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コブラ18



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 中村は暴れるあずみちゃんの顔面に容赦なく拳を叩き付けた。
 小さなあずみちゃんはそんな中村のボクシンググローブのような大きな拳をまともに受け、「うぐっ・・・」と唸りながら気絶し、いとも簡単にベッドの上にぐったりと倒れた。

「とりあえず、この娘からグチャクヂャにしてやるからよーく見ておけ・・・おまえが人間として最後に見るこの最高のショータイムをよ・・・・」

 中村はそう笑うと、ぐったりとするあずみちゃんの院内着を簡単に剥ぎ取った。パンティー1枚にされたあずみちゃんはぐったりとしながらベッドに仰向けに寝かされる。あずみちゃんが履いているその白いパンティーは僕があの時コンビニで買ってあげた白いパンティーだった。
 中村はベッドに倒れるあずみちゃんを見下ろしながら、強烈に勃起した巨大ペニスをシコシコと豪快にシゴいた。そしてパンティーの上からあずみちゃんの股間に顔を押し付け、あずみちゃんの柔らかなワレメに鼻を押しあてては深呼吸を繰り返した。

「若いってのはよ・・・オマンコの臭いもキツいもんだよな・・・」

 中村はそう唸りながら、あずみちゃんの細い脚からパンティーをスルルっ!と抜き取った。
 手にしたパンティーを広げ、あずみちゃんのシミが付いている部分をクンクンと嗅ぐと、いきなりペロッとそれを舐め、すかさず巨大ペニスにパンティーを被せた。

「へへへへ・・・昔、中学生の娘のパンツでよ、こうやってシコシコしてるとこを娘に見られちまってよ・・・あん時はさすがに俺も焦ったけどよ、でも、その後、逃げようとする娘捕まえて犯してやったら娘のヤツまだ中学生のくせにヒィーヒィーとヨガリやがってな・・・やっぱり俺の娘だなぁひひひひひひひ」

 中村はそう呟きながらパンティーでペニスを包み込んだままのそれをシコシコと激しくシゴき、そしてそのまま体を前屈みにさせながらあずみちゃんの剥き出しになった股間へ顔を埋めた。
 あずみちゃんの股間から、中村の舌とあずみちゃんの陰毛が擦れるジョリジョリという卑猥な音が聞こえて来た。しばらくの間、僕に見せつけるかのようにそうやってあずみちゃんの股間を舐めていた中村だったが、しかし、途中からホンキで欲情し始めたらしく、ペニスに被せていたパンツをポイッと放ると、両手であずみちゃんのカモシカのような細い脚をおもいきり開いては、パックリと開いたあずみちゃんのアワビをレロレロと真剣に舐め始めた。

「すげぇなぁ・・・このガキ、気絶しながらもマンコをヒクヒクさせてるよ・・・」

 そう呟いた中村は、ベッドの横の椅子に座っている僕に「ほら、」とあずみちゃんの股間を開きながら、「もうヌルヌルに濡れてるぜ・・・」っと、そのテラテラと輝くあずみちゃんのワレメに唇を押し付けては、その光り輝く汁をジュルジュルジュルっと下品に啜った。

 そんな中村があずみちゃんのクリトリスに吸い付きながら、太い指を膣の中に挿入させると、それまで気絶していたあずみちゃんが「うぅぅぅ・・・」っと意識を戻した。
 僕は内心「バカ!」っと意識を回復させ始めたあずみちゃんを見てそう思った。そのまま気絶したままだったらこの地獄のような苦しみもわからないままだったのだ。
「うぅぅぅぅ・・・・」っと額に手をあてながらゆっくりと首を振っているそんなあずみちゃんを見て、僕は中村にお願いした。

「せ、せめて催眠剤で眠らせてやってください!お願いします!」

 ベッチャ、ベッチャ、と、まるでグルメな肥満中国人のようにあずみちゃん股間をじっくりと味わっていた中村は、そんな僕にチラッと視線を向けながら「アホ、それじゃあ何にも意味ねぇじゃねぇか」と笑った。
 そんな時、「はっ」とあずみちゃんが目を覚ました。そして自分の股間で蠢いているイレズミだらけの豚のおじさんを見て「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」と悲鳴をあげた。
 そんなあずみちゃんの悲鳴を聞いて中村は満足そうにヒャッヒャッと笑いながら、暴れるあずみちゃんの体を押え付けた。

