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コブラ9




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「ここの患者を舐めてちゃいけませんよ・・・」

 酸素マスクを付ける僕の横で、前園さんがブツブツと呟きながらコーヒーを啜っていた。
 僕は、酸素マスクから出てくる爽やかな空気を穏やかに吸いながら、何度も何度も、どうやって自分がここに助け出されたのかを思い出していた。が、しかし、頭に浮かんで来るのは八号室の患者の不気味な笑顔だけで、後は何も思い出されなかった。

 そんな僕がやっと言葉を喋れるようになったのは、鏡嶋主任が出勤してきた頃だった。
「お風呂でのぼせちゃうなんて、今時、小学生でもやらないよ」
 鏡嶋主任は酸素マスクをあてている僕にそう笑いかけると、「二階でコーヒー飲んできますから」とまた管理室を出て行った。
「本当に申し訳ございませんでした・・・・」
 鏡嶋主任が出て行くなり、ソッと酸素マスクを外した僕は、事務椅子に座りながらテレビを見ていた前園さんに詫びを入れた。

「私が気付くのがあと一分遅かったら、死んでましたよ・・・・」

 前園さんはそう言いながらベッドをムクリと起き上がった僕をみてクスッと笑った。
 僕の首には大きな湿布がベタリと貼られ、その上に包帯が何重にも巻かれていた。前園さんいわく、僕の首には八号室の患者の十本の指の跡がクッキリと残っているらしく、当分の間は包帯で隠しておいた方がいいという事だった。
「いいですか。これからは絶対に私の言う事を聞いて下さいよ。そうじゃないと、あなた、本当に患者に殺されてしまいますよ」
 前園さんは、ベッドで項垂れている僕に、叱るようにそう言いながら笑ったのだった。

 しかし、僕は前園さんに注意されるまでもなく、もう患者と関わり合う気は一切失せていた。
 そう、あの時の八号室の患者の不気味な笑い顔がどうしても頭から離れず、今の僕はここの患者を性的に見るどころか、恐怖さえ感じてしまっているのだ。
 そんな脅えた僕には、もはや無抵抗のナメクジ女でさえヤル勇気は残っていなかったのだった。

 患者達に完全に脅えてしまった僕は、まだ首が痛いからという理由で次の夜勤も出勤しなかった。
 仕事をサボった僕は、ただひたすらアパートに籠っては借りて来たDVDを見続け、そして時折フラッシュバックのように現れる八号室の患者の笑顔にブルブルと脅えた。
 そんなヒキコモリな日々が4日ほど過ぎた頃、いきなり僕のアパートにタイ焼きをおみやげにぶら下げた前園さんがひょっこり現れた。

 前園さんは仕事をサボっている僕をひとつも責める事なく、垂れ流しになっているDVDをぼんやりと見つめながらモソモソとタイ焼きを頬張り、そしてふいに「あずみちゃん、凄く可愛いよ・・・」っとポツリと呟いた。
 おみやげのタイ焼きを手にしたまま一口も食べず、ただジッと項垂れていただけの僕が、そんな前園さんに恐る恐る顔をあげると、前園さんは前歯にタイ焼きのアンコをぐっちゃりとさせながら満面の笑みでニターっと微笑んでいた。
 そして目玉をギラギラと輝かせながらまたムシャっとタイ焼きに被り付き、それをモグモグと噛みながら「例のリストカットの女子高生。最近、ポツリポツリと話すようになりましてね、うん、やっぱり若い患者はいいですね、とっても可愛いよ、うん」と口をモグモグさせながら頷き、そして唇の端に大量の小豆を付着させては「今夜は入浴日だしね」とニヒヒヒヒヒっと嬉しそうに笑った。

