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サンタクロースの苦悩と決断1



十二月二十四日PM七時。
押し入れの奥からビニールの板っぺらを引きずり出した。赤と白が鮮明に輝くそれは、圧縮パックで押し潰されたサンタクロースの衣装だった。

進藤は深い溜息を吐きながらミシミシと圧縮パックを広げ始めた。これから朝までこの服を着て雪空を飛び回るのかと思うと、持病の座骨神経痛がツキーンっと腰に走り、たちまち暗い気分に陥った。
(もう嫌だ……)
進藤は白いボンボンの付いたサンタ帽子を畳に投げ捨てながらぐったりと項垂れた。
実際、六十五才の老体にサンタクロースという重労働は無理があった。しかも今年の五月に胃のポリープが三つも発見され九月に退院したばかりの病み上がりなのだ。
(このまま寝てしまおうか……)
そう思った瞬間、屋根の上からトナカイの鈴がチリリンっと聞こえた。その鈴の音は、進藤の今の心を読み取ったトナカイが催促しているようだった。

進藤は精気のない目を貪よりと開き、重い腰をゆっくり上げた。サンタガウンを気怠そうに羽織りながら溜息をつき、窓の外にソッと目をやった。
隣家の庭に積もった雪に、リビングの窓から溢れるクリスマスツリーの電飾がチカチカと反射しているのが見えた。漆黒の夜空には吹雪の渦がとぐろを巻き、轟々と唸りをあげていた。
進藤はそんな恐ろしい夜空を見上げながら心に誓った。今度こそフィンランドの本部長に直談判し、なんとしても今年を最後に引退させてもらおうと。

そう思ったら少なからず心と体が軽くなったような気がした。押入れに潜り込み、そこから屋根裏によじ登った。一年間溜った蜘蛛の巣を顔面に受けながらミシミシと屋根裏を進む進藤は、これが最後だから、と、自分に言い聞かせ、その病み上がりの老体に鞭を打ったのだった。

屋根の上によじ登ると、巨大なトナカイが加湿器のような白い息をボワボワと吐いていた。主人サンタの進藤を見るなり、陰茎のような短い尻尾をピコピコっと振って挨拶した。
「いよいよ私もこれが最後になると思うが、宜しく頼むぞ」
そう呟きながら赤い手袋でトナカイの首をポンポンと叩くと、トナカイは雪の積もった屋根の上にダボダボと脱糞した。
橇に乗りトナカイの手綱を引っ張ると、トナカイの四本足が空を切った。ふわんっと身体が宙に浮き、エレベーターが上るようにどんどん夜空に上って行く。
目下に街のネオンが広がった。クリスマスイブの街はいつもより華やかだった。特に進藤が担当する渋谷地区はLEDのイルミネーションが盛んで、幻想的な輝きを夜空に向けて放出していた。
そんな渋谷のネオンを見下ろす進藤は、若い頃は橇が浮くこの瞬間が嬉しくて堪らなかったのにな、とひとりごち、サンタクロースになったばかりのあの頃をふと思い出していたのだった。

全国には八万人のサンタクロースがいた。それを取り仕切っているのがフィンランドに本部があるサンタエキスプレスという秘密組織で、それは世界各国に支店を持つ巨大フランチャイズ組織だった。
その日本支社は、福井県の外れの人口六万人足らずの漁村にある、『協栄保険ビルヂング』という老朽化した雑居ビルの二階にあった。『マルニチ水産』という変な名前の偽看板を掲げていた。
なぜ世界に誇るサンタエキスプレス日本支社が、そんな辺鄙な町の老朽化した雑居ビルの二階にあるのかは謎だった。三十五年間サンタクロースとして働いて来た進藤だったが、未だにその理由は教えて貰えなかった。
というか、その前に、なぜ自分がサンタクロースに選ばれたのかという理由さえも進藤は教えて貰えなかった。
日本支社長の一橋さんにそれを尋ねると、「まぁまぁまぁ、そんなに深く考えないで進藤さん」といつも誤魔化された。

謎に包まれたまま、進藤は三十五年間サンタクロースを黙々と続けて来た。渋谷地区という世帯数の多い地区を愚痴ひとつ言わずプレゼントを配りまくった。
しかし、それももう限界だった。なぜ日本支社が福井なのか、どうして自分がサンタクロースに選ばれたのか、もうどうでもよくなっていた。そんな事は謎のままでいいと思っていた。今はただ、温かいコタツに包まりながら『明石家サンタ』をぼんやり眺めていたいと、そう願っているだけだった。

