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大根足とラブホテル

2012/01/04 Wed 02:00

    001236666532のらららに
六本木23時アマンド前。
気がつくと俺は六本木の交差点に立っていた。

古い外国映画のようなセリフが飛び交い、どこからともなくアラミスの香りが漂う、そんな白い肌と金髪と青い目の街。
俺が住んでる新宿のように、古い香港映画のようなセリフが飛び交い、ニンニクとゲロの匂いが漂う、茶色い肌と抜けた前歯と世の中を恨み尽くした目をした腐った街とは大違いだった。

場違いだろ?場違いだな?
俺は急いでこの街から逃れようと走り去るタクシーを目で追うが、しかし、俺のポケットの中には82円しかなかった。

とりあえず歩いた。
交差点から暗い方へと足を進める。
麻布警察の前で白人の酔っぱらいと警察官が取っ組み合いの喧嘩をしていた。
俺の街の酔っぱらいとこの街の酔っぱらいとでは明らかに品格が違う。
この街の酔っぱらいは酔っぱらって暴れる事を楽しんでいるようだ。
しかし俺の街の酔っぱらいは、酔って暴れなきゃならない運命を背負っているように思えた。

俺は慣れない六本木のネオンが怖く、とにかく暗闇を目指して歩いた。
路地裏では数人の黒人とダブダブファッションの日本男児がバスケットボールで楽しそうに遊んでいた。
この街の路地裏は、路地裏までもアメリカに汚染されているようだ。
俺は反吐が出そうになり「ヤンキーゴーホーム!」と叫んでやろうかと、「ヤン」までは口に出たが、しかし、そのボール遊びをしている黒んぼの拳が花園神社で売ってるヤキイモのように大きかったため、とたんに金玉が縮み上がった俺は、慌てて残りの言葉を飲み込んだ。

俺はこの腐った街から逃れようとひたすら歩いた。
六本木から新宿まで歩いてどのくらいかかるのだろう。
この世に生まれて40年、今までそんな事を一度だって考えた事がなかった。
しかも、いつもは車で移動している俺は、徒歩による新宿までの道順はさっぱりわからなかった。

暗い路地を出ると大通りに出た。
爛々と輝くオレンジ色の街灯が、どこか異国の町に来たような気分にさせ、所持金82円の俺を余計不安にさせた。
しばらく歩くと、イタリアン料理の小さな店先で、赤いエプロンをした中年女が店の看板を片付けていた。
俺はすかさずその女に歩み寄り声を掛けた。

「すみません。新宿はどっちですか?」
「CLOSE」と書かれたプレートを手にした女は、そんな俺を見て「はぁ?」ととぼけた顔をした。

そうだ。うん、そりゃあそうだろうよ。こんな夜更けに、いきなり新宿はどっちだ?なんて、それじゃあまるで山下清じゃないか。
俺は気を取り直して「都庁はどっちですか?」ともう一度聞き直した。
しかし、無情にも赤いエプロンの女は、もう一度ダメ押しするかのように「はぁ?」と呆れた。
俺はそんな女を見て、これ以上新宿をどう説明すればいいんだと考える。

すると女は、俺を外国人とでも思ったのだろうか、俺が今着た方向を指差し、「ポリス!麻布ポリス!」と説明し、そして爽やかな笑顔で笑った。
女のその笑顔は、安っぽいボランティアの笑顔だった。



82円。
40を過ぎた男が、たったこれだけの所持金で未開の町を彷徨い歩く。
俺は素直に恐怖を感じた。
この心細さは、まだガキの頃に、近所の自転車屋の倅とやったオセロで、不意に角を取られた時以来のそんな心細さだ。
そう怯えながら夜の六本木の歩道をトボトボと歩いていると、ふとホームレスと言う人種の底力と言うか度胸と言うか、そんなものにワケもなく感動してしまった。

坂道の大通りで新たな路地裏を発見した。
薄暗い路地を覗くと、薄汚れたコンクリートが剥き出しになったビルの裏が続いていた。
そこはどこか俺の街に似ていた。

その路地に入ると、俺は迷う事なくタバコに火を付けた。
雨上がりのコンクリートが発する饐えた匂いと、道端のドブから漂うヘドロの匂い。そんな香りにタバコの香りが混じり、やけに俺の心を和ませてくれた。

その時、いきなり背後から「ねぇ」と声を掛けられた。
道端のドブに、ビルの雨どいから流れ落ちて来た雨水がドボドボドボと不気味な音を立てていた。
俺はそんな耳障りな音を聞きながら、恐る恐る後ろを振り返った。