 そんな前園さんの笑顔を呆然と見ていた僕は、迷う事なくその晩の夜勤は出勤したのであった。



 確かに、前園さんが言う通り、保護房のあずみちゃんはとても可愛い女の子だった。
 管理室で雑誌を読むフリをしながらそっと保護房を覗くと、あずみちゃんはいつも壁に凭れたまま体育座りをし、モジモジと動かしいる自分の足を指をジッと見つめていた。
 そんなあずみちゃんの保護房の前へ行き、全面アクリル板の扉の前に静かにしゃがみながら部屋を覗くと、僕に気付いたあずみちゃんはチラッと僕を見つめ、そして小動物的に「ん?」と首を傾げた。

 確かに、前園さんが言う通り、あずみちゃんのその仕草は堪らなく可愛かった。
 あずみちゃんのその細くて小さな体。手足が長く、顔が小さく、まるでアニメのキャラクターのようにバランスが取れている。そして何よりもその顔。どんなDNAからこれほどまでに可愛い顔が作られるのかと、まさにこれこそ「親の顔が見てみたい!」と言いたくなる程の美形で、ツンと尖った鼻先と、その黒目が大きな澄んだ瞳、そして、もしかしたら有名なイラストレーターが書いているのではないかと疑ってしまうくらいのその美しい唇は、まさに完璧な美少女とは彼女の為にある言葉だと、僕は廊下から彼女を見つめながらつくづくそう思った。

 僕はそんなあずみちゃんにジッと見つめられてはタジタジになりながらも、「あのぅ・・・」っと食器を出し入れする小さな小窓を開けた。
 あずみちゃんは体育座りをしたまま、黙って僕を見つめていた。
 僕は、そんなあずみちゃんともっと近くで会話したいが為に、わざと小さな声でゴニョゴニョっと言葉を発した。
「えっ?」
 あずみちゃんはもう1度首を斜めに傾けながらそう答えると、そのまま、床に敷かれたスノコの上で子猫のように四つん這いになりながらチョコチョコと小窓に向かってやって来た。
「体の具合はどうですか?」
 小窓の前にやって来た子猫に僕は優しく微笑んだ。
「うん・・・まぁまぁ・・・」
 四つん這いで小窓を覗き込むあずみちゃんは、暗い表情でポツリとそう答えながら、そのびっくりするくらいの大きな瞳に僕の顔を映していた。

「今夜、入浴日なんだけど・・・どうする?入れそう?」

 僕が看護士の顔でそう尋ねると、突然あずみちゃんはパッと表情を明るく変え「はりれれます!」と、今だクスリが効いているのかロレツの曲がらない口調でそう叫びながら慌てて何度も頷いた。
 やはり若い女の子には、この不潔極まりない劣悪な保護房はかなりキツいらしい。そんなあずみちゃんは、今すぐにでもお風呂に入りたいという凄い目力で僕を見つめながら、ウンウンっと頷いている。
「でも・・・傷。大丈夫かなぁ・・・・」
 僕はわざとらしく心配しながらも、あずみちゃんの両手首に痛々しく巻かれている包帯をソッと覗き込んだ。少しでも長くこの美少女と会話がしたかったからだ。
「れんれんらいじょうぶ!」
 あずみちゃんは曲がらない舌でそう叫ぶと、僕の目の前でスルスルと包帯を取り始めた。
「ほら!」
 あずみちゃんは包帯を外した手首を小窓にヌッと入れては廊下の僕に示した。
 赤いボールペンで線を引かれたような極細のカスリ傷がほんのりと瘡蓋になっていた。それはまるで、子猫と遊んでいるうちに、知らない間に子猫の小さな爪で引っ掻かれたような、そんな弱々しいカスリ傷だった。
 僕はそんなあずみちゃんの小さくて白い手をそっと握った。そしてあくまでも看護士的にその何でもないカスリ傷をジッと見つめた。あずみちゃんの小さな手はほんのりと温かくそして少し汗ばみ、桜貝のような小さな爪には、本棟で塗ったであろうと思われるピンク色のマニキュアが微かに残っていた。
「どうして・・・こんなことしたの?」
 僕は、あずみちゃんの手を握ったままソッとあずみちゃんの目を覗き込んだ。
 あずみちゃんは、一瞬、サッと心を閉ざしたように暗い表情をした。そしてゆっくりとその大きな瞳を床のスノコに移動させながら、静かに小窓から手を引き戻した。
「わかんないの・・・・」
 あずみちゃんはスノコの上に落ちていた包帯をタラタラと指で弄びながら淋しそうに呟いた。
 僕は、みるみると塞ぎ込んで行くあずみちゃんを見つめながら、これ以上、その傷については聞かない方がいいと思った。そして、項垂れているあずみちゃんを黙って見つめながら、白衣のポケットの中からキャラメルをひとつ取り出した。

