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キャバ嬢の暴挙

2012/01/04 Wed 02:20

    キャバ
 かれこれ4回目の暴挙だった。
 それをやらかしてしまった私は、村松さんの饒舌なお世辞を聞き流しながら、それがバレぬようにそっとソファーのクッションにお尻を深く深く押し付けた。
 するとまたしてもすぐに5回目の暴挙が私の下腹部でプクッと溜った。

 これ以上はマズい。
 今度ばかりはこの鈍感な村松さんでもさすがに気付くだろうと思った私は、村松さんに向かって「みんなにも同じ事言ってるんじゃないの、もう、村松さんったらぁ」などと甘えた口調で唇を尖らせながらホホホホホと笑い、ソファーに座っていた両足をソッと宙に浮かした。
 こうすれば更に私のお尻はソファーのクッションへと深く沈み、その暴挙の音と匂いが封じ込められると思ったからだ。

 だけどそれは甘かった。
 これなら大丈夫だろうと思うその考えが甘かった。
 私が暴挙に及ぼうと、両足を床から少し浮かせてはお尻をソファーに深く押し付け、そのまま下腹部に一気に力を入れてスーッとやらかした瞬間、なんと、実に不運ながらも村松さんが「何言ってんだよ俺は生涯美佐子1人だけだよぉ」などとだらしない顔をして、その大きな体を私の体にしなだれかけてきたのだ。
 密かに暴挙に及んでいた私の体が村松さんの反対側へと傾き、必然的に私の尻が村松さんに向けられた。
 すると、ほんの微かにではあるが、私が座るソファーの真下から「カァーッ」という、まるでクチバシに座布団を押し付けられたカラスの鳴き声のような屁音が響いたのだ。

 そんな私の暴挙に、一瞬村松さんはその饒舌をピタリと止め「えっ?」と私の顔を見た。
 すかさず私も「えっ?」と、これ以上にない、自分の中で最もカワイイと思っている勝負顔を村松さんに向けながら、そのマスカラをびっしりと塗り込んだツケまつげをパチパチさせた。
 村松さんの視線はゆっくりと私の太ももへと降りて行く。
 私は慌ててソファーのクッションに染み込んでいる匂いを防ぐが如く、その小さな尻をソファーにグッと押し付けた。
 そして、私の尻辺りを見つめながら何か言おうとした村松さんに、私はすかさず村松さんの手からグラスを奪い取ると、そのグラスに付いた水滴をおしぼりで手早く拭き取りながら、「私もゴルフ、やってみよっかなぁ・・・」などと、村松さんが最もノって来そうな話題へと強引に話しを変える。
「えっ?・・・本当?」
 村松さんは性欲剥き出しの赤い目をギラギラさせながらすぐに私の話しに身を乗り出して来た。
「うん・・・でも、私にできるかなぁ・・・私、こう見えて凄く運動神経悪いのよ・・・」
 私はそう「くすっ」と笑いながら水滴を拭き取ったグラスをテーブルの上にコトッと置くと、うまく誤魔化せたと心の中で細く微笑んだ。

 すると、それを見計らったかのようにボーイがスっと私の横に膝を付き、「美佐子さん御指名お願いします」と、他のテーブルからの指名を告げにやって来た。
 タイミングが悪過ぎる・・・。
そう思いながら私は、その笑っているのか泣いているのか怒っているのかわからないような般若顔のボーイを横目でキッ!と睨んだ。
 もう少し、あとほんの数十秒前だったなら、わざわざこんな危ない橋を渡らずとも、暴挙を堪えたまま「ちょっと行ってきまーす」と素早く席を立ち、ソッと化粧室に忍び込んではしめやかにガスを葬る事ができたのに・・・。

 私はそのタイミングの悪さに、お門違いにもそれを告げに来たボーイに八つ当たりしながらも、村松さんに向かって「ごめんね、ちょっと行ってきます」と微笑みながら、歯垢を落としたばかりの真っ白な前歯をグロスたっぷりの唇からわざとニッとさせながら、自分のグラスの口にコースターをソッと乗せた。