空中から街を見下ろすと、街のネオンとは違う点滅信号が屋根に輝いているのが見えた。
それがプレゼントを配る家の目印だった。その家々はサンタエキスプレスの本部が選定したものであり、その選定基準もまた一介のサンタクロース達には教えられなかった。
そんな点滅信号を空中から見下ろしていた進藤は、年々その点滅信号が減っている事に気付いていた。ひと昔前なら、この点滅信号は渋谷の街を埋め尽くすように光り輝いていた。それが年々減っていき、今年などはほんの数十軒しか点滅していないのである。
(やはり、サンタエキスプレスがアマゾンと合併するという噂は本当なんだろうか……)
進藤はそう思いながら弱々しく輝く点滅信号を見つめていたが、しかし今となればそんな事も、もうどうでもいい事だった。

トナカイの手綱を斜めに傾け、渋谷のハチ公前の上空で止まった。
進藤はここから眺める渋谷の街が好きだった。毎年、プレゼントを配る前には必ずここで煙草を一服吸っていた。しかし、胃のポリープを切術したばかりの進藤は煙草が吸えなかった。
煙草の煙の代わりに、白い息をハァァァァと吐きながらセンター街を浮かれて歩く若者たちを眺めた。もちろん、彼らには進藤の姿は見えなかった。サンタエキスプレスから支給されたサンタクロースの衣装を着ていると、透明人間になれるのだ。

プレゼントを七軒配り終えると、時刻は既に八時を回っていた。
とっとと終わらせたかった。早くアパートに帰って布団に包まりながら焼酎をちびちびやりたいものだと思いながら八軒目の家の屋根に降り立った。
その家は新築の豪邸だった。橇を降りながら、こんな金持ちのガキなんかより、もっとプレゼントを必要としている子供達が他にもいっぱいいるだろ、と、サンタエキスプレスの選定に不信感を抱いた。またしてもトナカイがドボドボっと脱糞した。

屋根を滑りバルコニーに降り立った。ドスンっと凄い音がしたが、この音もサンタエキスプレスから支給されたサンタクロースの衣装を着ていれば自然に消音された。
バルコニーの窓をすり抜け、暖房の効いた温かい室内に忍び込んだ。やはりこのサンタクロースの衣装を着ていれば、壁も窓も塀も、なんでもすり抜ける事が出来た。
廊下の突き当たりにある階段を降りていくと、大きなリビングのテーブルの上に置いてある巨大なクリスマスケーキが見えた。

小学生の女の子と四才くらいの女の子がケーキを囲みながら嬉しそうに笑っていた。その奥にあるキッチンでは若くて綺麗なお母さんが鳥の唐揚げを皿に盛りつけながら、「あなた、ロウソクに火をつけてあげて」と微笑み、リビングの隅のソファーで新聞を読んでいたお父さんが「よし……」と言いながら立ち上がった。
ケーキのロウソクに灯がともると、四才の女の子が「ハッピバースデーちゅーゆー」と歌い出した。小学生のお姉ちゃんが「違うよ、ジングルベールだよ」と言うと、唐揚げを持って来たお母さんとお父さんが見つめ合いながらクスッと微笑んだ。
まさに絵に描いたような幸せな家庭だった。自身が幸せを運ぶサンタクロースでありながらも、進藤にはこんな幸せは一度も無かった。

進藤は六十五年間独身だった。しかも、女性と付き合った事は一度も無かった。
中学生の時、学校の帰りに轢き逃げされて足が不自由になった。ピコピコと傾きながら歩くのを近所の子供に馬鹿にされた事が原因で、それからというもの家に引き蘢るようになった。
高校へも行かず、毎日家に閉じ篭ってはコックリさんばかりしていた。そんな進藤の身体は当然ブクブクに太った。陽に当たらないため顔は常に青白く、デブ特有の油ギッシュな顔面には真っ赤な吹き出物が蕁麻疹のように広がり、長髪の頭からは日にコップ一杯のフケが出た。