「ガキ!今からヒィヒィ言わしてやるからよ!テメェーにとったら人間として最後のオマンコだ、せいぜいたっぷりと味わうこったな!」

 中村はそう叫ぶと、あずみちゃんの両足を自分の太い両腕でガッシリと抱え込み、大きく開いたあずみちゃんの股間にその巨大な肉棒をおもいきり突き立てた。
「うっ!」
 瞬間にベッドに仰け反るあずみちゃんは、中村が腰を動かす度に「痛い!痛い!」と叫んだ。
 パイプベッドが激しく揺れ、白い枕がベッドの下にボタッと落ちた。ベッドの上はまるで震度5弱はあろうかと思われる振動だ。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!痛いよぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
 そう泣き叫ぶあずみちゃんに僕は必死に声を掛けた。

「あずみちゃん!僕を見ろ!僕を見るんだ!」
 あずみちゃんは顔をぐしゃりとしかめながら涙でぐしょぐしょに濡れた目を僕に向けた。

「マック!この後、一緒にマックに行こう!ね、ね」
 あずみちゃんはガンガンと体を揺らしながら、そう叫ぶ僕の顔を見てクスンっと鼻を啜った。

「マック行ったらさ、何を食べる?シェイク?それともハンバーガー?」
 あずみちゃんはそんな僕の顔を見つめながらジワーッと涙を溢れさせ、震える声で「シェイク・・・」と呟いた。

「シェイク!よしわかったシェイクを飲もう!うんそうしよう!で、で、何シェイクがいい?」

 パイプベッドがガタガタと激しく揺れる。中村は猛牛のように激しい息を吐きながら小さなあずみちゃんの体を滅茶苦茶に上下に揺らし、アソコから血を流すあずみちゃんは「ギャャャャャャャャ!」と叫び声をあげた。

「ほら!あずみちゃん!こっちを向いて!さぁ、なにシェイクがいいのかな?白いの?ピンクいの?それともチョコレートかな?」

 僕がそう話し掛けている傍で、中村はまるでマイクタイソンが猛連打をするかのようにあずみちゃんの股間に腰を激しく叩き付けた。アソコが裂け、血まみれになったあずみちゃんはニワトリのような叫び声をあげながら白目をむいて失神すると、中村は腰を振りながらも素早くスタンガンを手にし、あっという間にあずみちゃんの太ももにスタンガンを押し付けスパークさせた。

「ウギャ!」

 まるで心拍停止の患者が心臓に激しい電気ショックをあてられて生還した時のように、無情にはあずみちゃんは意識を取り戻した。
 またしても中村の腰は容赦なくあずみちゃんの股間を連打した。あずみちゃんのプルプルとしたオッパイにスタンガンを押し当て、それを定期的にバチバチ!と軽くスパークさせながら中村は腰を振る。中村のビール瓶のように太いペニスがあずみちゃんの小さな膣に、血が交じった白濁の汁を垂らしながらもズボズボとピストンされる。その度にあずみちゃんは小さな体をベッドから飛び上がらせ悲鳴をあげた。

「助けてぇ!もういやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 あずみちゃんが狂ったように泣き叫ぶ。このままいけばあずみちゃんは本当に気が狂ってしまうだろう。僕はそんなあずみちゃんを見ながらワンワンと泣き喚き、そして振り絞るような声で叫んだ。

「あずみちゃん!その人はタッ君だよ!ほら!キミが好きなタッ君なんだって!」

 僕のそんな叫び声に、一瞬あずみちゃんは自分を取り戻した。そしてグッと下唇を噛みながら、足下でガクガクと腰を振っている中村を見た。
「タッ君じゃない!この人、豚のおじさんだもん!」
 あずみちゃんがそう泣き叫んだ瞬間、中村が「あうっ!」という深い唸り声をあげ、そしてバタリと倒れるかのようにあずみちゃんの小さな体に覆い被さるようにして抱きついた。

「あぁぁぁ・・・・女子高生に中出しだぁぁぁぁぁ・・・・・・」

 中村はそう唸りながら腰をコキコキと振りながら射精すると、豚のようにあずみちゃんの顔中をベロベロと舐めまくったのだった。


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 しかし、中村が射精したからと言ってこの地獄が終わるわけではなかった。いや、この地獄は今からが始まりなのである。
 中村はベッドの上でぐったりとしながらタバコを吹かし、僕に煙を吹き掛けながら「タッ君って誰の事だよ・・・」っと、気怠そうに僕に聞いて来た。
 僕は押し黙った。この豚野郎に彼女の中では神聖なタッ君を汚されたくなかったのだ。