「話しの続きしたいから、すぐ戻って来てよね」

 私が5回も暴挙したというのに、何も知らない村松さんは子供のようにそう甘えた。
 そんな村松さんに「うん」と可愛く返事をして私が席を立とうとした瞬間、不意に今自分が座っているソファーの尻の中心部分が妙に熱を帯びているのに気付いた。
 今ここで尻をあげるとクッションに染み込んだ匂いが洩れる恐れがある・・・・
 瞬間的そう思った私は、浮かした尻をもう一度ソファーに深く押し付けた。

 はっきり言って今夜の私の屁は臭い。
 ここ5日ばかり便秘が続いている私の屁は、自分で嗅いでも自殺したくなるほどに臭い。
 こんな匂いを、せっかくの金ヅルである村松さんに知られてしまったら、さすがの村松さんでも百年の恋が一瞬にして冷めてしまうというものだ。

 そう思いながら再び座り直した私に、村松さんは「どうしたの?」と不思議そうに見つめた。
 私はすかさず、天井のダウンライトの灯りが顔に当たるように意識しながら、そのキラキラと輝く瞳で村松さんを見つめ、「うん・・・なんとなく、もう少しここにいたいなぁって思って・・・」と、わざと白痴的に微笑んだ。
 すると村松さんは、そんな私を、「可愛くて堪らない」といった眼差しでジッと見つめては、「お、俺の事なら気にしなくていいよ、今夜はもう一回延長するからさ、とっととあっちの客、終わらせて来なよ」などと辿々しく言い、私が暴挙を隠滅している事も露知らず、私の収入に貢献してくれたのだった。
 私はそんな村松さんに「ありがとう」と微笑みながら、今だ尻の下で熱を帯びる暴挙が洩れぬようにと、小さな尻でソファーをギュッと押さえつけていたのだった。

 しばらくすると、そこに先程の般若顔したボーイが再び現れ、私のヘルプである新人のユリカちゃんを連れてやって来た。
「ユリカでぇーす」
 まるで八十年代のアイドルのように大きな八重歯を曝け出しながら村松さんに微笑むユリカちゃん。
 すかさず私は、その肉付きの良いドテッとしたユリカちゃんの尻を見つめながら、これならば完全に蓋が出来る、と睨んだ。
 そして同時に、もし私が席を立った後にソファーからガスが漏れたとしても、きっと村松さんは、その暴挙は私ではなくこのポッチャリ娘のユリカちゃんだと思うに違いない、と確信したのだ。

 そう企んだ私は、村松さんの右側に腰掛けようとしているユリカちゃんを素早く呼び止め、「村松さんは左利きだから、こっちの席にどうぞ」などと、尤もらしい理由を付けながらユリカちゃんを自分の席へ手招きした。
 このソファーにとんでもない陰謀が隠されている事など何も知らないユリカちゃんは、太ももと足首が同じ太さと言う不気味な生足をドレスから曝け出しながら「はーい」などと可愛く返事し、スタスタと私の席へとやってきた。
 私はユリカちゃんが目の前に来るまで席を立たなかった。
 そして何も知らないユリカちゃんが「美佐子さんすみませーん」などと言いながら私の前に立った瞬間、私は立ち上がり、「はい、どうぞ」と、素早くユリカちゃんをその熱を帯びた席に座らせたのであった。

 私は後も振り向かないまま、そそくさと化粧室へと向かった。
 本日6回目の暴挙がすでに下腹部でくすぶっていたからだ。
 大勢のお客達の笑い声が響くフロアを、指名ナンバーワンの私は華麗にモンローウォークする。
 お客達は隣りに座る女の子達と語らいながらも、そんな私の華麗な姿を横目でこっそりと追う。
 私の尻から、「プッ・・・プッ・・・プッ・・・」っと少しずつガスが漏れているとも知らず・・・