「ねぇ・・・・」

 僕はあずみちゃんにそう声を掛けながら、それを小窓にそっと置いた。
 あずみちゃんは無言でゆっくりと顔を上げ、小窓の台の上に乗っている小さな四角いキャラメルをジッと見つめた。
「食べる?」
 僕は本棟の監視カメラを意識しながら小声で言った。
「・・・いいの?」
 あずみちゃんは不思議そうに僕の顔を見つめた。
「・・・内緒だよ・・・」
 僕はそう言いながら、天井の監視カメラの死角になる部分で静かにキャラメルの紙を破り始めると、わざとらしく「それじゃあ、一応、頭痛薬を飲んでおきましょうね」と監視カメラに聞こえるような大きな声でそう言った。
 あずみちゃんはそんな僕を見て小さくクスッと笑った。

「はい、それじゃあ、大きくアーンして・・・」
 
僕は手の平にキャラメルを隠しながらその手を小窓に入れた。保護房でクスリを与える場合は、患者が不正にクスリを隠し持たないようにと、看護士がこうして患者の口の中にクスリを入れる規則になっているのだ。
 そんな規則を知っていたあずみちゃんは、悪戯な瞳をキラキラとさせながら、僕の手の前で「アーン」と声を出しながら口を開けた。

 僕の目の前に、激カワ女子高生のピンク色に輝く口内がパックリと開いた。唾液でキラキラと光る小さな舌ベラはまるで銀座の三ツ星寿司屋の大トロのように鮮明な桃色を輝かせ、そしてそれを優しく囲んでいるかのように、並びの良い真っ白な歯がミルキーウェイのように連なっていた。

(舐めたい・・・・)

 僕はあずみちゃんの口内を覗き込みながら背筋をゾクっと震わせ、恐る恐る彼女の口の中にキャラメルを摘んだ指を入れる。
 彼女の真っ白な前歯が僕の親指に微かに触れた。なかなかキャラメルを離さない僕の指は彼女の喉から溢れて来る生温かい息で次第に湿って来る。
「あぁぁぁん!」
 あずみちゃんは、目を笑わせながら口をポカンと開けたまま「早く頂戴よ!」と言わんばかりに子供がタダをこねるようにそう唸った。僕はそんなキャラメルを離したくなかった。もう少し、彼女の喉から溢れる生暖かい息を指に感じていたかったのだ。
 そんなあずみちゃんの舌にみるみると唾液が溜って来るのが見えた。素直にその唾液を飲みたいと思ったその瞬間、いきなりあずみちゃんはパクッと唇を閉じ僕の指を銜えた。
 とたんに「ズキン!」という衝撃が僕の亀頭を襲った。
 あずみちゃんは口の中で舌を素早く動かし、僕の指からキャラメルを奪い取った。そして口に溜っていた唾液が溢れないように、僕の指に唇を窄めたままニュルッと顔を引き、ニヤッと嬉しそうに笑ったのだった。

 すぐさま管理室に飛び込んだ僕は、あずみちゃんの唾液がテラテラと輝いている自分の指の匂いをクンクンと嗅いだ。微かに唾臭いがほとんど無臭でおもしろくなかった。僕はその唾液付きの指を、そのまま舐めようかそれとも亀頭の尿道に擦り付けようかと真剣に悩んだ。そして散々悩んだ挙げ句、その指をパクッと口の中に銜え、まるでバカの子供のように隅々まで自分の指を舐めたのだった。


