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地震過剰な男

2012/01/04 Wed 02:20

    地震
角嶋伝助は狼狽えていた。
飲みたくもない焼酎をグビッと喉に押し込みながらテレビを見つめる角嶋伝助のその目は暗い。
テレビでは町が津波に飲み込まれるシーンが連日映し出されていた。
それはまるでパニック映画の中のワンシーンのようだが、しかしその悲惨な光景は紛れもなく今起きている現実であり、それを見る度に伝助は、焼酎で真っ赤になった顔を犬のようにハァハァさせながら恐怖で悶え苦しんでいたのだった。

(私には何も出来ない・・・)

津波の濁流に飲み込まれて行く家や車、そして被災した人々。
そんなシーンをテレビで見る度、角嶋伝助はつくづくそう思う。
そしてそんな自分の無力さに憤りを感じながらも、また飲めない焼酎を無理矢理一気に飲み干すのだった。

「あんた・・・まだ起きてんの・・・」
トイレから出て来た女房の松子が、居間で震えいた伝助をジロッと睨みながらあくび混じりにそう言った。
(トドだ・・・)
伝助はピンクのネグリジェに包まれる肥満の松子を見て素直にそう思った。

「いつまでそんなテレビ見てんのよ・・・電気代もったいないでしょ・・・明日も早いんだからもう寝なさいよ・・・」

松子は伝助を見下ろしながら面倒臭そうにそう言うと、卓袱台の伝助に向かって「ふあぁぁぁ」っと巨大なあくびを吹き掛け、そのままムクミ80%の太い足をドタンドタンと音立てながら寝室へ消えて行った。

松子が去った後も、松子の体内から噴き出された巨大あくびの饐えた匂いが居間に漂っていた。
伝助はそんな松子の口臭に包まれながら「寝起きの松子の口臭は凶器だ」とつくづく思う。
松子が寝室へ消えると同時にドタバタという元気な足音が響いてきた。
「僕もシッコー!」
今年4年生になる長男の勝助と今年から小学校に通う次女の光子が競い合うようにして子供部屋から飛び出して来た。
勢い良く子供部屋から飛び出してきた勝助は、居間の伝助に気付くと「父ちゃんまた地震見てるの?」と、安物の青いパジャマの上から腋をボリボリと掻きながら不思議そうな顔をして伝助を見た。
勝助が足を止めた隙に、安物のピンクのパジャマを着た次女の光子がトイレに飛び込む。
勝助は「ちっ」と忌々しく舌打ちしながら「僕が先だろー!」と大声で叫び、トイレのドアをガンガンと叩き始めた。
それと同時に「ドドドン!」という激しい音と揺れが床から響いた。
地震だと思った伝助が「ひっ!」と慌ててコタツの中に潜り込むと、すかさず階下から声が響いた。

「っせぇぞ!いいかげんに寝ろバカ!」

それは二階の田宮さんの旦那さんの怒声だった。
田宮さんはモップか何かで天井をドンドンと突いているらしく、コタツの中で床に這っている伝助の腹部にその怒りの振動が伝わる。
常日頃から、階下に住む二階の田宮さんからは「子供の走る音が響いてうるさい」と注意されていた伝助は慌ててコタツから飛び出すと、トイレの前で取っ組み合いをしている二人の子供を抱きかかえ「静かにするんだ田宮が怒ってる!」とピシャリと叱ったのだった。

子供達を寝かしつけた伝助は再び居間の卓袱台に腰を下ろした。
カーテンの隙間から見える窓の外はまだ真っ暗だった。
時計を見ながら「早く夜が明けろ・・・」と呟く伝助。
伝助はかれこれ3日間徹夜していた。
いつ自分が住む地方にも大地震が起きるかも知れないと畏怖する伝助は眠れないのだ。
だからこの3日間、外が明るくなるまでグビグビと焼酎を煽りながらテレビの地震情報ばかりを見ているのだ。
おかげで伝助の頭の中では「こんにちは♪こんにちワン!ありがとう♪ありがとうさぎ!」のCMがずっと離れず、頭の中で延々とリピートしている。
しかしそろそろ限界だった。
朝の5時に寝て7時に松子に叩き起こされ、8時には会社に出勤する毎日。
そんな、1日2、3時間の睡眠しか取っていない伝助は、その睡眠不足と極度な地震恐怖症がプラスされ、更には二階の田宮さんに気を使い、トドのような女房の口臭に吐き気を催し、言う事を聞かないガキに腹を立て、そして飲めない焼酎を煽る。
もはや伝助はノイローゼに陥り、頭の中で繰り返し流れている、かのCMも、まるで早送りの如く恐ろしいスピードで流れ始め、その歌詞も「こんにちマンコ」や「ありがとオメコ」などと混乱を来していたのだった。