 従業員用の化粧室に入った私は、さっそくドレスを着たまま便器に腰を下ろし、下腹部でくすぶっていたガスを一気に放出した。
 スパスパスパ、っという殺伐とした音が白い便器の中で響く。
 ここで全て出し尽くしておかなければと思った私は、ラマーズ法のような呼吸と共に下腹部に力を込めては一気に押し出した。

 スパスパスパスパスパスパッスー・・・・

 連続して発射されたガスは、最後は不気味に「ピリリリっ」と締めくくり、微妙な振動を肛門に響かせた。
 便器の中に籠るそのガスは、人間業とは思えぬような強烈なニオイを発していた。
 5日間、溜まりに溜った便のそのほとんどは焼肉だ。
 何の因果かこの4日間、閉店後のアフターは、立て続けに焼肉屋だったのだ。
 ニンニクが効いたカルビやユッケやレバーやテールスープといったブツが、5日間私の腸の中で沸々と蠢いている。
 そんな魑魅魍魎としたブツがぎっしりと詰まった腸から洩れるガスは、熱く重くそして強烈に臭かった。

 私はゆっくりと便器から立ち上がると、洗面所の前にある鏡をソッと覗き込んだ。
 そこには、そんな強烈な悪臭ガスとは縁もゆかりもない美女がキラキラと輝いていた。
 私はそんな自分をうっとりしながら見つめ思う。
 あと3年。3年経てば私も26才。あと3年はこの業界で稼げるだけ稼ごう。それまではどんな事があっても、今のナンバーワンの地位は誰にも譲らない・・・・。

 私はそう思いながらも、不意に愛理さんの事を思い出した。
 愛理さんというのは、私がこの店で頭角を現すまでナンバーワンの座に座っていた、新宿界隈ではトップクラスのキャバ嬢だった。
 愛理さんは、私たち女から見てもうっとりするほどの美女だった。
 しかも性格は優しく、接客も上手く、そして何よりも気品があった。
 そんなキャバクラの女王とまで呼ばれた愛理さんが、ある日を境に人気が急降下し、そして突然この業界を去ったのだ。

 男か?借金か?ドラッグか?
 違う。
 愛理さんは重度の歯槽膿漏だったのだ。

 イメージと接客が売りのキャバ嬢にとって口臭は致命傷だった。
 しかも愛理さんの場合、歯磨きやガムや口臭スプレーといったもので誤魔化しがきくような、そんなヤワな口臭ではなかったのだ。
 そんな愛理さんが放つ歯槽膿漏の強烈な口臭は、たちまちお客達をパニックに陥れた。
「高い金を払って来ているのに、なんだあの口の臭い女は!」と、次々にクレームが相次ぎ、あれだけ熱狂的に店に通っていた愛理さんの客も1人また1人と消えては、いつしか愛理さんも新宿から消えて行ったのだった。

 私は、そんな愛理さんをふと思い出しながら、肛門にキュッと力を入れた。
 愛理さんと同じ道を歩みたくはない・・・・
 私は鏡に映る自分にそう言い聞かすと、もう一度下腹部に力を入れてリキんでみた。
 よし。もう出ない。
 あと3年。あと3年はどんな事があってもこの地位を手放すものか。
 そう心に誓いながら、新たな指名客が待つフロアへと私は飛び立って行ったのだった。

「御指名ありがとうございます」
 私は天井から降り注ぐダウンライトの位置を意識しながら、その団体客のテーブルの前で汐らしくも最強の笑みを浮かべた。
 この店のナンバーワン嬢の登場だゾ、と心の中で呟きながら馬鹿な客達を見下ろしてやる。