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 入浴は三号室から八号室の順番で、1人ずつ入るようになっていた。保護房や謹慎中の患者は一番最後と決まっているため、当然あずみちゃんは最後だった。
 入浴時間は1人20分と規則で決まっていたが、まぁ、大目に見て30分くらいはのんびりとさせてやっていた。
 本来の規則では、女性患者が入浴する場合は女性看護士が立ち会いのもとで行なわれるのだが、しかしここは地獄の特Bだ。女性の看護士なんて誰一人としてこの地獄の地下室に近寄る者はいなかった。

 そんな入浴室は監視カメラで確認する事が出来た。
 男の看護士が女性患者の入浴シーンをカメラで監視するなど、今のこの安全で安心のゆとり社会・日本では想像もつかないセクハラであり、どこかの女性人権擁護団体などという団体にこの実態を知られようものならさぞかし大変な騒ぎになる事だろうが、しかしこの特Bに限りそんな心配はなかった。そう、ここの患者は人権などというハイカラなものは持っていないからである。

 僕はいつものようにポテトチップスをボリボリと齧りながら、モニターに映る患者達をボンヤリと眺めていた。
 三号室のアル中がバスタブで溺れそうになるのをケラケラと笑い、四号室の茶髪女が意味不明な叫び声をあげながら狂ったようにシャンプーを身体中にぶっかけているのに腹を抱えて笑い、そして30分間ただ呆然と湯気の立ち籠める浴室に立ちすくんだままの五号室のナメクジ女を僕も30分間ただ呆然と見つめていた。

 そんな狂った女達が入った後の浴室は、まさしく水族館のような悪臭に満ち溢れていた。
 バスタブの湯には大量の垢と陰毛がプカプカと浮き、そしてかなりの確立で湯の中では小便をしていると思われた。
 僕はこんな地獄のような風呂に、あれだけお風呂を楽しみにしているあずみちゃんを入れる事はできなかった。
 さっそくバスタブの汚れた湯を抜き、ヌルヌルに汚れた洗い場の床タイルをデッキブラシで擦った。シャンプーとリンスとボディーソープを新しく詰め替え、歯磨き粉も新品の物を出してやると、やっとバスタブの汚れた湯が抜け、底に転がっていた2つのウンコが現れた。「恐らく八号室だな・・・」そう思いながらも、その忌々しく溶けかけたウンコを指で摘んでは取り除き、バスタブに洗剤をぶっかけてはデッキブラシでゴシゴシと磨き上げ、そしてサラサラの綺麗な湯をドボドボドボっと入れてやった。

 管理室に戻った僕は、浴室監視モニターのスイッチを切った。そして、一刻も早くあずみちゃんに会いたいという気持ちから、まだバスタブに湯が溜っていないうちから保護房へと急いだ。
 管理人室から出た僕が保護房に向かうと、今か今かと僕を待ちわびていたあずみちゃんは保護房のドアの前で嬉しそうにムフフフフっと笑っていた。
 そんなあずみちゃんに僕も笑いかけながら、保護房のアクリル扉の鍵をガチガチっと開けた。

 保護房の扉を開けると、あずみちゃんは嬉しそうにピョコン!と廊下に飛び出した。そして僕を見上げ「えへへへへ」っと微笑んだ。
 僕はそんなあずみちゃんをまずは管理室へ連れて行った。保護房には私物を持ち込めない為、保護房の患者の歯ブラシやタオルといった私物は管理室で保管されているからだ。

「4日間もお風呂に入らなかったなんて初めてなの・・・・」

 あずみちゃんは、自分の髪を指で摘んではそれを匂いをクンクンと嗅ぎながら僕と一緒に廊下を進む。瞬間、僕の脳裏には「4日間履き続けた激カワ女子高生の下着のシミはいったいどうなっているんだろう・・・」っという疑問が溢れ、とたんに僕の鼻息は荒くなった。

