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夏休みタイトル12




その夜も、いつものようにおっちゃんの家の勝手口は鍵が開いたままだった。
本当に大丈夫のか? とビビる敏光を従えながら、僕は台所の床をミシミシと鳴らしては奥へと進んだ。
いつもは台所の角を右に曲って座敷に行くのだが、今夜はそのまま真すぐ進んだ。
入口のサッシ戸に引かれた薄い布切れから、道路を照らす街灯が漏れ、店内はぼんやりと薄暗い闇に包まれていた。

静まり返った店には、アイスクリームの冷蔵庫がブオーンっと低い音を響かせていた。
僕達はさっそくプラモデルが並ぶラックに向かった。
薄暗い店内でも二人が探し求めていた物は直ぐに見つかった。
ゴールド・ガンダムも、新発売のザクも、一番上の棚に堂々と飾られていたからだ。

「でも、よく裏口の鍵が掛かってない事がわかったな」

敏光はザクの箱を胸に抱きしめながら改めて驚いた。
僕は、いつもここに忍び込んでいる事を話そうかどうしようか迷っていた。
今度から敏光も一緒に忍び込む事ができたら心強いと思ったからだ。

が、しかし、それを話す事で、僕がオナニーをしていた事がバレてしまう。
しかも、押し入れの中には修司の姉ちゃんの汚れたパンツまであるのだ。
だから僕は笑って誤魔化した。「実は夜中にこっそり探検してたんだ。その時、たまたま発見したんだよ」と自慢げに笑いながら、押し入れの中の事を敏光には明かさなかった。

「じゃあ、今度から達也が川口隊長だな」

敏光はニヤリと笑いながら、その栄光のアダナを僕に譲ってくれた。
それが敏光なりのお礼だった。

僕達は駄菓子も少々頂く事にした。
ポケットの中に『マルカワのオレンジガム』と『蒲焼きさん太郎』と『ココアシガレット』を押し込んだ。
敏光はついでに『ゲイラカイト』も頂いちまおうぜ、と言ったが、そんなモノを高々と空に上げていれば、僕達が犯人だと皆に知らせているようなものだと、それを諦めさせた。

二人は大きなプラモデルの箱を大事に抱えながら店を後にした。
再び台所へ行くと、古い床がミシミシと音を立てた。
僕はゆっくりと進みながら、ふと、奥の座敷に目をやった。
見慣れた襖の模様が、早くおいでよと僕を呼んでいた。
そんな気持ちをグッと押し殺しながら勝手口へと進んだ。

すると、勝手口のドアを開けようとした瞬間、ドアの向こうから足音が聞こえて来た。
ハッと身体を硬直させた二人は、ほぼ同時に見つめ合った。

「どうする」

どちらともなく、そんな言葉を交わした。
僕は乾いた喉にゴクリと唾を飲み込むと、呆然と立ちすくんだままの敏光に「こっち!」と声を掛けながら、素早く奥の座敷へ向かったのだった。

押し入れの中にひっそりと踞りながら、二人は息を殺していた。
敏光は大量のエロ本に目を奪われる事無く、不安な様子で襖の向こうに耳を傾けている。
僕は暗闇の中で下唇を噛みながら、前にもこんな事があったなと思った。
そしてふとお姉ちゃんの濡れたアソコを思い出した。

「やっぱりホテルのほうが良かったんじゃない?」

襖の向こうからおっちゃんの声が聞こえて来た。

「いえ、ホテル代が勿体ないですから……」

少し脅える中年の女の声が聞こえて来た。
どうやらおっちゃんは、またしても女を連れ込んだらしい。

僕の緊張は一気にほぐれた。
この調子なら、またしてもエッチなシーンを拝める事ができるかもしれないと期待した僕は、敏光に向かって襖の穴をソッと指差した。

「ここから覗けるよ」

僕がそう笑うと、敏光は「うそっ」と目を見開きながら、嬉しそうに襖の穴を覗いた。

しかし敏光はすぐに穴から顔を離すと、何故かそのまま深刻そうな顔をして踞ってしまった。

僕はそんな敏光の耳元にソッと囁いた。

「心配しなくてもいいよ。これからおっちゃん達はセックスするんだよ。僕達がココに隠れている事はバレやしないよ」

僕は敏光をリラックスさせようと、敢えてニタニタと笑いながらそう囁いた。
しかし、それでも敏光は踞ったまま愕然としていた。
それはまるで、『赤いシリーズ』のドラマの中で、不治の病を宣告された直後に見せる山口百恵の表情に良く似ていた。

「大丈夫だって、バレやしないって」

僕は敏光の肩を静かに叩きながら囁いた。

「大丈夫じゃねぇよ」

敏光は今にも泣きそうな顔で僕を見た。

「だから大丈夫だって」

「だから大丈夫じゃねぇって」

「……どうして?」

僕は踞る敏光の顔をソッと覗き込んだ。

「だって、アレ、ウチの母ちゃんだもん……」

(つづく)

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