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我が輩は野良犬である1

2012/01/07 Sat 13:05


             1

我が輩は野良犬である。
そして我が輩の御主人様はキャバ嬢である。
だからそこらのワン公と比べたら犬としてはなかなかいい暮らしをしているのである。

ただし、我が輩の御主人、こいつはミキというのだが、このミキの生活がだらしなくって仕方がない。
部屋は散らかし放題で掃除はしない、メシは90%が外食で残りの10%はインスタントラーメンをズルズルと啜っている、夜中に毎回違う男は連れ込む、風呂の湯は出しっ放しでファックする、おまけに計画性も無く中田氏させる・・・と、もうやりたい放題の大馬鹿野郎なのである。

ま、しかし、メチャクチャにカワイイし、性格もすこぶる優しいし、そして何よりも抱かれるといい匂いがするから、そんな事はどーでもいい。
隣りのマンションに飼われているマルシーズの御主人のように、部屋はピカピカ食事は雑穀米、そんでもって息は下水道のように臭くあんまりデブすぎて足の裏の角質が打ちっぱなしのコンクリートみたいになっている几帳面なババアよりは、だらしのない可愛いキャバ嬢を御主人様に持つ我が輩のほうが100倍も200倍も幸せであると、つくづくそう思うのである。



そんなミキちゃんの生活というのは実に不規則だ。
完全夜型人間な為、彼女の生活は昼と夜とがひっくり返ってしまっている。
元々夜行性の我が輩にとっては快適な暮らしではあるが、しかし、散歩に連れて行ってもらえないのが難点だ。
散歩に連れて行ってもらえない我が輩のストレスを発散させる為にと、ミキちゃんは色々とヘンテコリンな道具を歌舞伎町の24時間ペットショップで買って来てくれるのだが、しかし、今更ねぇ、噛み付くとプーップーッと音が鳴るボールを買って来られてもねぇ・・・・

そんな物よりも、我が輩が何よりもストレトを発散できるのが、クローゼットの奥に隠されている電気マッサージ器、こいつはいい、めちゃめちゃ我が輩をアグレッシブルにさせてくれるマシーンだ。

こないだもホストの兄ちゃんを部屋に連れ込んだミキちゃんは、その男が見かけ倒しでたいしてウマくなかったもんだから、ミキちゃん自らがクローゼットの奥からヤツを取り出し、そのホストの兄ちゃんに渡したんだな、うん。
ホストの坊やはテメーがコケにされてるって事にまったく気付かねぇで「ミキちゃんこれで攻められたいの?」なーんてニヤニヤしながら聞いてやがる。
テメーに攻められても気持ちよくねぇからだよバーカと吠えてやったら、そのホスト坊や、我が輩をジッと見つめながら「かわいいワンちゃんだね」なんてワンちゃん呼ばわりしやがって、我が輩、アッタマ来たからそいつの脱ぎ捨ててあったズボンの股間部分にこっそり大量の小便を染み込ませてやったよ、ペディグリーで飛びっきりに臭くなってる小便をたっぷりとな。
あいつ、ファックした後、店から電話が掛かって来て、慌てて店に戻ったみたいだったが・・・どうなったかなぁ・・・あれから姿見てねぇなぁ・・・・

ま、そんなホスト坊やなんてどーでもいいんだが、問題のその電気マッサージ器。
ヤツのそのブルブルブルという音が堪らないんだよね。
あの音でまず我が輩は飛んじゃう。
興奮した我が輩がワンワンと吠えながら部屋中を走り回ると、その音が急に変わるんだよね、ブルブルからブーーーーンへと。
要するにあのブルブルしているヘッドがミキちゃんのアソコに押し付けられると音が変わるわけよ。

そうすると、ま、犬ってのはほら、音に敏感だろ、無意識に立ち止まって首なんか傾げちゃうわけよ我が輩。
そうすっと、その我が輩の首を斜めにしてジッと見ている仕草がミキちゃんには堪らなく母性本能をくすぐるらしくってね、ミキちゃんが「のぶゆき!こっちおいで!」ってベッドに呼んでくれるんだなぁ・・・うん。

え?のぶゆきって誰だって?
我が輩に決まってるだろ。
え?変な名前だって?

・・・まぁね、キャバ嬢の犬にしては変だよなやっぱり。
ミキちゃんの店の女の子なんかに飼われてるヤツらも、やっぱり「ミルミル」とか「ぷっちょ」とかって可愛らしい名前付けられてるもんな・・・
我が輩の場合、の・ぶ・ゆ・き、だもんな・・・

え?名前の由来?
ん・・・あんまり聞かないで欲しいんだけど、やっぱ教えないとダメか?

結局さ、のぶゆきっつーのは実在する人物なんだよね。
まぁ、早い話しがミキちゃんの昔の男よ。

こいつがまぁ、なんとも大馬鹿野郎でね、とにかく凶暴というかキチガイというか、手に負えないヤクザ者でさぁ、もうずーっとシャブ効いてるような危ないヤツ。

あんな男のどこがいいんだって思うんだけどね、何度引っ叩かれても何度金を毟り取られてもそんでもミキちゃん離れないんだよね・・・不思議だよな女って。

で、どーしてそいつの名前が我が輩に付けられたのかというと、これはあんまり我が輩も詳しくは知らないんだけど、まだ我が輩がミキちゃんに飼われる前にね、そのヤクザは覚醒剤で警察に捕まっちゃったんだって。

ミキちゃんがまだ17、8歳の頃かな、ミキちゃんがそのヤクザに紹介されたというか売り飛ばされたというか今の店に働き始めたのが17ん時だって言ってたから、やっぱミキちゃんが17、8の頃だったと思うよ。

そん時、ミキちゃんはそのヤクザと同棲してたわけなんだけど、ある日、突然警察がアパートに踏込んで来て、慌てたそのヤクザはイレズミ曝したまんまパンツ一丁で窓から屋根に上って逃亡したらしいんだよな、それでそのバカは、逃げれるわけねぇっつーのに人んちの屋根の上をパンツ一丁でドタドタと走り回って転んで人ん家の屋根裏なんかにズボッ!なんて足突っ込んじゃったりして、挙げ句の果てには追いつめられて電信柱によじ登ったっつーから、お前はジャックと豆の木か!ってかなりのオツムテンテンだよこいつ。

んで、電柱のてっぺんにしがみつきながら、警棒持って電柱を登って来る警察に「来るなー!」なんて小学生みたいにツバ掛けてたりしてたらしいんだけど、ほら、その映像、昔、みのもんたの「警察24時」とかいう番組でよく放映されてたけどアンタ見たコトないかな・・・
イレズミ出してパンツ一丁で電信柱にしがみついてツバをペッペッと吐いてるシャブ中ヤクザ。

ま、そんなわけでそのヤクザは捕まっちゃったわけだけど、残されたミキちゃんはそのヤクザが店から借りた、その、なんていうの、前借?バンス?とかいういわゆる前借金が大量に残ってるって事で、そのままキャバクラで働かされることになったんだけど、そんな時よ、我が輩とミキちゃんが運命の出会いをしたのは。

あれは、そう、クリスマスが近い、とんでもねぇ寒ーい夜だったな・・・・

(2に続く)

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