 管理室に入ると、僕はあずみちゃんの私物が保管されているロッカーを教えた。あずみちゃんは鼻歌を歌いながらロッカーを開けると、中に入っていたビニール製の大きな紙袋からガサゴソと衣類を取り出した。
 まだバスタブの湯は溜っていない。僕はそれをあずみちゃんに告げると、とりあえず事務椅子をあずみちゃんに薦めた。事務椅子にちょこんっと座ったあずみちゃんは「へぇ~・・・」っと珍しそうに管理室の中を見渡す。入浴室の監視モニターは事前に切っていた為、あずみちゃんに「浴室も監視されている」という警戒をされる事はなかった。

「なんか飲む?」
 僕はそんなあずみちゃんに聞いた。
「えっ?ホント!」
 あずみちゃんは大きな目を輝かせながら僕を見た。
「うん。アルコール以外だったらね」
「じゃあコーラ!」
 あずみちゃんは軽く握った両手の拳を唇の前にあてながら肩を窄めた。
 よく冷えたペットボトルのコーラを「プシュ!」と開き、それをあずみちゃんに手渡すと、あずみちゃんは「4日ぶりのコーラだよ」と嬉しそうに白い歯を輝かせ、それをゴクッと一口飲むなり「シュワシュワしてるね」と嬉しそうに笑った。

 僕はそんなあずみちゃんを正面の事務椅子に座りながらボンヤリと眺めていた。出来る事なら、こんな可愛い女の子とずっとここで過ごしていたいと素直にそう思う。
 ふと気がつくと、事務椅子の上で足をブラブラとさせながらコーラを飲んでいたあずみちゃんの視線が、僕の食べかけのポテトチップスをジッと見ていた。

「よかったらどうぞ・・・」

 僕はそう笑いながらあずみちゃんの前にポテトチップスを差し出す。
 あずみちゃんは「ムフっ!」と満面の笑みを浮かべながらボテトチップスに指を伸ばすが、しかしふいにその指がピタリと止まった。
「・・・・どうしたの?」
 僕はポテトチップスにゴミでも付いていたのかと、慌てて袋の中を覗き込んだ。しかし、そんな物はポテトチップスには付いていない。
「ん?」と、僕があずみちゃんの顔を見ると、あずみちゃんはジッと黙ったまま僕を見つめていた。
「どうしたの?・・・」
「・・・・・・」
 あずみちゃんは僕を見つめていた瞼をゆっくりと閉じ、そしてまたゆっくりと大きな瞳を開いては僕を見つめると、「どうしてそんなに優しいの?」と、びっくりするほど可愛い声でそう呟いた。

「もちろん、キミが可愛いからだよ・・・」

 などとは口が裂けても言えなかった。いや、ナメクジ女や八号室の色情魔にならそんな言葉はどれだけでも言えるし、例えウンコをしてるところだって見せてやる事ができるが、しかしあずみちゃんにだけは違った。そう、僕はあずみちゃんと接している間中、まるで学生時代に初恋をしたクラスメートの愛子ちゃんと喋っているような、そんな緊張の連続だったのだ。
「・・・いや・・・それは・・・」
 僕が言葉に詰まっていると、あずみちゃんは小さく首を傾げながら「あずみに同情してるの?」と聞いて来た。
「いや、同情だなんて・・・・」
「そうね、きっと同情してるのね。何度自殺しようとしても失敗ばかりしている死に損ないの私だもんね、哀れな女だと同情しているのね・・・」
 あずみちゃんはいきなり投げ遣りにそう呟くと、持っていたコーラをゴン!と事務机の上に置き、そして大きな瞳にたっぷりと涙を浮かべながら「もういい!」と管理室を飛び出そうとした。
「ちょっ!ちょっと待ってよ!」
 僕は慌ててそんなあずみちゃんの細い腕を掴んだ。
「同情なんてされたくない!」
 あずみちゃんは僕に腕を掴まれたまま、管理室の入口でポロポロと涙を流し始めた。
(おいおい、なんなんだこのコは・・・・)
 僕がそう対処に困っていると、いきなりあずみちゃんがクルッと振り返った。そして何にもなかったかのようにスッと椅子に座り直すと、再びペットボトルのコーラを手にし、そしてポテトチップスを前歯でカリカリと齧った。

