋は汚ねぇけど、自分自身はめちゃめちゃ綺麗にするタイプでさぁ、2日に一回はエステとかサウナとかなんか色々行ってるわけよ。
そんな時には我が輩も一緒にペットショップなんかに連れてって貰ってさ、ミキちゃんがエステで無駄毛の処理なんかしてる間にアホヅラさげたトリマーなんかにゴシゴシと体洗ってもらったりしてんだけど、あのトリマーっつうヤツラ、なんとかなんねぇかなぁ。
最近のトリマーはなーんかカッコウ付けてるガキが多いんだよね。たいした技術もねぇくせに。
あいつら絶対に勘違いしてるね、自分を芸術家かなんかだと思ってんだよ、絶対。
いつも我が輩を洗う小娘はまだ19かハタチのガキなんだけど、我が輩をシャンプーする時にはいつもクラッシック音楽なんか掛けやがるんだよ。それもベートーベンの激しい曲なんかを小っせぇCDラジカセで。
「この曲流さないと巧く出来ないの」なんて言いながら曲が流れだすとアホみたいにノリノリになっちゃってさ、テメーがベートーベンになりきっちゃって耳に指入るわケツの穴に爪が刺さるわでホント大迷惑。
んで、いよいよトリミングなんて時には今度はショパンなんか流しやがってね、やっぱり「この曲流さないと巧く出来ないの」なんて言いやがるのね。
アホだよアホ。
こないだなんて、めちゃめちゃ尻尾を短く切りやがったからさ、アッタマきたから後ろ足カットしてる時に糞ちびってやったんだよ、そいつの顔目掛けて。
そしたらおもいっきり命中しやがってさ、そいつ顔に付いた我が輩の糞を必死になって無言で洗ってんのよね、ショパン聞きながら。
まぁ、店長はさすがにウマいけどね。
洗い方なんかもサッサッサって早いしね、痒いとこなんかもよく知ってるよアイツは。
ただ難点なのが息が臭い。
我が輩は、ほら、あんたら人間よりも鼻が何百倍もいいだろ、だから人間が「クサっ!」と思う匂いは我が輩達にしたら気が狂いそうなくらいに臭いわけよ。
この店長の息は最悪だね。人間技とは思えないよあの口臭は。
ここに来るペット達もみんな言ってるよ「カンベンしてよ……」って。
ただ、シャンプーは気持ちいいんだよな……ホント、残念だよ。
ま、そんな感じで、我が輩はペットショップでエステから帰って来るミキちゃんを待ってたわけだが、三十分ほどしてミキちゃんが迎えに来てくれたよ。
我が輩が檻の中から「ミキちゃん遅せぇよー、もうこいつの口臭で思考回路がショートしそうだぜ」なんてワンワンと吠えてっと、やって来たよ口クサ店長。
ミキちゃんがあんまり可愛いもんだからデレーっとした顔しくさって。
「ごめんなさい、遅れちゃって・・・」
なんてミキちゃんが財布から金だそうとしてると、口クサ店長は「のぶゆき君、いいコにして待ってましたよ」なんて、射精中の羽賀研二みたいな顔してほざきやがる。
「ミキちゃんそいつ口臭いから近寄るな!鼻が死ぬぞ!」って我が輩、必死になってワンワンと叫ぶんだけどミキちゃんは性格イイもんだから「うふふふふっ」なんて愛想笑いなんかしちゃってんだよね、多分、ミキちゃんも息止めながら笑ってたと思うけどね。
で、ペットショップから出ると、「どうする?お天気もいいし歩いて帰ろっか?」なんてミキちゃんはプンプンとイイ匂いさせて我が輩を抱きしめてくれるんだけど、ま、それもいいけど、でもどうせミキちゃん途中で「もうダメ」とか言いながらすぐにタクシー捕まえちゃうんだし、それなら最初っからタクシーにしとけば?なんてクンクン言ってると、そこにミキちゃんのケータイが鳴ったんだな。
ミキちゃんは我が輩をアスファルトの上に「よいしょっ」なんて降ろすと、バッグの中からケータイを取り出した。
我が輩は「どれどれ・・・」などと、足下からミキちゃんのミニスカートん中をチェックする。
悪徳エステなんかにHな事されてパンツ濡らしてないかとチェックするのも番犬の務めだしね。
え?おまえが番犬なのかって?
冗談言うなよ、我が輩、こう見えても隅田川では結構ブイブイ言わせてたんだぜ、酔っぱらったホームレスのアキレス腱を噛み切ってやった事もあんだぜ、伊達に修羅場は潜ってきてねぇよ我が輩は。
で、そのケータイの内容っつーのが、同じ店で働くレンちゃんが「今、お店のロッカー掃除してんだけど手伝ってー!」っつー、どーでもいい内容でさぁ、でもミキちゃんは人がいいもんだから「うん。いいよ、今、丁度お店の近くにいるから、すぐお店に行くね」なーんて、すぐに安請け合いしちゃうんだよな……自分の部屋も掃除できないくせに。
そこから歌舞伎町の店までトコトコと歩いて10分くらいらしいんだけど、電話切ってからミキちゃん、初めて我が輩の存在に気付いたらしく「どうしよう・・・」なんてひとりごと言ってんのよ道路の真ん中で。
で、我が輩もミキちゃんのピンクのパンティー眺めながら「ク~ン・・・ク~ン」なんて切ない声を出したりしてんのね、なんでかっつーとまたあの口クサ店長の店に預けられたら堪ったもんじゃねぇーからさ、ここは思いっきり甘えとかねぇーとね。
ったらミキちゃん、「一緒にお店行くぅ?」なんて聞いてくんのよ、我が輩に選択権は無い事を知っていながら。
だから我が輩、思いっきり「わん!」と吠えてやったの。
そしたらミキちゃん「じゃあ行こっ」なんて笑ったりして、ま、なんとかあの口クサ地獄を免れる事ができたってわけよ。
って事で、我が輩は初めてミキちゃんが働いてる歌舞伎町のキャバクラとやらに連れてってもらったんだけどね・・・・
(3に続く)


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