(寝ないとマズい・・・このままでは壊れてしまう・・・)

いよいよ自分の精神状態が危ういと感じ取った伝助は、テレビを付けっぱなしにしたまま居間のコタツに潜り込んだ。
醤油のシミだらけの座布団を2つに折り畳み、その2つに折り畳んだ座布団の隙間にソッと頭を押し込む。
こうすれば枕としても活用できるし、又、地震の際には座布団が頭を守ってくれるのだ。
伝助は座布団の中で静かに目を綴じた。テレビから聞こえて来るアナウンサーの声に耳を澄まし、いつ「ピロンピロンピロン」っという緊急音が鳴り出すかと脅えながらも静かに眠りについたのだった。

ふいに目が覚めた。
折り畳まれた座布団の中に頭を突っ込んだまま、焼酎と寝不足で朦朧とした意識が何かを必死で訴えようとしている。
(なんだ?・・・・)
伝助は座布団からソッと顔を出しカーテンの隙間を見る。外はまだ真っ暗でまだまだ夜明けには程遠い。

「震度5強です!只今震度5強の強い揺れが――」

必死なアナウンサーの声が伝助の耳に飛び込んで来た。
伝助は一瞬にして固まった。
画面に映る白いヘルメットを被ったアナウンサーは、「まだ揺れています!まだ揺れています!」と叫びながらスタジオ内をあたふたと見回している。

(どうしよう・・・死ぬ・・・・)

その震度5強のあった場所からは遥か遠くに離れている地方に住んでいる伝助ではあるが、しかし、生まれてこの方、生粋のテレビッ子で育って来た伝助にはテレビへの感情移入が激しすぎたのだ。
慌ててコタツの中に潜り込んだ伝助は、ガクガクと震えながらも床に顔を押し当て、必死で階下の田宮に語りかけた。

「田宮!怖いだろ!オマエも怖いだろ!」

伝助は怖いのは自分だけではないという安心を得たいが為に、床に口を押し当てては階下の田宮に囁く。
コタツの外からは「また余震です!たった今、震度3の余震が――」というアナウンサーの声が聞こえ更なる恐怖が伝助を襲う。

「田宮!なんとか言えよ田宮!怖いだろ!さっきみたいにモップでドンドンと突いてくれよ!本当はオマエも怖いんだろ!自分に正直なれよ田宮!」

 伝助がしゃがれた声でそう叫んだ瞬間、コタツの外から松子の声が聞こえた。

「あんた・・・いいかげんにしなよ・・・・」

松子はテレビのリモコンを手にすると、今まさに地獄絵図となっている恐怖のスタジオ風景を無惨にもプツっと消した。
突然、シーンと静まり返った部屋に、溜息を吐く松子が自分の体のどこかをガサガサと掻いている音だけが響き、それをコタツの中で聞いていた伝助はすかさず獣を想像した。

「あんたね、一晩中こんな番組ばかり見てるからおかしくなっちゃうんだよ。ほら、早く寝室に来て寝なよ・・・」

松子はコタツからニョキッと出ている伝助の足を蹴飛ばしながら低い声でそう呟いた。

まるで狼に追いかけられたウサギが巣の穴からソッと顔を出しては様子を伺うかのように、伝助が恐る恐るコタツから顔を出す。

「でも、震度5強の地震が・・・」

今だ体内余震で震える体をブルブルと小刻みに揺らしながら伝助がそう呟くと、松子は仁王様のような目で伝助を見下ろしながら「早く寝ろ」と、寝起きの饐えた口臭を吐きかけては唸ったのだった。

伝助が強制的に寝室のベッドに寝かされたのは、まだ夜明けには遠い3時半だった。
この時間帯を最も怖れている伝助は、壁と松子に挟まれるようにしてベッドの中に監禁された。
伝助の目はギンギンに冴えていた。
体は悲鳴をあげるくらいに疲れていたが、しかしその神経は針が落ちる音さえも見逃さぬくらいに敏感になっていた。
身動きひとつせず真っ暗な天井をジッと見つめながら息を潜める伝助。
その隣で海獣トドのような巨体の松子が狂ったような鼾をたてている。