そんな見るも無惨な姿に成り果てた進藤に彼女など出来るはずが無く、そのため、二十歳の時にはオナニーのヤリ過ぎで自律神経が狂い、二ヶ月間精神病院に入院した。
二十五才の時、父が胃ガンで死んだ。働いていない進藤の収入源が絶たれた。二十七才の時、ビニ本を万引きして警察に捕まった。盗んだビニ本は『夕焼け雲☆あなたにララララ恋してる〜女子大生編』という何が何だかわからないタイトルで、特にそれが欲しかったわけではないが、中年のおばさんがセーラー服を着ているパッケージが妙に悲しく、それに惹かれてつい盗んでしまった。

二十八才の時、母が痴呆症と診断され、障害者の進藤と痴呆症の母は、やっと生活保護が受けられる事になった。
しかし、その金は進藤が全て風俗に費やした。しかも場末のピンサロばかり通っていた為、五十を過ぎたおばさんに金はぼったくられるわ、ちんこに赤いポツポツができるわで、大変な目に遭わされた。それでも進藤はピンサロに通った。プロミスとアコムと武富士から凄まじい請求を受けながら通った挙げ句、やっとそのイカ臭いおばさんに筆下ろしをして貰った。

進藤がピンサロに通っている間、ろくに食事を与えられなかった母は自分の糞を食っていた。ある時、あまりにも美味そうに食っているため進藤も真似をして自分の糞を食ってみたが、口に入れた瞬間に吐き出し、痴呆の母の顔が糞だらけになった。
二十九才の時、やっと母が死んでくれた。最後は屋根に上って『君が代』を熱唱するという昭和の痴呆老婆に相応しい壮絶な最期を遂げたが、しかし、『君が代』の歌詞をほとんどデタラメに唄っていた為、近所からは爆笑された。

そして三十才になった時、いきなりサンタクロースに任命されたのだった。
実家を銀行に差し押さえられ、生活保護で借りた古い木造アパートにひっそり住む中年ニートがいきなりサンタクロースになった。今までクリスマスなど別世界のものだった進藤が、世界の大イベントの主役に抜擢されたのだ。
それからの進藤の人生はサンタクロース一色に染まった。毎日、サンタエキスプレスから送られて来る脳内通信でサンタクロースの指導を受け、三十二才の時にはシルバーサンタの資格を見事取得した。
シルバーサンタクロースになると髭が銀色になった。一般のサンタとは髭が白か銀かの違いだけであり、シルバーサンタになったからといって一般とは違う特別な超能力が使えたり、収入が変わるわけではなかった。ただ単に髭が銀色になるだけだった。
それに続いて、今度はゴールドサンタを目指して必死に勉強した。このゴールドサンタというのも髭が金色になるだけで、それ以外は一般のサンタとなんら変わりはなかった。しかし進藤はゴールドサンタを取得する為に必死に勉強し、学科試験を見事にクリアすると、その勢いでガンジス川に一週間流されるという非常に困難な実地試験に挑んだ。が、しかし流されて二日後にガンジス川に生殖する悪質なウィルスに感染してしまった。日本への帰国も半年間拒否され続け、現地で七転八倒しながら地獄を彷徨っていたため、ゴールドサンタを取得するには至らなかったのだった。

そんな進藤だったから、幸せな家庭というものを知らなかった。
進藤は、ケーキのロウソクを競い合うように吹き消す子供達と、それを微笑ましく眺める若夫婦を見つめながら、これが人間の求める幸せだったんだと、改めて今までの自分の人生を悔んだ。
私にもこんな綺麗な女性との出会いがあれば、また違う人生を歩んでいた事だろう。そう思いながら若奥さんの身体を舐めるように見回すと、ふいに奥さんの裸が頭に浮かんだ。

三十八軒分のプレゼントを配り終えると、時刻はまもなく日付が変わろうとしていた。点滅する屋根はあとひとつだった。
この最後のひとつのプレゼントで、いよいよ私のサンタクロース人生は終わるんだと思うと感慨深いものがあった。
橇の上からトナカイの首を撫で、おまえにも随分と世話になったな、と囁くと、トナカイは飛びながらポスポスと糞を垂れ、マルキューの筒がニョッキと聳える渋谷の街にジングルベルの糞を撒き散らした。
最後の家は、渋谷の街を見下ろすように建つ高層マンションの最上階の部屋だった。毎度の事ながら、どうしてこんな裕福なガキ共にサンタが必要なんだと不信感を抱きながらマンションのバルコニーに降り立った。
窓をすり抜け部屋に入ると、いきなりアメリカ人らしき若い夫婦がリビングのソファーでセックスをしていた。