「おお!待ってたよ美佐子ちゃん!」
 すかさずカッパハゲの親父がパン!と手を打ちながらそう叫んだ。
 彼らは栃木の農協に勤める親父達だった。
「こっち!こっち座りなさい美佐子ちゃん!」
 その中でも一番威張っているカッパハゲの三田村部長は、右手で私を手招きしながら左手で自分の隣りの席をパンパンと叩きながらそう叫んだ。

 この栃木の農協団体は、月に1度、首都視察と言う名目で上京しては、その度にいつも店に来てくれる上客中の上客だった。
 皆それぞれに下品でスケベな田舎親父の集まりだったが、しかし金払いはいい。
 この不景気の中、経費だ経費だと言っては金を湯水のように使いまくるこの栃木農協親父集団は、私にとっても店にとってもヨダレが出るほどにおいしい客だった。

 特に、私を気に入ってくれているこの三田村部長はおいしかった。
 私が最強の笑みを浮かべて頼めば、3万円のフルーツ盛り合せでもドンペリでも顔色ひとつ変えず「持って来い!」と胸を叩いてくれるのである。
 そんな三田村さんは絶対に離したくない客の1人だ。
 だから、絶対にこの席での暴挙は許されない。

「ありゃりゃ?ちょっと会わねぇうちに、ちょっと太ったんじゃねぇっぺか?」
 三田村さんはそう言いながら私の胸にサラリと触れて、ぎゃははははと臭い息で笑った。
 これが新規の客だったなら私は迷わず席を立つ。
 しかし三田村さんは月に1度のボーナスだ。
 私はグッと我慢しながら、それを顔に出さないように「やだぁ」と天使のような笑顔で微笑んだ。
 しかし、そんな我慢が祟ったのか、次第に私の下腹部にグツグツと暴挙が膨れ上がって来た・・・。

 この栃木農協団体は、三田村さんを含め6人の親父達がいた。
 その6人の親父達の隣りに、私を含め6人のキャバ嬢達がいる。
 総勢12人。
 村松さんのような一対一のタイマン客とは違い、この席は人が大勢いる分暴挙もしやすいが、しかしその分リスクは大きい。
 これだけの人前でもし暴挙がバレようものなら、私はもうこの業界では生きては行けないのだ。
 そんなプレッシャーが私の下腹部を圧迫し、濃厚なガスの生産を更に活発化して行った。

 私は、三田村がくだらないギャグでドッと場を沸かす度、「やだぁ!」と嘘笑いをしながらも、ソファーに尻を押し付けては少量ずつのガス抜き作業を謀った。
 そうやって少しずつ少しずつ暴挙を繰り返しながら、そこにムンムンと溜るエネルギーをソファーのクッションの中に放出して行ったのだ。

 しかし、そんなソファーに貯蓄されたガスは、少しずつだが確実に洩れていた。
 私が三田村のその下品なギャグに大きなリアクションの嘘笑いしながら、少しでも尻をズラそうものなら、そのクッションに貯蓄されているガスが尻の隙間からふわっと洩れ、一瞬、大根おろしのようなニオイが私の周りに立ち籠める。

 それは、ほんの一瞬漂う程度のものであり、私の隣りに座っている三田村や、その反対側に座っている京香ちゃんにバレるほどのニオイではなかったが、しかし、いつかはバレる。
 このまま、この暴挙をソファーのクッションの中に封じ込めておく事は不可能だ、新たなる暴挙を更に繰り返す事によりいつかこの暴挙はソファーのクッションから・・・・

 その時の状況を思い浮かべた私が身震いしたその時、いきなり私の横で「ププぃ!」という、まるで幼稚園児が口に溜めていた空気を、一気に窄めた唇から吐き出すような、そんな幼稚な音が響いた。
 その瞬間、いきなり三田村が席を立ち上がった。
 そして席に並ぶ皆に向かって、その幼稚な音の出た尻を向けながら「しっつれーい!」と戯けて頭を掻いたのだ。

