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夏休みタイトル4



それは、お姉ちゃんと二人で、お昼のワイドショーの夏特番『あなたの知らない世界』を見ていた時だった。
いよいよ幽霊が出そうになってきた頃、いきなり庭の窓がコンコンっと鳴った。
その音に僕とお姉ちゃんは同時に「わあっ!」と飛び上がった。
窓をノックしたのは修司だった。
庭にポツンと立つ修司は、何やら大きな紙袋を抱えながら、驚く僕とお姉ちゃんを見てヘラヘラと笑っていたのだった。

修司を二階の部屋にあげると、修司は紙袋を抱えたまま「達也はいいよなぁ、自分の部屋があって」と唇を窄めながらベッドの上にドスンっと座った。

「なんだよソレ」

僕はそう聞きながらルパン三世の学習机に腰を下ろした。そろそろルパン三世の机は恥ずかしいが、しかし、高校生になったお姉ちゃんは未だに天地真理の学習机を使っている。だから僕も文句は言えなかった。

修司は僕の顔をニヤニヤと見つめながら、「驚くなよ……」と紙袋の中身をガサガサと取り出した。
最初は「勿体ぶらずに早く出せよ」と笑っていた僕だったが、しかしベッドの上に取り出されたその中身を見て、おもわず「嘘だろ!」と叫んでしまったのだった。

それは、コカコーラの1リットルの瓶ほどもある『ガンダム』の巨大プラモデルだった。
ガンダムにハマっていた僕達には、まさに夢のような代物である。
四千八百円もした。
おっちゃんの文房具店では『トラック野郎』や『大阪城』と並ぶ高価なプラモデルで、小学生の僕達にはそう簡単に手が出せる代物ではなかった。そんなガンダムの巨大プラモデルを、今、修司が手にしているのである。

「盗んだのか?」

僕は思わずそう聞いてしまった。なぜなら、今月の修司は既にお小遣いを使い果たしており、敏光と僕から五十円ずつ借りていたからである。

「違うよ。貰ったんだよ」

修司は心外だと言わんばかりに唇を尖らせた。

「貰ったって誰に」

「……おっちゃん」

「おっちゃん?……どうしてだよ」

「…………」

修司は黙ったまま鼻糞をほじった。窓のすぐ横の壁に蝉が貼り付いているのか、一瞬だけ「ジジジッ」っと電気ショックのような音を響かせた。

「……誰にも言わない?」

修司はほじくり出した鼻糞を手の平の運命線の当たりで捏ねながらソッと僕を見た。

「言わない」

「絶対?」

「うん。絶対言わない」

修司は「約束だよ」と言いながらベッドから立ち上がると、おもむろに僕の顔を見てニヤリと笑った。

「姉ちゃんのパンツを売ったんだ」

修司はそう呟くと、悪びれているのか「ひひひひひ」と怪しく笑った。
その笑い方は、まさに『チキチキマシン猛レース』のブラック魔王を意識しているようだった。

僕は激しいショックを受けた。
弟が姉のパンツを大人に売るというその行為もショッキングではあったが、しかし、あの瞳ちゃんのパンツがあの変態おっちゃんの手に渡ったと思うと、目眩を感じる程のショックを受けた。

僕はそのショックを修司に悟られまいと、わざとらしく「ふぅ~ん」と気のない返事をしながら、マグナムを構えた次元がプリントされている椅子をクルクルと回転させた。
そんな僕を見てニヤニヤと笑う修司は「まさか、姉ちゃんのパンツがコレに変身するとはね」と、まるで宝物を愛おしむかのようにガンダムの箱をスリスリと撫でていたのだった。

(つづく)

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