どうして日本のサンタがアメリカ人にプレゼントをやらなければならないんだ、と、更にサンタエキスプレスの選定に不信感を強めながらも、しかし、そのたわわに揺れる大きな乳に目は釘付けになった。金髪女は、筋肉質な男の上でコキコキと腰を振りながら、「シー……シー……」と息を吸っていた。

こんな光景には今まで嫌というほど出会した。しかし、サンタクロース規約では、それらの覗き見は厳しく禁じられていた。もしそれらの規約を違反すれば、即刻サンタクロースの資格を剥奪され、場合によっては厳しい懲罰を科されかねなかった。だから進藤はこれまでに何度そんな光景に出会してもカチ無視していたのだが、しかし今夜は違った。
今夜をもってサンタクロースから足を洗おうと決めていた進藤には、もう怖いものはなかった。資格を剥奪されるなんてのは、こちらからお願いしたいくらいだ。懲罰といっても命まで取られる事は無いだろう。
そう開き直った進藤は、グチョグチョと混じり合う二人の結合部分に顔を近づけた。胸一杯に息を吸い込むと濃厚なパルメザンチーズの匂いを感じた。彼らがアメリカ人ではなくイタリア人である事が判明した。

それは、以前、北京で開かれた国際サンタ会議で、進藤の隣りの席に座ったドイツのサンタから聞いた話しだった。ドイツのサンタは、「日本人の陰部は魚臭く、韓国人の陰部はニンニク臭く、ヨーロッパ人はチーズの香りがして、そしてアメリカ人は獣臭いんだ」と自慢げに語った。
その時進藤は、そう言われてみれば、以前、道玄坂で買った中国娘は強烈にイカ臭かったと思い出し、「やはり中国人はイカばかり食っているのでしょうか」と聞くと、ドイツのサンタはヒュッと肩を窄めながら、「それはただの恥垢だ」と人を小馬鹿にしたように笑った。
その後、そのドイツのサンタは、何をトチ狂ったのか『陰部の匂いで人種がわかる』という本を執筆し、日本でもハヤカワ文庫から翻訳されて出版されたが見事に売れなかった。それどころか『ピータンの香り』と書かれた中国が猛反発し、あわゆく国際問題にまで発展する所だった。それが原因でドイツのサンタはサンタエキスプレスからサンタの資格を剥奪され、今はポーランドにあるアウシュヴィッツで勝手にガイドの仕事をしている。

進藤はチーズの香りが漂う二人の股ぐらからソッと顔を上げると、先にプレゼントを配って来ようと思った。どうせならもっとゆっくり見たいと思ったのだ。
モヤモヤとした気分のまま子供部屋を探した。廊下の奥の突き当りにサンタクロースの人形が飾られたドアがあった。ドアにはカタカナで『サンタサン、プレゼントヲ、ヨシロク』と書かれたが用紙が貼られていた。カタカナで書かれているというのは、恐らく日本人サンタに対する気配りなのだろうが、しかしその字は、まるで断酒しているアル中が書いた反省文のように汚く、しかもヨロシクがヨシロクになっており、逆にイラっとさせられた。

そんなドアを開けると、金髪の少年がベッドで大の字になって寝ていた。どう見ても小学校の高学年だった。枕元にぶら下げてあったサンタ袋の中を見た。またしても下手糞なカタカナで書かれたメモ用紙が出て来た。そこには『ミタラシダンゴ』とだけ書いてあった。そんなもんテメェで買えよこのソバカス野郎、と忌々しく思いながらふとメモを見ると、そのメモ用紙は、『おてもと』とプリントされた割り箸の袋だった。

サンタクロースとしての自尊心が激しく傷つけられた。これが三十五年間必死に頑張って来たサンタクロースとしての最後の仕事なのかと思うと少し淋しくなった。しかし、そう感傷に浸っている暇があるなら、とっととこの馬鹿げたプレゼントを終わらせてしまおうと思い、進藤は掌を広げそこに呪文を唱えた。
どこからともなくキラキラと輝く小さな星が舞い降り、ティンカーベルもどきの冬の妖精が進藤の掌にチュッとキスすると、突然真っ白な閃光がパッと放たれた。
みるからに不細工なみたらしだんごが進藤の掌の上に乗っていた。ダンゴの大きさもバラバラで、一番下のダンゴなどは『みたらし』が串からダラダラと垂れていた。
その串に刺された丸い物体は、何を隠そうトナカイの糞だった。一番下のダラダラした液体は下痢糞というサプライズだった。
これがサンタエキスプレス本部に知れれば、即刻サンタを解雇され、それなりの懲罰を受けるだろうと思った。
しかしもうどうでも良かった。解雇も懲罰も上等だった。それよりも、この糞ダンゴを食った瞬間の少年がどんなリアクションを取るのだろうかと思うと、そっちのほうが興味深かった。