(こいつには危機管理能力というものがないのか・・・)

伝助は耕耘機の音のような鼾をたてて眠る松子の横顔をソッと横目で見た。
実際、避難所などでは、こんな松子のような人間が他の被災者達に迷惑をかけているんだろうと伝助は思う。

(この女にとってあの大地震は人ごとなのだ。まさか自分にあの災害が襲いかかるとは夢にも思っていないだろう・・・)

そう思いながら松子の醜い寝顔を見ていると急に腹が立って来た。
そしてついでに隣の子供部屋で寝ている平和ボケした子供達にも猛烈に腹が立ってきた。

(あいつらは誰かが助けてくれると思ってるんだ。いや、その前にあいつら子供は絶対に地震や戦争なんか起こらないと信じ込んでいる・・・)

学校は子供達にいったい何を教えてるんだ!と、自分の毎月の昼飯代よりも遥かに高い給食費と重ね合わせて伝助は無性に腹が立って来た。

(地震大国とまで呼ばれている危険なこの国で、なにが因数分解だ!なにがメソポタミア文明だ!なにがグリコーゲンだバカモノ!そんな意味不明な事を教える前に、徹底して地震による危機管理を子供達に植え付けるべきだろ文部省!)

そう怒りながら伝助は、この地震騒動が終わったら何が何でも子供達をアフガニスタンの学校に留学させようと本気でそう思う。

猛烈な怒りで尻の谷間を汗だくにしながら、続いてその怒りを階下の田宮にぶつけた。

(なんだあの男は!心が狭い!たかだか子供の足音くらいでギャーギャー騒ぎやがって!もしこれが避難所だったらどうするんだ田宮!そうさ、きっとおまえはそれでも子供達に『うるさい!』とモップで壁をドンドンと突くだろうよ田宮!おまえはそんな血も涙もないイライラ冷血人間なんだ田宮!)

カッカカッカと頭に血が上る伝助は尻に汗をびっしょりとかきながらも、いっその事、本当にこの町にも大地震が来てこの平和ボケしたバカ共を徹底的に苦しめてやればいいんだ!と強く願った。

と、その瞬間、不意に寝室の壁がミシミシっと不気味な音を立てた。
脳味噌に氷水を垂らされたようなショックが伝助を襲う。
一時停止したまま暗闇の一点を見つめていると、ユッサ、ユッサ、ユッサ、ユッサ・・・・・と部屋が横に揺れた。
揺れは一瞬にして止まったが、しかし伝助の心臓がドクドクと激しく鼓動していたため、伝助の中ではまだ揺れが続いている。

(もう一回来るか?・・・来るのか?・・・)

そう思いながら伝助はそのまま死んだフリをした。
しばらく息を潜めて死んだフリをしていると、突然、枕元に置いてある携帯からメール音が鳴った。
伝助は地震に気付かれはしまいかとビクビクしながらソッと携帯を手に取ると、地震が起きると届くように設定している地震メールをソッと開いた。

《地震情報・3月15日4時23分頃地震がありました》

そんなメールを開くと、今の地震の震源地やマグニチュードが表示されている。
そんな情報に記された最大震度は『2』だった。
震度2。
今までの伝助ならば、たとえ震度2であろうといてもたっても居られなくなり、とりあえず団地の外に飛び出しては夜空に向かってデタラメな般若心経を唱えていたであろう。
が、しかし、この時の伝助は妙に落ち着いていた。
それはきっと、さっきのテレビに映っていた、自分よりもずっと歳の若い女性アナウンサーが震度5強の地震の中で必死になって己の使命を遂げようとしていたあの勇敢な姿を見たからに違いない。
(あんな小娘でも必死に耐えてるんだ・・・)
不意にそんな勇気を与えられた伝助は、なにやら急に心強くなった。

「来るなら来い!」

勇ましく腕を組みながら暗闇に向かってそう叫ぶ伝助は不敵にニヤリと微笑んだ。
震度2でも全く脅えなかった自分に「よく頑張った!」と拍手を送りたい気分だった。
すると再び壁がミシッ!と音を立てた。
伝助の金玉がヒヤッとした瞬間、いきなりドドドドドッ・・・・という地響きが聞こえ、とたんに部屋中がガタガタと激しく揺れ始めた。