それは明らかに女だった。
オレンジ色のヨレヨレワンピースに随分と履き古したと思われる安物のサンダル。
月夜に浮かぶ女の顔は異常なほどのデカさだったが、しかしオカマではない事は確かだ、長年歌舞伎町でメシを食って来た俺だ、オカマとオンナの区別くらいは出来る。
そんな俺の彼女に対する第一印象は、妙に髪の毛がベタベタした女、だった。

女は俺に近付いて来た。
ついさっき「ねぇ」と言ったきり、女はまだ何も言葉を発しないままだ。
俺はとたんに怖くなった。
所持金が82円しかないのも怖いが、しかし、深夜の寂れた路地裏で、突然見知らぬ顔の大きな女に声を掛けられるというのも、気が狂いそうなくらいに怖い。

女は俺の前で立ち止まると、俺の目を錆びたカミソリのような目で睨んだ。
女は俺の目を睨みながら、右足のサンダルをソッと脱いでは片足立ちになり、右足で左足の足首をカサカサと掻いた。

俺は静かな口調で「なに?」と聞いた。
本当は大声を出して走り出したいくらいに怖かったのだが、しかし、もし追い駆けられたらと考えるとそっちのほうがもっと怖いと思い諦めた。

女は俺の目をジッと見つめたまま「どこへ行くの?」と小さな声で呟いた。
女は随分と言葉を発していなかったのだろう、俺の鼻に降り掛かる女のその息は、寝起きのお婆さんの口臭と同じニオイがした。

再び、どこかのビルの雨どいからドボドボドボっと雨水がドブに溢れた。
その音が途切れた瞬間、俺は女の目を見つめたまま、「・・・新宿」と答えた。

女は「ふ~ん・・・」と鼻で返事をしながら、それまで俺の目を睨んでいた視線をゆっくりと下に移動させた。
そしてその視線を俺の足下まで落とすと、いきなりその視線をサッと俺の目へと戻し、「じゃあアタシも新宿行こっ」と呟いたのだった。



所持金82円の、新宿がどっちの方向かもわからない男と、この正体不明の不気味な女は、2人して新宿を目指しては深夜の六本木の路地裏を彷徨い歩いた。
女は時々立ち止まり、右足のサンダルを脱いでは素早く左足の足首をその右足でカサカサと掻いた。
その仕草が、どこか宗教の儀式のようで気味が悪かった。

女が足で足を掻いている間、俺は立ち止まって夜空を見上げた。
こうして歩いていれば、いつか西新宿の高層ビルが見えて来るだろうと、何度も何度も夜空を見上げたが、しかしどれだけ夜空を見上げても、いつもそこには虫の息のように弱々しく輝く東京の星しか見えなかった。

女は存分に足を掻くと、慌てて右足のサンダルを履き、少し先で立ち止まっている俺に駆け寄っては小声で「ごめん」と謝った。
女が隣に並ぶと俺はまた歩き出す。
新宿がどっちの方向かはわからないがとにかく歩き出す。

路地を抜けて大通りに出ると、また違う路地を探し歩いた。
大通りでは、白人の酔っぱらい集団が、「オーソーレーミーヨー」と気持ち良さそうに合唱していた。
俺は今ならば、「ヤンキーゴーホーム!」と叫べるのではないかとふと思った。
そう、なにかこの女と歩いていると、妙に心強いのだ。
たとえ所持金が82円であろうと、たとえ前科三犯の脛に傷持つ過去を持っていようと、たとえトルコ風呂チェーンの角海老グループから出入り禁止になっていようとも、この女といると何かやたらと心強いのだ。

今なら言える。
この女と一緒なら、この星条旗に汚染された終戦直後の闇市的なロッポンギ・ジャパンに対し、日本男児としてひと太刀浴びせてやる事ができるのではないかという力が湧いて来た。

よし!と俺は素早く逃げ道を目で探した。
あの路地に逃げ込めば言いだろう。もしヤンキー達が怒り狂って追って来たとしても、このサンダル履きの女が楯になってくれるはずだ。
俺は白人達を睨みながら腹に大きく息を吸い込んだ。
そして魂の叫びをヤツラに浴びせようとした瞬間、隣に女がいない事に気がついた。

慌てた俺は、腹に深く息を吸い込んだまま後を振り向く。
10歩ほど離れた所で、女は片足で立ったまま、右足で左足をカサカサと掻いていた。
それはまるで都会の真ん中に突っ立っているカカシのようだった。