「誰なんだって聞いてるんだよ!」
 中村はそう叫びながら僕に煙草を投げつけると、それでも口を閉じていた僕の肩にスタンガンをスパークさせた。
 初めてのスタンガンだった。僕はあまりのショックに釣り上げられた魚のようにビン!と体を跳ね上がらせると、そのまま床に激突した。

「てめぇ、勘違いしてんじゃねぇぞ・・・これはてめぇらのラブ&ピースな物語じゃねぇんだ、これはキングコブラとしてこの地獄の精神病院に君臨する俺様の正月特別小説なんだ、だからあんまり臭いセリフとかはヤメて欲しいなぁ・・・」

 中村はそう言いながら再び新たな煙草に火を付けた。
「おい・・・起きろ・・・・」
 床でひっくりかえっている僕の体を、廊下から見ていた前園さんがゆっくりと起こした。そして前園さんは再び僕をその地獄の観覧席に座らせた。

「なぁ前園よぅ、おまえもこいつらにゃその耳の恨みがあるだろ。ロボトミーの手術、おまえにもやらせてやるよ。どっちか好きな方を選びな・・・・」

 中村はそう笑いながら煙草の煙をプカっと吹いた。

「そうですね・・・じゃあお言葉に甘えて僕は女の子をやらせてもらいましょうか・・・・」
 前園さんが鬼のような形相で僕を睨みながらそう言うと、中村は嬉しそうに笑いながら「でも、おまえロボトミーやったことあんのか?」と聞いた。

「いえ・・・松川がやられるのを見てましたけど実際には・・・」
 前園さんは自信なさそうにそう答える。松川というのは、中村に嵌められて特Aに監禁されている元特Bの看護士の事だ。

「そういやぁこいつも松川に似てるよな・・・あいつもバカな男だったよな、俺に内緒で恵子に手なんか出しやがってよ・・・だからあんな目に遭わされるんだよな・・・自業自得ってヤツだよへへへへへへへ」

 そう中村が言う恵子という女は、七号室で中村に惨殺された患者の事だ。そう、前園さんが好きだった患者だ。
「ま、ロボトミーなんて簡単だよ、今から教えてやるよ・・・ってその前に、第二ラウンドに備えてキツいのを一発キメてぇなぁ・・・」
 中村はそう言いながら腕の血管をペシペシと叩きながら、銜え煙草をしたままニヤッと笑った。

「あぁ、わかりました。すぐにシャブを用意します・・・」
 そう言って廊下に出て行こうとする前園さんに、中村は言った。

「じゃあ、ついでに電気ドリルとマイナスドライバーも持って来てくれ。この野郎、せっかくの俺様の神聖なセクスにマックだとかシェイクだとかガタガタとうるせぇからよ、おまえにロボトミーのやり方教えるついでに先に手術しちまうから」

 中村がそう言うと、前園さんは「わかりました」とニヤリと笑い、ついでに僕の尿道からジワっと小便が溢れた。

 シャブの入った注射器と、そして先に鋭利なドリルが刺さっているノコギリザメのような電気ドリルを手にした前園さんが部屋に戻って来ると、その頃には中村の二本目の煙草も短くなっていた。

「よっし!それじぁ手術を始める前に、と、キツーイのを一発入れて貰おうかなぁ・・・・」

 中村は片目の目玉をギラギラとさせ、シャブ中特有の唇をペロペロと舐める仕草をしながら右手を前園さんに差し出した。

 中村が注射されている間に、僕はベッドの上のあずみちゃんをソッと見た。
 この中村の注射が終われば、僕はもうあずみちゃんを見る事が出来なくなるのだ。今のうちに、まだまともな人間のうちにあずみちゃんをしっかりと脳に焼き付けておきたい。そんな気持ちから僕はポロポロと涙を流しながらあずみちゃんを見た。
 そんな僕にあずみちゃんは気付いてくれた。あずみちゃんも僕と同じようにポロポロと涙を流しながらジッと僕を見つめている。
 最後に一度だけあずみちゃんとキスをしたかった。いや、唇でなくてもいいあずみちゃんの指の先でもイイから、あずみちゃんの体温を唇に感じたかった。
 そんな僕をジッと見つめながらあずみちゃんが何かを呟いた。声は出さず口パクをしながら何かを呟いている。