 そんな三田村の暴挙に、一同はドッ!とウケた。
 私はそんな三田村に「やっだぁ三田村さん、オナラなんかしてぇ」などと愛想笑いを浮かべながら、腰を下ろした三田村の肩をポンッと叩く。
 すると三田村は、少し照れながらも往年の藤山寛美のような顔を私に向けながらヘラヘラと笑った。

 正直言って私はそんな三田村が羨ましくて堪らなかった。
 そんな三田村のキャラも、そんな三田村の立場も、そして彼のその生き方や、そんな暴挙を許す農協という組織さえも羨ましくて羨ましくて堪らなかった。

 この人は・・・自由人なんだ・・・

 私がそう思った矢先、再び三田村の尻から「パヘッ!」という奇妙な爆発音が響いた。
 すかさず三田村は柿の種をツマミながら、「しっつれーい」とさりげなく叫ぶ。
 再び、ドッ!と皆が笑った。

 そうやって皆が笑ってくれる事が余程嬉しいのか、その後も三田村は次々に犯行に及んだ。
 しかしその度に三田村は「しっつれーい」のその馬鹿げた一言で無罪釈放される。
 放屁する度に好感度をあげていく栃木の百姓と、その一発で人生を棒に振るキャバクラ嬢。
 同じ人間でありながらもこの差はかなり大きい。
 そう、今の私にとってその差は、野生のライオンと動物園のライオンくらいの差があるのだ。
 自由になりたい・・・
 私も、この栃木の百姓のように、下腹部でブスブスとくすぶっている大量のガスを皆の前でおもいきり放屁して「しっつれーい!」と戯けてみたい。
 そんな事を思いながらも、その光景を妄想してはその開放感に包まれていた私の横で、再び三田村が暴挙に出た。

 いきなりひょっこりと席を立ち上がった三田村は、一斉に振り向いた皆に向かってこう言った。
「おい、さっきから聞こえるこの音はなんだ?」
 三田村のその真剣な表情に、農協の部下やキャバ嬢達が「えっ?」と一斉に耳を澄ました。
「パプッ!ビリビリビリ・・・・」
 いきなり三田村の尻から飛び出したその音に、真面目に耳を澄ましていた皆が一斉に笑い出した。
「しっつれーい!」
 最後をそう締めくくる三田村を、はっきり言って私はヒーローだと思った。

 そんな三田村は、その後も、唐突に立ち上がっては「おい、なんだこの匂いは?」と皆に鼻をクンクンとさせてはいきなり放屁したり、はたまた、向かいに座っていたキャバ嬢に胸を突き出しながら「ちょっとココを押してごらん」などと強要し、キャバ嬢が恐る恐るその薄い胸板を人差し指で押そうものならいきなり「ブブっ!」と放屁するといった、まさに華麗なる暴挙を繰り返していたのだった。

 そんな華麗なる三田村を見つめながら、それにしてもよくこれだけ屁が出るものだと、私は改めて栃木の田舎っぺの恐ろしさ思い知らされた。
 しかし、そんな三田村をいつまでも尊敬の眼差しで見ていたのは私だけで、周りの皆はあまりにもしつこい三田村のその暴挙に、次第にうんざりしてきていた。

 それが証拠に、もう三田村の暴挙に誰も笑顔を見せなくなっていた。
 いや、それどころか、三田村が暴挙をする度に、あれだけ腹を抱えて笑っていた太鼓持ちの部下達も今では揃って露骨に嫌な表情をし、挙げ句の果てには鼻を摘みながら顔の前で手の平をヒラヒラと振る始末なのである。

 敗北・・・・。

 そんな言葉が私の頭の中にポッカリと浮かんだ。
 皆から「臭い臭い」と鼻を摘まれ、挙げ句の果てには、腹心の部下から「部長、もういいかげんヤメて下さい」と真顔で言われた三田村は、まさに落ち武者だった。