俺と女は、再び六本木の路地裏を彷徨い歩いていた。
国際色豊かでキラビやかな表の顔とは裏腹に、六本木の路地裏にはなかなか庶民的な香りが漂っていた。
廃墟のような木造家屋の群れと、昭和の匂いがプンプン漂う安アパート。そんな心落ち着く町並を眺めていると、きっと新宿はこっちの方面に間違いないと、妙な自信が満ち溢れて来た。

そんな路地を歩いていると、女が急に立ち止まった。
どうせまた右足で左足を掻いているんだろうと、ゆっくりと後を振り向くと、女は路地の真ん中でしゃがんでいた。
しばらく俺はそのまま夜空を見上げていた。
木造家屋の屋根に掲げられている「シミヌキ」という意味不明な看板をジッと見つめながら、俺は女が歩き出すのを待っていた。

しかし女は動かなかった。
俺は無言のまま、しゃがんでいる女へと向かう。

「・・・どうした?」
俺はしゃがんでいる女の顔を覗き込んだ。
女は顔を俯かせたまま、「眠い・・・」とポツリと呟いた。
そんな女の息は、またしても寝起きのお婆ちゃんの口臭の香りがした。

「足・・・痒いの?」
俺はそう言いながら女の足下を覗き込んだ。
しゃがんでいる女の股間がチラッと見えた。
オレンジ色のワンピースの中に、白いパンツがキラリと輝いていた。

俺は、久々に見た他人のパンチラに、おもわず乾いた喉にゴクリと唾を押し込んだ。
俺は、女が俯いているのをいい事に、女の股間をジロジロと見回した。
そして、もしかしたらという感じで、女の胸元も、鼻の下を伸ばしながら覗き込んでみた。
俺のもしかしたらは的中した。
胸元が開いたワンピースを頭上から覗き込んだら、まんまと女の白いブラジャーと微かな胸の谷間がばっちりと拝む事が出来た。

「新宿はまだ?」
項垂れていた女が、いきなり気怠そうにそう呟いた。
俺は慌てて胸元から目を反らし、「もうすぐだと思う」と曖昧に答えた。

「足が・・・・」
女はそう言いながら、左の足首を右手でガリガリと掻き始めた。
深夜の路地裏に、まるでマラカスのような音が響き渡る。
「どれ・・・見せてみな・・・」
俺は、もう少し間近で女の股間を覗き見したいというスケベ心から、女の真正面に腰を下ろし、女の足首を覗き込んだ。
覗き込んだ女のその足は、見事な大根足だった。


大根足。
21世紀の世知辛いこの世の中で、すっかり忘れかけていた言葉。
そう、大根足。
俺は何年ぶり、いや何十年ぶりにこの言葉を思い出しただろうか。

大根足、大根足、大根足、大根足、大根足、大根足、大根足・・・・
俺は女のその太い足首を見つめながら、なんどもその言葉を心の中で繰り返した。
繰り返せば繰り返すほど、大根足という言葉の響きの良さに俺は酔いしれた。

大根足とは、いったい、いつ誰がどのような状況で吐いたセリフなのだろう。
それはもちろん、太い足が大根に似ていると言う事から付けられた言葉だろうが、しかしそれにしてもその表現はイカしてる。
いや、イカしすぎてる。

餅肌、鮫肌、猫背、ガニ股、象尻、団子っ鼻、福耳、スキっ歯、りんご頬。
体にまつわる隠語は数あるが、しかし、この大根足という言葉だけは、ズバ抜けてイカしている。
と、俺は思う。

俺は、丸見えの女の股間の事もすっかり忘れ、この大根足に取り憑かれた。
できれば触ってみたい。
いや、出来る事なら、その大根足に頬擦りをして見たいとさえ思った。

「ねぇ・・・」
女は俯いたまま気怠そうに口を開いた。
「行こうよ・・・・」

俺は、大根足とパンチラを覗きつつ、女のその唐突な言葉に「ん?」と首を傾げた。

「だから・・・行こうよ・・・」
女は面倒臭そうにそう言い、再び、カサカサカサっと大根足を掻いた。

「行くって・・・どこへ?」

「・・・ラブホテル」


遠くの方で救急車のサイレンが鳴っていた。野良猫が路地を横切り、民家の垣根の前で一瞬立ち止まると怪訝そうな目をして俺達に振り向いた。

「・・・ラブホテル・・・」
俺は、猫の黄色い目を見つめながら女の言葉を繰り返した。

ラブホテル。
それはとっても懐かしい響きだった。
あまりにも懐かしすぎて、俺は一瞬、それがなんだったのか考えてしまった程だ。

人はいつから、ラブホテルの事をラブホと尻尾切りに呼ぶようになったのだろう。
俺が、最後にラブホの事をラブホテルとフルネームで呼んだのはいつの頃だっただろう。
そんな事を考えながら、ふいに聞かされたこの懐かしい言葉に、俺はおもわず身震いした。

