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夏休みタイトル20





そろそろ夏は終わりだというのに、未だしつこく鳴いている蝉がいた。
未練がましく鳴き続けているあの蝉は、きっと、あの夢のような夏休みにもう一度戻りたいと思っている僕達と同じなのであろう。

そんな蝉の鳴き声が取調室に延々と響いていた。
扇風機しかない取調室はサウナのように暑く、せっせと調書を書いている刑事さんの白いワイシャツは汗でびっしょりと身体に貼り付いていた。

「で、キミは、お姉ちゃんがビデオに撮られているのを、偶然、押し入れの中から目撃した、と、こう言うわけだね」

角刈りの刑事さんがジロリと僕を見上げながらそう念を押した。
僕はそんな刑事さんの鋭い視線から目を反らしながらコクンっと頷いた。

椅子をギィッと鳴らしながら背もたれした刑事さんは、「そっかぁ……」と頷きながら煙草を取り出すと、一言「暑いなあ」と呟いた。
そしてその煙草を唇の端に銜えると、ライターを手にしたまま再び鋭い目で僕を見た。

「そんな夜中に、人んちの押し入れの中で何してたの?」

僕はゴクリと唾を飲み込みながら一時停止した。
狭い取調室には狂ったような蝉の鳴き声だけが響いていた。
刑事さんのワイシャツに黒々とした乳首が透けているのが見えた。

そんな取調室の中で、僕は、おっちゃんが婦女暴行の常習犯だった事を知った。
刑務所にも三度も入った事があるらしく、鼻の下に大きなホクロがある婦人警官は、そんなおっちゃんの事を「女の敵」と呼んでいた。

お昼になると、お母さんと一緒に警察署を出た。
警察署の玄関の『極右暴力団壊滅本部』という看板の文字に異様な恐怖を感じた。

バスの中でお母さんは一言も喋らなかった。
お母さんは次に止まるバス停の表示板を黙って見つめていた。
バスを降りると、そのままお母さんと並んで歩いた。
古瀬文具店の看板が見えて来た。
お母さんはその話題には触れたくないのか、文具店の前を通り過ぎる瞬間、「明後日の始業式は大丈夫?」と僕の顔を見た。
僕はコクンと頷きながら横目で文具店を見た。
店は何も無かったかのようにひっそりと静まり返っていた。

事件が発覚してからというもの、お姉ちゃんは部屋に引き蘢ったままだった。
そんなお姉ちゃんが自殺をしてしまうのではないかと怖れたお父さんとお母さんは、事件発覚後からはお姉ちゃんの部屋の真隣りにある僕の部屋で寝るようになった。
おかげで僕は、一階のお父さん達の寝室で寝ていたのだった。

土曜の夜だった。
窓の向こうでは暴走族のラッパの音が微かに響いていた。
明後日の始業式に果たして敏光は出て来るのだろうか。
そう思った僕は敏光の家に何度も電話を掛けようとしたが、おばちゃんが電話に出た時の事を考え、怖くて電話をかけられなかった。

暴走族と救急車の音を聞きながら何度も何度も寝返りを打っていた僕は、寝るのを諦めムクリと起き上がった。
部屋の隅に置いてある小さなテレビのスイッチを入れた。
ゆっくりとフェードインしていく画面から『新聞によりますとぉ』という、まるで人を小馬鹿にしたような声が聞こえて来た。

それは『ウィークエンダー』だった。
スキャンダルな事件ばかりを取り上げる、いわば深夜のワイドショーみたいな番組だ。

そんな番組をぼんやり見ていると、偶然にも、『再現フィルム』のコーナーで僕達の事件が取り上げられていた。
『再現フィルム』というのは、リポーターが事件を伝えるのではなくドラマ仕立てで事件を再現するというものだった。

そのドラマには当然僕達も登場していた。
見た事もないような三流子役が、僕や敏光や、そしてこの事件の張本人である啓介をヘタクソに演じていた。

おっちゃんの役を演じるカッパハゲの親父が、泣きべそをかく啓介の妹の服を脱がせている。
『欲しいもの何でも買ってあげるからね』と笑いながら、おっちゃんは啓介の妹の下着を脱がせた。
やだ、やだ、やだ、っと泣き叫ぶ啓介の妹と、ハァハァと荒い息を吐きながらズボンを脱ぎ始めるおっちゃん。

堪らなくなった僕は、パジャマのズボンをズルリと下ろすとそのままチンコをシゴいた。
僕の頭の中に、ビデオカメラの前で開くお姉ちゃんの赤い陰部が浮かんで来た。
瞳ちゃんのパンツの匂いが甦り、そして敏光のお母さんの「もっと! もっと!」と悶え苦しむ声がどこからか聞こえて来た。

「うっ!」と小さく唸った僕のチンコの先から大量の精液が飛び散った。
その瞬間、パーマ頭の泉ピン子がおっちゃんの白黒写真をパンパンと叩きながら言った。

「見て下さいよこの犯人の男の顔、いかにも変質者の顔してるでしょ」

窓の外で夜の蝉がジジジッと一瞬だけ鳴いた。
それっきり蝉は鳴かなくなった。
きっとそれは、その蝉のこの世で最後の鳴き声だったに違いない。

そんな夜の蝉の鳴き声は、まるで僕達の夏休み子供劇場の終わりを告げているようだった。

(夏休み子供劇場・完)



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