再びリビングに戻ると、チーズ臭いイタリア人はまだ交わっていた。心無しかそのチーズの香りは部屋中に充満しているように感じた。
二人のセックスは、今まで進藤が見た事も無いような激しいものだった。まさに獣のような下品なセックスだった。
しかし、そんな下品なセックスが、下品な進藤を刺激した。ヌポヌポと肛門をピストンする巨大なフランクフルトを覗き込みながら、自分の股間にソッと手をやった。

猛烈に興奮しているのに、しかし進藤の股間はノーリアクションだった。これが若い頃だったら今頃は六回射精している頃だろうと昔を懐かしみながら、出来る事ならもう一度勃起してみたいもんだと股間を揉んでいると、そこにいきなりキラキラと星が舞い、冬の妖精が現れた。
すかさず進藤は、しまった、っと思った。サンタの手袋を嵌めたまま願い事を唱えると、例えサンタ本人でもその願いが叶ってしまうのだ。そして、サンタが私利私欲でそれをやると、たちまち処罰の対象にされ、即刻資格を剥奪されては厳しい懲罰を与えられるのだ。
しかし、一瞬はしまったと思った進藤だったが、よくよく考えればサンタの資格などもういらないのだと思った。懲罰なんて糞食らえだ馬鹿野郎とまで思った。
冬の妖精はいつものようにクルクルンっと三回転すると、進藤の股間にチュッとキスをした。進藤の股間がパッ! と輝いた。すかさず股間に手を当ててみると、実に懐かしい感触が掌にコリコリと伝わって来たのだった。

サンタズボンを太ももまでズリ下げた進藤は、女の体を隅々まで覗き込みながらダイナミックにペニスをシゴいた。そして、二人の結合部分に小便を引っ掛けたり、女の大きな胸に亀頭をクイクイと押し付けたりした。
しかし、どれだけ悪戯しても二人は全く反応しなかった。サンタのガウンを羽織っている以上は、何をしてもそれは四次元の世界の出来事だった。引っ掛けた小便も現実には物体は無く、いわゆる進藤だけに見える幻だった。
これではさすがにつまらなかった。せっかく懲罰覚悟でここまでしているのだから、それなりにリアルに感じたかった。

一瞬、進藤はこの筋肉質の男を凍らして身動きできないようにし、サンタガウンを脱ぎ捨てた生身の身体で女を犯してしまおうかと、そんな鬼畜な考えが頭に過った。
そう思えば思うほど興奮して来た。今まで三十五年間、文句のひとつも言わずに黙々と頑張って来たんだ、最後くらいは自分にプレゼントをあげてもいいじゃないか。そう頷いた進藤はサンタガウンのボタンにソッと指をあてた。
が、しかし、その時、ふと違う考えが進藤の頭を過りボタンを外そうとしていた指が止まった。

(……夜が明ければ本部にバレてしまうだろうから、時間的にも一人しかヤれないだろう……って考えたら、どうせなら日本人の方がいいよな……)

そう思った瞬間、八軒目にプレゼントを配った若くて綺麗な奥さんの顔が浮かんだ。
進藤は混じり合う二人の背中にペッ! と唾を吐き、素早くサンタズボンをズリ上げた。ドカドカと歩きながらバルコニーの窓を通り抜け、そのままマンションの屋上へとよじ登ると、いつになくトナカイに向かって「メリークリスマス!」と叫び、橇に飛び乗った。
進藤を乗せた橇が再び渋谷の夜空に舞い上がった。

「三十五年の最後のプレゼントは、自分自身にあげようと思ってね……」

そうトナカイに囁くと、三十五年間連れ添ったトナカイは、そんな進藤の気持ちを察したかのようにボロボロとウンコを洩らした。
進藤を乗せた橇が小さな星をキラキラと撒き散らしながら渋谷の夜空を走り出した。
三十五年間ずっと耐えて来た老人は遂にキレたのだった。

(つづく)

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