その呼び名は、時代と共に変化し続けている。
古くは、連れ込み宿、温泉マーク、等と呼ばれ、そのあまりにも露骨な表現に文化の欠片もなかった。
しかし、時代は高度成長期ともなると、モーテル、などとモダンな呼び名に変わって来たが、しかし、それではあまりにも表現力に乏しくボキャブラリーが貧困すぎた。
そして、ある時からソコは、ラブホテル、と呼ばれるようになった。

ラブホテル・・・愛の宿・・・。
なんというロマンチックな響きであろうか。
反面、なんといういやらしい響きであろうか。
まさに、セックスだけを目的とした宿なのである。

あの頃、誰もがアソコをこの名称で決まりだと思っていたに違いない。
アソコをこの呼び名以外には考えられないのである。

しかし、それさえも移り変わる時代は許さなかった。
総理大臣がすり替えられるかのように、いとも簡単に、ラブホテルという名はファッションホテルという呼び名に変えられた。

細いマユゲが流行った80年代が過ぎ、いきなり正反対に太いマユゲが流行った90年代。
夜な夜な街に溢れる、バブルに浮かれた浅野温子達と江口洋介達は、セックスのみを目的としたあのドスケベな場所を、こともあろうにファッションホテルと、呼ぶようになったのだ・・・・

しかし、そんなマユゲの太い時代もそう長くは続かなかった。
当然だ。
オマンコする神聖なエロ場を、ファッションホテルなどと美化した言葉で誤魔化す時代など、そうも長く続くはずはないのだ。

その後、木村拓哉をキムタク、マツモトキヨシをマツキヨと、なんでも短縮したがる時代に突入し、現在のラブホが生まれた。
俺は、あの最高傑作であるラブホテルを短縮したこの呼び名を結構気に入っている。
少なくとも、ファッションホテルを短縮した、ファショホなどと呼ばなかっただけでも、まだまだ日本の若者も捨てたモンじゃあないな、と嬉しく思った。

どうやら、我が国日本は、あらゆる時代を経験し、あの神聖なるオマンコ宿の名称を「ラブホ」と定着させようとしているようだ。
次の時代、果たしてどんな呼び名に変化するかはわからないが、しかし、恐らくここしばらくの間は、第三次世界大戦が起こらない限り、このラブホという呼び名で落ち着く事だろう。

そんな平和ボケした21世紀、俺は、深夜の六本木の路地裏で、正体不明の女から不意に「ラブホテル」という言葉を聞かされた。
それは、ふとテレビを付けたら、いきなり「カックラキン大放送」がやっていたような、又は電車の吊り革に掴まる女子高生の手提げカバンを何気なく覗いたら、西城秀樹と野口五郎と郷ひろみが表紙の「明星」がさりげなく入っていたとか、はたまた、駄菓子屋の前で遊んでいる子供達が「ドリフの早口言葉」を歌っていたとか、そんな懐かしい昭和にいきなりアッパーカットを喰らったような、そのくらい衝撃的な言葉なのである。


ラブホテルという言葉を吐いたまま、俺の目をジッと睨んでいるその女から、俺はゆっくりと目を反らした。
この、頭のおかしい大根足女とラブホテルで一夜を過ごせたらどれだけ楽しい事だろう。

しかし、所持金82円。

俺は静かに立ち上がると女を優しく見下ろした。
女の白く輝く大根足には、蚊に食われたと思われる丸い傷跡が赤く腫れ、それはまるで日の丸のように見えた。

俺は女から静かに背を向けた。
そしてゆっくり歩き出すと、民家の垣根から一部始終を見ていた野良猫が慌てて逃げ出した。

「・・・ねぇ・・・」
女の寂しそうな声が俺の背後に降り掛かる。
それでも歩き続ける俺は、さらば大根足さらばラブホテル・・・と未練を押し切りながら六本木の夜空を静かに見上げたのだった。

(大根足とラブホテル・おわり)


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