「ごめんなさい!嘘です!」

ベッドで寝ている体をユサユサと揺らされながら伝助は必死で謝罪した。
誰宛に謝罪すればいいのかわからなかったが、とにかく今は地球様に謝るしかないと思った伝助は、部屋の隅でガタガタと震えるタンスを見つめながら「地球様ごめんなさい!」と何度も謝罪した。
そんな伝助の謝罪の甲斐があってか、揺れはだんだんと静まり、それ以上の激しい揺れを起こす事無く鎮静化してくれた。
揺れが治まったと同時に伝助は隣で寝ている松子に声を掛けた。
そんな松子は何事も無かったかのようにグガァー!と大きな鼾で伝助に答えた。
伝助は松子の巨体を揺さぶりながら「おい!起きろ!」と叫んだ。
しかしあれだけの大きな地震でも起きなかった松子だ、伝助が揺さぶった所でそう簡単に目を覚ますはずがない。
伝助は焦った。
今の揺れで、この築三十年は経っていると思われる老朽化した団地が音を立てて崩れ落ちるのではないかという恐怖に駆られたのだ。
しかし松子は半開きにした唇から臭い息をフガーッと吐きながらピクリとも目を覚ます気配はない。
伝助の脳裏に恐怖で脅える子供達の姿が急に浮かんだ。
伝助は急いでベッドを飛び出すと、子供部屋に向かって走った。
そして「大丈夫か!」と子供部屋のドアを開けると、そこには母親ソックリな寝顔でグースーピーと子憎たらしい鼾をかいでいる勝助と光子がいたのだった。

ベッドに戻った伝助は、息を殺しながら階下の音に耳を澄ました。
階下に住む田宮は市役所に勤めている。市役所での田宮の地位がどれほどのものかは知らないが、しかし緊急事態ならばきっと田宮にも何らかの情報が入り、召集命令が出された田宮は駆り出される事だろう。
そう思った伝助は、階下の田宮が動き出さないかどうかをこっそり探っていたのだ。
しかし階下からは何の動きも感じられなかった。
すると再び伝助の携帯メールが鳴り出した。
開いてみると震度4。

「地球の野郎・・・ふざけやがって・・・」

急に伝助にそんな怒りが込み上げて来た。

(いったい私がキミに何をしたと言うんだ?・・・)

ベッドの中から天井を睨む伝助は地球に話し掛けた。

(どうしてキミはそんなに人を脅かすんだね。そんな事をして楽しいのか?・・・そりゃあ私はあんたの背中に勝手に乗っかっては図々しくも生活している人間だよ。あぁそうさアンタにとったら私はコバンザメみたいなヤツだよ。でもな地球よ、私たち人間がいるからこそアンタは地球と言う名で呼ばれ、我々から崇められているんだろ、違うか?これが猿や恐竜だったら、アンタと言う存在はなかったんだぜ。わかるだろ私の言ってる意味が。だったらなぜキミは私たち人間を脅かすんだ。キミとはこれまでも共存共栄で仲良くやって来た仲じゃないか。そりゃあオゾン層の問題だとか排気ガスだとか色々な問題はあるだろう。だけどキミ、実力行使はいかんよ実力行使は。それじゃあまるで北の狂った独裁者と同じじゃないかキミ・・・)

そう心で呟いていると、再びズシッ!という鈍い音が部屋を揺らした。
恐る恐る目玉を動かし部屋中を見回す伝助。
それ以上の揺れがこないとわかると、再び激しい憤りが伝助を襲う。

「ハッキリ言ってこの五十年間!私はあなたの事が怖くて怖くて堪りませんでした!」

そう天井を指差しながら叫ぶ伝助は敬語だった。
かなりビビっている。

「あなた様が何をお怒りになっているかは私は存じません。日頃は穏便なあなた様がこれほどまでにお揺れになると言う事は、それ相当の理由があるからだと思います。しかしですね、あなた様のそのお怒りは、私に関係する事なのでしょうか?・・・私はこの五十年の間、いつもあなた様に脅かされ続けてますが、いつもあなた様にこうやって脅かされる度に、『私がいったいオマエに何をした?』ってつくづく思うんです」