 しかし、そんな落ち武者にも意地があった。
 老いた落ち武者は、そんな腹心の部下達に向かって、スカしっ屁というものがどれだけ悪質で卑怯な手段であるかという事を解いた上で、「だから私は正々堂々と皆に公表して放屁するのだ」と、尤もらしく主張した。
 そして彼は、新たなる方法により再び暴挙を繰り返した。
 その方法とは、「スリー、ツー、ワン、ゼロ」と事前にカウントダウンをした上で放屁すると言う、誠に武士(もののふ)らしい潔い手段であった。

 そうやってくだらない時間が過ぎていくうちに、遂に私の下腹部も悲鳴をあげ出した。
 無惨にも落ち武者と化した栃木の老兵を見ていた私は、それが人ごとだとは思えず、今まで暴挙を自粛しながらも下腹部にガスを溜めに溜めていたのだが、しかしここにきてもはや限界だった。

 私は今までのように少量放出作戦を決行した。
 その頃になるともう力まなくても良かった。
 肛門の緊張を解してさえやれば、ガスは自然にスッと洩れてくれるのだ。

 私は、三田村のグラスの水滴をおしぼりで拭いたり、フォークに刺した真っ赤なイチゴを三田村の口に「あーんして」などと運びながら、スッスッと密かに暴挙を繰り返した。
 そんな時、いきなり三田村が公言した。
「おい、みんな、出るぞー・・・スリー、ツー、ワン、ゼロ・・・」
 三田村は公約通り、その後に「ブブブピッ!」と暴挙をやらかした。
 しかし、そんな彼に笑顔を向けるものは1人もいない・・・。

 部下やキャバ嬢達のそんなシラケたムードに、三田村は焦ったのか、それとも怒りを露にしているのか、なんと三田村はダブル発射という暴挙に打って出た。
「はい、もう一発行くよ・・・スリー、ツー、・・・」
 そう公言する三田村の横で、私は「ハッ」と気付いた。
 いや気付かされた。
 そう、私もこの三田村の暴挙に乗ずればいいのだと・・・・

 そう気付いた私は、さっそく三田村のカウントダウンに対し、「やだぁ・・・」と笑いながら、まるで三田村から体を避けるかのように左隣にいた京香ちゃんに寄りかかり、すかさずその尻を三田村に向けて照準を合わした。
「・・・・ワン、ゼロ・・・」
 カウントダウンを終えた三田村の尻からは「バリバリバリ!」という、これまでにない激しい音が響き、それと同時に私の尻からも「スー・・・ススーッ・・・」と溜まりに溜ったガスが放出された。

 そんな三田村の威嚇音があまりにも激しかった事から、遂に堪忍袋の緒が切れた三島主任が「部長、いいかげんにして下さい!」と、妙に真剣な表情で忠告に出た。
「いやね三島君、こういうものはだね、出物腫れ物ところかまわずっちゅう諺の通り・・・」
 慌てて言い訳を始めた三田村の言葉がいきなり止まった。
 三田村は何かに気付いたかのように「ん?・・・」と首を傾げながら、その、仄かに赤いプチトマトのような鼻をクンクンと鳴らした。
 そんな三田村の様子に気付いた皆も「えっ?」と一斉に顔を見合わせる。
 そう、今まで無臭だった三田村の暴挙が、今回ばかりはとんでもないニオイを漂わせたからだ。

「くせっ!」

 誰かがそう短く叫ぶと、キャバ嬢達が一斉に「うっ」と手の平を口に当てた。
 もちろん私も右手で口と鼻を塞いだ。
 あまりの臭さに、部下達はソファーに崩れ落ち、息を止めているキャバ嬢達も苦しそうに呻く。

 それはまるで、1995年の3月、営団地下鉄日比谷線においてカルト新興宗教団体が起こした無差別テロの惨劇を彷彿させる光景だった。
 しかし三田村は豪快に笑った。

「臭いのは当たり前だっぺ!だって屁なんだもん!」

 そう戯けてケラケラと笑う三田村の表情が、右半分だけ引き攣っているのを私は見逃さなかった。
 きっと、さすがの三田村も、これほどの悪臭にはやはり恥ずかしいのであろう。
 私はそんな三田村に心で詫びた。
 しかし、三田村さんごめんなさい!と心で叫びながらも、ひしひしと更なる魔の手は私の下腹部に襲いかかる。