「ん?・・・」

 僕はアザラシのように全身を皮の拘束具で固定されながら、首だけを「えっ?」と斜めに曲げた。
 そんな僕にもう1度あずみちゃんが唇を動かした。僕はそんなあずみちゃんの口パクを自分で真似てみる。

「し、ろ、い、や、つ・・・・白いヤツ?・・・・」
 
 ますます僕は意味不明になりもう一度首を傾げる。
 するとあずみちゃんは今度は声に出してハッキリ言った。

「マックのシェイクは白いヤツがいいの・・・」

 その瞬間、僕の目からワッと涙が溢れた。そして、あの時、あの、2人で病院を脱出した時の渋谷のマックで、あずみちゃんがマックの店員に向かって「マックシェイクの白いヤツ下さい!」と嬉しそうに叫んだシーンが僕の頭を走馬灯のように駆け抜けて行った。道玄坂のラブホテル。やきそばUFOのカップのような丸いベッドの上で朝まで抱き合って寝たあの薄汚いラブホテル。僕の名前を「イチイチだね」と笑い、ベッドの上をトランポリンのようにピョンピョン飛び跳ねていた妖精のような女の子は真っ暗なスーパーの裏で白い肌を輝かせながら服を着替え、そしてその超ミニのスカートから尻をプリプリと出して渋谷の街を嬉しそうに歩いていた・・・・もうすぐ、あと数分でそんなそんな甘く切ないあずみちゃんとの思い出が僕の脳から全て消されてしまう・・・・・せめて、せめてあの甘く切ない思い出だけでも残しておけるなら・・・・

 そう思いながら、あずみちゃんの優しい笑顔を見つめながら顔をグシャグシャにさせて泣いている僕に、電気ドリルを持った中村がゆっくりと振り向いた。
「いいか前園、穴を開ける場所を間違えたらダメだぜ。少しでも場所がズレてると一発でポンッ!とあの世に逝っちまうからな・・・」
 中村はそう言いながら、マジックで僕のこめかみに×印を書いた。僕はあずみちゃんをジッと見つめながら、いっその事、一発でポンッ!とあの世へ逝かせて欲しいと心で叫んだ。

「こうやってしっかりと頭を抱えておいて、この×印にゆっくりとドリルを埋め込んで行くんだ。この時、慌ててズボッ!とやっちうなよ、ゆっくりゆっくりちょっとずつ頭蓋骨を削って行くんだ・・・わかった?」
 僕は中村のその言葉をリアルに想像し、もはやその場で気を失いそうになった。
「なら、ちょっと片方だけ穴開けてみるからよく見ておくんだぜ・・・」
 中村が僕の頭をまるでラグビーボールのようにガッシリと抱えた。

 ガクガクと全身を震わすそんな僕を見て、あずみちゃんはまたしても「白いヤツね・・・」と呟いた。きっとあずみちゃんは僕の恐怖を取り除く為にそう呟いてくれているのだろう・・・そう、さっきの僕のように・・・・。

 グィィィィィィィィィィィン・・・・・・・

 僕の耳元で重いモーター音が鳴り響いた。僕は恐怖のあまり目を瞑りたかったが、しかし最後まで僕に笑顔を送ってくれているあずみちゃんのその笑顔から目を離す事は出来なかった。

「いいか、この場合、ドリルが頭にのめり込むと、血とか肉の破片とかが飛び散るからよ、そこんとこ注意しとかねぇと、血が目に入って見えなくなっちまうからな・・・」

 ドリルの音が段々と近付いて来た。

 さようならあずみちゃん・・・・・

「でも・・・ちょっと待って下さい・・・これ、ここに穴を開けてからどうすればいいんですか?」
 前園さんのその質問に、僕の耳元に響いていたドリル音がカタカタカタカタ・・・・っとフェードアウトしていった。
「あぁ、そうだったな。そこも今のうちに説明しておいた方がいいかも知れネェな、穴が開くとピューッと血が飛び出て大変だからな」
 中村は残酷にそう笑うと、ベッドの上に置いてあったドライバーを手にした。