ここはあえて、オマエ呼ばわりしてやった。
この場合、誰が見たって自分のほうが正論だと思った伝助は、相手を挑発しない程度でさりげなく上から目線でものを言い、そうやって相手の逃げ道(言い分)を少しずつ少しずつ塞いで行く方法を取ったのだ。

「だからさ、どうだい。ここらで和解しないか?・・・今までの事はさ、こっちも水に流すよ。オマエが私を五十年間脅かし続けた事はさ、この際私も男らしく綺麗サッパリ水に流すよ。だからさ、オマエもここは大人になってさ、これ以上駄々っ子みたいな恥ずかしいまねはやめようぜ。な、そうだろ?」

ユッサユッサユッサユッサ・・・・・
再び部屋が揺れた。
今度の横揺れはスピードは穏やかではあるが、しかしその揺れる範囲は長い。
伝助はこの揺れがこのまま遊園地のバイキングのように大きくなるのではないかと肝を冷やした。

「嘘です!ごめんなさい!本当にごめんなさい!摩訶般若波羅蜜多心経!観自在菩薩!本当に本当にごめんてばっ!」

横揺れはそのままドドドドっという地響きを鳴らした。
タンスの上からは、何十年も前に同僚の笠寺の結婚式で貰った『引き出物のクッキー』の缶がガタガタと音を立てて落ちて来た。

「笠寺ぁぁぁ!おまえも私を裏切るのかぁぁぁ!」

ドドン!ガガン!ドドドド!
部屋中のありとあらゆる物が音を立て、まさしくエクソシストのベッドのように激しく揺れるベッドの上で、あまりの恐怖にパニクった伝助は遂にキレた。

「何が地球に優しいエコプロジェクトだバーカ!バーカ!キサマなんか今からもっともっと排気ガス出しまくって苦しめてやるから覚悟してろよ!空に向けてフロンガス撒き散らしてやるからその時吠え面かくなよこの巨大金玉!」

伝助が号泣しながらそう叫んだ瞬間、隣の松子が「うるせぇキチガイ!」と一喝した。
「ひっ!」と喉を鳴らした伝助は、いきなり叱られた子供のように泣き顔のまま絶句する。
そんな松子の叫び声と同時に激しい揺れが一瞬にして止まった。

「・・・あんた・・・さっきから何を一人で叫んでんだよ・・・」

松子は、先程よりも濃厚になった口臭をモワッと伝助の顔に吹き掛けながら、野太い声でそう言った。

「いや、私は何にも悪くない。悪いのはアイツだ」

伝助は今だ興奮冷めやらぬ口調で、涙混じりの鼻汁をズルズルッと啜りながら松子にそう訴える。

「アイツって誰よ・・・・」

松子がカミソリのような一重瞼でジロッと睨みながら聞いた。

「・・・地球・・・」

伝助がそう答えた瞬間、松子は大きな巨体をズリズリと反対側に向けながら呟いた。

「地球に怒ったって仕方ないだろ・・・事故も地震も運命なんだよ・・・運命には逆らえないんだアホ」

松子は伝助に背を向けてそう呟くと、カバのような大きな尻からバスッと鈍い放屁をやらかした。

今までの地震がまるで夢だったかのように静まり返った部屋で、ベッドに潜る伝助は松子の体内から吐き出されたガスの匂いを静かに嗅いでいた。
黙ったままジッと見つめていた松子の後頭部に、氷砂糖のようなフケがひとつあるのを見つけた伝助は、自分が今こうしてこの時間に妻のこの巨大なフケを発見したのもやはり運命というものなのだろうかとふと思う。
しばらくすると窓の外からチュンチュンというスズメの鳴き声が聞こえて来た。
布団からソッと窓に目をやると、カーテンの隙間から薄暗い青い光りがボンヤリしているのが見えた。
そんな青い光りに安堵を覚えた伝助は、避難所にいる被災者達も今頃はこの青い光りに安心しているんだろうなぁ、とふと思った。
そう思ったら地球も満更悪いヤツではないんだなと、そんな気がした伝助は、明け方の青い窓に向かって「日本の夜明けは近いぜよ!」と坂本龍馬のマネをし、そのまま松子のガスが充満する布団に潜り込んだのだった。


(地震過剰な男・完)


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