(三田村・・・もう一発暴挙しろ・・・早くしろ・・・産まれる・・・)

 私は額にジンワリと冷汗を浮かべながら、次なる三田村の暴挙待った。
 しかし、さすがの三田村もこのニオイには懲りただろうと、悲痛な表情を浮かべた私がそう諦めかけた時、再び三田村の銃口が火を噴いた。
「またまた来たぞーい!それ、スリー、ツー・・・」
 三田村のその声に全員が顔を背けた。
「しめた!」
 そう思った私は、素早く隣りの京香ちゃんに「もうヤダぁ・・・」と言いながらしがみつき、京香ちゃんの二の腕に顔を押し付けながら反対側に座る三田村にこれでもかと言うくらいに銃口を向けてやった。

「ワン、ゼロ・・・」
 三田村のカウントダウンに合わせ、私の銃口が火を噴いた。
「ピュー・・・・スピピピピピピッ・・・・」
 店内に響いたその音は、三田村らしくない、まるで鳥のさえずりのような澄んだ音だった。

 その音は延々と続く。
 下腹部に溜まり溜まったガスを全て出し尽くさんばかりに、その音は延々と続いた。
 その音が鳴り止んだと同時に、私は「もう・・・三田村さんったら・・・」と笑いながら、京香ちゃんの細い二の腕からソッと顔をあげた。

 瞬間、私の目の前に、まるで殺人事件でも目撃したかのように驚きながら、ジッと私の顔を見つめる京香ちゃんの顔が飛び込んで来た。

「・・・えっ?・・・どうしたの?・・・」
 私がムクリと起き上がると、その場にいた全員が、やはり京香ちゃんと同じ目をして私を見ていた。
「はっ!」と気付いた私は、慌てて三田村に振り返った。

 そこには、呆然としながら私を見つめる三田村がいた・・・。

 そんな三田村は、水を打ったように静まり返った店内でポツリと言った。
「・・・今回のは・・・嘘・・・だったんだけど・・・」
 三田村がそう呟きながら、私の尻に視線を落とした。
 その瞬間、京香ちゃんが「うっ!」と呻きながら、強烈な暴挙のニオイに崩れ落ちた。
 それを機に、次々にキャバ嬢達が崩れ落ち、遂に皆が一斉に「うっ!」と呻きながら席を立った。
 その席に残っていたのは私と三田村だけだった。
 そんな2人を、避難した全員が遠巻きに見つめている。

 他の席の客達も唖然と見つめ、フロアを忙しなく歩き回っていたボーイ達も足を止め、そして私の帰りを心待ちにしている村松さんも、その隣りのユリカちゃんも、みんなみんな私を無言で見つめている。
 私は三田村をキッ!と睨んだ。

(三田村・・・言うんだ・・・皆の前で、これは僕の屁です「しっつれーい」と言え・・・言って・・・お願い三田村・・・そう言ってくれたら、私の体を好きなようにしてもいいから、だから三田村お願い!・・・・そう言って!・・・・)

 私は最後の力を振り絞り、三田村にそう念力を送った。
 そんな私の必死な念力が通じたのか、やっと三田村の唇がゆっくりと開いた。
「美佐子ちゃん・・・・」
 三田村のその声にフロアの全員が固唾を飲んだ。
 私は今にも泣き出しそうな表情で「うん・・・」と頷きながら、優しい目をして三田村の目を静かに見つめた。

「美佐子ちゃんの屁・・・臭過ぎるよ・・・・」

 三田村の勇気あるその一言で、私の華麗なる生活は静かに幕を閉じたのであった。

(キャバ嬢の暴挙・おわり)


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