 僕はそんな前園さんを激しく恨んだ。ここでこの恐怖をこれ以上引っ張るのはもう嫌だった。こんな恐怖をジワジワと味わうくらいならいっそのドリルをぶち込んで欲しかったと激しくそう思った。

「まず、こめかみに穴が開くだろ、そうしたらすぐにこのマイナスドライバーをその穴の中にスーッて入れるんだよ。このくらいまで・・・」
 中村はそう言いながら銀色に輝くマイナスドライバーの半分の位置を指差した。

「まぁ、頭蓋骨がゴリゴリしてなかなかスーッと上手くは入ってくれないと思うけど・・・・うん・・・とにかくぅ・・・・こうグリグリしながらさぁ・・・これを差し込んで・・・・ファァァァ・・・・」
 中村は、今まさに1人の人間が廃人になろうとしているそんな緊張した現場で、不謹慎にも大きなアクビをした。

「前頭葉ってのがあんだよ・・・それがろの部分らのかは、もれにもわかんねぇんだよどな・・・・とにかくろこをこのドライバーで・・・・」
 ふざけるな中村!なにが「もれ」だ!こんな時に変な2ちゃん用語を使うんじゃない!

「穴をグニグニと・・・・グニグニして・・・ろうるればもうろいつは・・・はいりんになっれ・・・・」
 そんな意味不明な言葉を呟きながら中村はゆっくりとベッドに腰を下ろし、そしてそのままドテッとベッドの上に倒れ、なんとも豪快な鼾をかきはじめた。

「えっ?・・・・・・」
 僕はそんな中村を見て、一瞬、この男はどれだけ人をバカにすれば気が済むんだと思いながら、それにしてはあまりにもリアルな鼾だと、何が何だかわからなくなった。

「豚おじさんの鼾うるしゃい・・・・」

 僕の目の前であずみちゃんがそう呟きながら耳を塞ぐと、いきなり僕の身体を締め付けている拘束具がジワっと緩みを帯びた。
「えっ?」
 僕は慌てて振り返った。

 そこには前園さんがニヤッと笑いながら、僕の拘束具を外していたのだった。


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「もう限界です・・・」

 前園さんはそう言いながら耳のガーゼをペリペリと捲った。
 そこは見事にスッパリと耳がそぎ落とされ、その傷跡はアルファベットの「C」を描きながらジクジクと真っ赤な血を滲ませていた。

「中村にカッターナイフで切られました・・・ここは病院なんだし、せめてメスとか使ってくれればいいのに・・・と思っている間に中村に切り落されました・・・錆びたカッターナイフじゃ痛すぎる・・・・」

 前園さんはそう言いながら再びガーゼを元に戻し、呆然としながらそれを見つめている僕に「まあ、気にしないで下さい・・・」っと優しく笑った。

 そんな前園さんが中村に打ったのは覚醒剤ではなく強力麻酔剤だった。
 前園さんは僕の身体中に固定されていた拘束具を全て取り除くと、今度はその拘束具を中村の体に素早く装着しながらこう呟いた。

「どっちみち、いつかは、彼とは何らかの形で決着をつけなくちゃいけなかったんですよ・・・・恵子の決着をね・・・」

 前園さんは完全にベッドに拘束されては部屋中に大きな鼾を轟かす中村を見つめながら静かに電気ドリルを手にした。

 グィィィン・・・・・・・

 前園さんはピストル型の電気ドリルのスイッチを確認するかのように一度だけ押した。一瞬だけ鋭く回転したドリルの先はゆっくりと止まる。

「ロボトミーを受けなければならないのは彼なんです・・・・彼の脳に宿るキングコブラのような凶暴な感情を停止させなければ、この先も犠牲者が増えるばかりなんです・・・・」
 中村を見下ろしながらそう呟く前園さんのコメカミに、小さな丸い古傷があるのを僕は発見した。
(前園さんもロボトミーを・・・・・)

「逃げなさい・・・この子を連れてどこか遠くに・・・・」
 ドリルを手にした前園さんは僕とあずみちゃんに振り返りながらそう言った。

「で、でも・・・・」
 僕はどうしていいかわからずただ呆然と前園さんを見つめていた。

「私もそうするべきだった・・・・あの時私も勇気を出して恵子と一緒にこの病院を脱走していれば・・・松川をあんな目に遭わせる事もなかったし、そして恵子も殺されずに済んだ・・・」
 前園さんは恵子という名前を口にする時、古傷が痛むようにギュッと目を綴じた。

