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夏休みタイトル19




「な、うまくいっただろ」

そう笑う敏光の手には六本ホームランバーが握られていた。

「本当だね。お姉ちゃんのビデオを撮ってた事をお父さんに話すって言っただけなのに……」

と、驚く僕の手には、鉄道模型のNゲージが握られていた。

「これからは欲しいもんは何でも手に入るぜ」

そう笑う敏光。
しかし、そんなおっちゃんからは、ちゃっかり条件が提示されていた。
それは、今後も、僕のお姉ちゃんと敏光のお母さんとは関係を続けていくから、この話しは絶対に誰にも言うな、という条件だった。

僕たちはその条件をすんなりと呑んだ。
そして、いつしか僕と敏光は、僕のお姉ちゃんや敏光のお母さんの事を『いけにえ』と呼ぶようになったのだった。

それからの僕達は完全に堕落した。
ラジオ体操もプールも行かず、宿題など完全に放置したままラブホ跡地の秘密基地に入り浸った。

その頃になると、お姉ちゃんのパンツを『いけにえ』にしていた修司も仲間に加わり、僕達と同様、おっちゃんに『いけにえ』を差し出す代償として色々な品々を貰っていた。
そんな品々は、全てラブホの秘密基地に保管された。
それらはみんなで共有しようというのが僕達のルールだった。

ある時、僕達は、和夫と直紀と啓介をこの秘密基地に招待する事にした。
三人は、秘密基地に溢れるその品々を見て、まるで洞窟の中で秘宝を発見した時のような表情で深い溜息をついた。
ラジコン、プラモ、Nゲージ。
バネの飛び出したソファーの上にはルービックキューブとチョロQが転がり、駐車場の埃っぽい壁には『なめ猫』のポスターが貼られ、そしてスイッチが入れっぱなしのウォークマンのヘッドホンからは、横浜銀蝿の『ぶっちぎり』がシャカシャカと音を洩らしていた。

もちろん、みんなには『いけにえ』の話しは内緒だった。
しかしみんなは、この豪華な品々の入手経路を尋ねてこなかった。
みんなは、ただただ驚きながら、その品々に心を奪われていたのだった。

そんなある日、僕達は自慢の空気銃でラブホに巣食う巨大ネズミたちと戦争をしていた。
僕の銃はスタンダードなデタッチャブルだった。
修司の銃はボルト888(サンパチ)で、そして敏光の銃は、当時、最もカッコいいとされていたサンダーボルトだった。
やはり敏光だけは、その『いけにえ』が、セックスのできるお母さんという事から、おっちゃんからは一目置かれていたのだ。

そんな僕達の陣地に、銀玉組の啓介がふらりとやって来た。
銀玉組というのは、しょぼい銀玉鉄砲しか持っていない兵隊達の事で、僕達が控える陣地よりもずっとずっと最前列で戦っていた。

啓介は僕達の陣地にソッと腰を下ろすと、突然、暗い顔をしながら「お願いがあるんだけど……」と深刻に呟いた。

「実は『ゲームウォッチ』を手に入れて欲しいんだけど……」

そう今にも泣きそうな表情で訴える啓介は、勇次から借りていた『ゲームウォッチ』を、小学三年生の妹に壊されてしまったと打ち明けた。

それを聞いていた敏光が、「勇次か……そりゃマズいな……」と顔を顰めた。

勇次というのはこの町でも有名なヤクザの親分の息子だった。
なかなか気のいいヤツではあったが、しかし、借りていたものを返さなかったり、借りていたものを壊したりすると、異常な程に怒り狂った。
それはきっと父親譲りなのであろう、勇次の親父はヤクザの親分でありながらサラ金屋のボスでもあったのだ。

「どうしてあんなヤツから借りたりしたんだよ」

修司が苦い表情で聞くと、啓介は「だって妹がどうしてもゲームボーイがヤリたいっていうから……」と、涙をポロポロと流し始めた。

そんな啓介を見て、敏光がすかさず「わかった。心配すんな」と泣き崩れる啓介の肩を叩いた。
敏光が盗みを働いたのも、元々は弟の為だっただけに、敏光は妹の尻拭いをする啓介を見捨てるわけにはいかなかったのだろう。

が、しかし、「心配すんな」と安請け合いする敏光だったが、ここに来て問題があった。
それは、この三台の空気銃をおっちゃんに買わせた時、その値段があまりにも高かった事から、「今月はこれで終わりだぞ」とおっちゃんが念を押していたからだ。

安心した啓介が最前線へ戻ると、敏光が「困ったな……」と腕組みをした。

「そんなの無視してればいいさ。あいつ、いけにえも出さないで図々しいんだよ」

修司が、最前列へ向かう啓介の背中を見ながら吐き捨てた。

「でも、このまま見捨てるわけにはいかないだろ……相手は勇次だぜ……どうする?」

僕に助けを求めるかのように、敏光はそう呟きながら僕を見た。

僕はすかさず「簡単だよ」と呟いた。
敏光の曇った顔が急に明るくなる。

「啓介にも『いけにえ』を出させればいいんだよ」

そう答える僕の頭の中には、映画『キングコング』で見た、十字架に磔にされた生け贄の美女が、ぼんやりと浮かんでいたのだった。

(つづく)

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