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夏休みタイトル11




夏休みの後半をオナニーばかりして過ごしていた僕は、病人のようにゲッソリと痩せてしまっていた。
そんな僕を見て、敏光が「これって夏ヤセってやつか?」っと不思議そうに呟いた。

敏光はおっちゃんの家の押入れに隠されていたエロ本の第一発見者だった。
あの時から敏光のアダナは『ピグモン』から『川口隊長』に変わった。
勇敢にもおっちゃんの寝室に忍び込み、そこで大量のエロ本を発見した功績が皆に認められたからだ。
因みに、川口隊長というのは、水曜スペシャルの『川口浩探検隊シリーズ』の川口隊長の事である。

そんな敏光は、首からラジオ体操のスタンプカードをぶら下げたままだった。
この日の敏光は、朝の七時から僕の部屋に入り浸っているのだ。

「なぁ、頼むよ、こんな事頼めるのは達也しかいないんだよ……」

そう僕に何度も拝む敏光は、とんでもない話しを僕に持ち掛けて来た。
それは、おっちゃんの店からガンダムのプラモデルを万引きしようという計画だった。
僕がおっちゃんと話し込んでいる隙に敏光がプラモデルを万引きするという、何とも安易な作戦だった。

「俺、どうしても『ザク』が必要なんだ。な、頼むよ、協力してくれよ、達也が欲しがってるゴールド・ガンダムも一緒に盗んでやるからさぁ」

敏光はそう何度も何度も僕に頭を下げた。
しかし、オナニーのしすぎで気力も体力も失せていた僕は万引きなど面倒臭くて仕方なかった。
あれだけ欲しかったゴールド・ガンダムも、今では全く欲しくなかった。

そんな僕は大きなあくびをしながら「面倒くせぇよ……」と呟いた。
すると、敏光はそんな僕を見つめながらいきなり床に正座した。

「頼む。一生のお願いだ。この通り……」

そう土下座をする敏光の目には、今にも零れ落ちそうな涙がウルウルと揺れていた。
気の強い敏光が泣くなんて珍しかった。
これは余程の事情があるに違いないと思った僕は、正直にワケを話してくれるなら協力してやってもいいよ、と、正座する敏光の隣りにソッと腰を下ろした。
敏光はそんな僕にコクンと小さく頷くと、ボソボソと事情を話し始めたのだった。

敏光の家は母子家庭だった。
お母さんと三年生の弟と三人で、別名『かまぼこハウス』と呼ばれるオンボロ長屋で暮らしていた。
敏光のお母さんは昼はスーパーでレジを打ち、夜は近所の喫茶店兼用スナックでアルバイトをしていた。
一方の弟は少し知能が遅れていた。
いつも登下校時には意味不明な即興歌を大声で唄い、そこらじゅうで立ち小便をやらかした。
そんな弟が学校でイジメられているらしい。
それは、クラスで敏光の弟だけガンダムのプラモデルを持っていないかららしく、だから皆から仲間ハズレにされているというのだ。

そんな弟に敏光は、クラスではまだ誰も持っていない新発売の『ザク』を買ってやろうと、夏休みが始まると同時に新聞配達をしていた。
しかし、先日の台風の時、敏光は荒れ狂う用水路の中に自転車ごと飲み込まれてしまった。
幸い、敏光に怪我はなかったが、配達前の新聞と新聞店から借りていた自転車を流してしまった。
それが原因で敏光は新聞店をクビにされた。
今まで働いた給料も自転車の弁償代で差し引かれ、給料も貰えなかった。

不幸な事に、既に弟は「夏休みに『ザク』を買って貰うんだ」とクラスの皆に自慢しているらしい。

「……だから、頼むよ達也。何としてでもザクを手に入れなきゃ、また弟がイジメられちゃうんだよ」

薄いカーペットの上に、正座する敏光の涙がポタポタと音を立てて滴った。
こんな話を聞いて、それを断れるほど僕は強くなかった。
僕はそんな敏光の涙を見つめながら、「わかったよ。協力するよ」と頷いた。
敏光は頬をダラダラに光らせながら「ありがとう!」と更に大きな涙を垂らした。

「でも、万引きは危険だよ。おっちゃん、万引きにはいつも目を光らせてるからな……」

僕がそう呟くと、敏光は「じゃあどうすんだよ……」と情けない声で僕の顔を見上げた。

僕はそんな敏光に余裕の笑みを浮かべた。

「心配すんな。いい方法があるから」

(つづく)

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