「だからキミ達は逃げなさい。例え中村1人を廃人にしたとて、ここにはまだまだ凶暴なキングコブラがウジャウジャといます。キミを松川のようにしたくない、そして彼女を恵子のようにしたくない。だから逃げなさい・・・・」

「・・・・・・・・・・」

 ふと、静まり返った廊下から「♪星の流れに~身を占って~何処をねぐらの~今日の宿~♪」という誰かが口ずさむ歌声が聞こえて来た。
 隣のあずみちゃんをソッと見ると、あずみちゃんも僕をソッと見ていた。僕と目が合うなりあずみちゃんはゆっくりと僕の右腕に寄り添い、そして僕の耳に囁くようにして「マック・・・行こっ・・・」と微笑んだ。

「管理室のキミの元ロッカーに、キミのジャージと彼女のジャージを入れておいた。うん。ユニクロだけどね。それと、少しだが餞別も一緒に入れておいた。北海道辺りには行けるくらいの金は入れておいたからすぐに遠くに行きなさい。今ならまだ終電に間に合う!」
 前園さんはそう告げると、再び手に持っていたドリルをグィィィン!と鳴らし「捕まるなよ」と笑ったのだった。



 あずみちゃんの手を握ったまま管理室に飛び込むと、僕は急いで今まで使っていたロッカーを開けた。
 中にはユニクロの紙袋が詰まっていた。
 そんな紙袋の中から慌ててジャージを取り出す。そのジャージは2着とも上下ショッキングピンク色。しかもサイズは両方ともMだった。
 どうして前園さんはよりにもよってこんな色のジャージを・・・と呆然としている僕の隣であずみちゃんが嬉しそうに院内着を脱ぎ始めた。
 そしてピンクのトレーナーに頭を潜り込ませながらそれを着ると、ノーブラの胸をプリプリとさせながら「ダサっ!」と笑った。

 ペアルックのピンクのジャージに着替えた2人は廊下に飛び出した。
 明らかにこのMサイズのジャージは、あずみちゃんにはブカブカで、そして僕にはピチピチだった。
 そんな2人はまるで激痩せしたパーと激太りしたパーの林家ペーパーだ。
 これで北海道まで逃げるというのはかなりリスキーな事である。
 しかしどれだけリスキーであろうとも僕は逃げる。病院に追われ警察に追われ人生を棒に振ろうとも僕は逃げる。あずみちゃんと一緒ならば、例えこの後どんな地獄が待ち受けようと僕は逃げて逃げて逃げ切ってみせる。

 廊下の突き当たりまで走り抜けると、いよいよ社会へと繋がるゲートが現れた。
 ここを抜ければ自由だ。
 ポケットから鍵を取り出した瞬間、廊下の奥からグィィィィィィィィィという電気ドリルの音と共に「ウガァァァァァァァァァ!」という悲鳴が聞こえて来た。
 そんな中村の悲鳴に挑発された他の患者達が一斉に騒ぎ始める。

「死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!」

「ぎゃはははははははははははははははははははははははは!」

「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」

 そんなコブラ達の叫びを聞いたあずみちゃんが、目をギラギラと輝かしては「うはっ!」と興奮しながら飛び跳ねた。

 第三特別B病棟はいつもの元気を取り戻したようだ。
 僕はそんな患者達の奇声を微笑ましく聞きながら鉄格子のゲートに鍵を挿した。
 ガシャン!という重い音を立てて鉄格子のゲートを開くと、そこには寒々としたコンクリート剥き出しの階段が延々と続いていた。
 この灰色の階段は自由へと続く階段だ。
 僕はありったけの力を振り絞ると、あずみちゃんの小さな手をしっかり握りしめたまま自由への階段を駆け上った。

「どこに行くの?」

 階段を駆け上るあずみちゃんはハァハァと息を切らせながら不思議そうに僕に聞いた。
 僕は階段の途中で足を止め、ゆっくりとあずみちゃんに振り返った。

「とりあえず・・・マックに行こっか・・・」
 
僕がそう答えると、あずみちゃんは満面の笑顔で「うん!」と頷きながら、その輝く瞳でキラッ!と僕を見たのだった。

(38度5分のキングコブラたち・完)



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