「お風呂、まだかなぁ・・・・」

 あずみちゃんは事務椅子で両足をブラブラと振りながら、嬉しそうに僕を見て「ムフフフフっ」と微笑んだ。

 やっぱり、ここにやって来る患者というのは・・・・タダモノではない。


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 ほかほかの湯がバスタブにたっぷりと張られると、あずみちゃんは私物のお風呂セットを両手に抱え込みながら、嬉しそうに「じゃあ行って来るね」と僕に微笑んだ。
 僕はそんなあずみちゃんを見つめながら意味不明な幸福感に包まれ「いってらっしゃい」とハニカミながら微笑み返す。
 あずみちゃんは鼻歌を歌いながらスタスタと浴室へスリッパの音を立てると、すぐに浴室の手前で立ち止まった。

「そう言えば、さっき言ってた洗濯機ってどこ?」

 クルッと振り返ったあずみちゃんが僕を見つめて首を傾げた。
「洗濯機は脱衣場の中にあるよ」
 僕がそう伝えると、あずみちゃんは「了解!」となぜか右手を上げた。
「あっ、そうそう、ちょっと待ってて!・・・・」
 僕はそう言うと、不思議そうに首を傾げたまま立ち止まるあずみちゃんを廊下に残したまま、急いで管理室に戻った。そして、前園さんのロッカーを急いで爪楊枝でこじ開けると、中から「名湯シリーズ・奥飛騨の湯」と書かれた入浴剤を鷲掴みにし、再び廊下へ走った。

「これ、良かったら使ってよ・・・ちょっとオヤジ臭いかも知れないけど・・・」

 僕がそう言いながら、前園さんが夜な夜な夜勤で楽しみにしている入浴剤をあずみちゃんに渡すと、あずみちゃんは「わあっ・・・」と嬉しそうに目を大きくさせた。
「いいの?!」
 僕を見上げるあずみちゃんの瞳はキラキラと輝いていた。今時、「名湯の湯」ごときでこれほどまでに喜ぶ女の子というのは、ここの患者か女子刑務所の受刑者くらいだろう。
「いいですよ。あっ、それと、規則では二十分なんだけど、好きなだけ入っててもかまわないから」
「うそ!ホントに!」
 あずみちゃんは今にも僕に抱きつかんばかりに飛び跳ねながら喜び、そしてニヤニヤと笑いながら「いってきまーす!」と、両手でお風呂グッズを抱えながら僕に向かってバイバイと手を振ったのだった。

 あずみちゃんが脱衣場のドアを閉めるなり、僕は慌てて管理室に飛び込んだ。
 興奮のあまり、いきなり頭に浮かんだ「ドリフの早口言葉」をデタラメに口ずさみながら、浴室のモニターのスイッチを入れた。焦った時の僕の頭には、なぜかいつも「ドリフの早口言葉」が流れ出す。一度、じっくりと、本棟の医師に診てもらったほうがいいかもしれない。

 モニターには浴室と脱衣場の映像が二分割されて映し出されていた。僕は慌ててリモコンを手にするとモニター画面を脱衣場に切り替えた。あずみちゃんは抱えていたお風呂グッズを床に置くと、「♪ふんふん♪」と御機嫌に鼻歌を歌いながら院内着の帯を解く。因みに、この監視カメラはマイク機能が付いているため、どんな些細な音でも素早く拾う優れモノだ(但し、屁とかも聞こえる事があるため一概には喜べない。以前僕は五号室のナメクジ女の屁を延々と聞かされた事がありウツに入った事がある)

 帯を解かれた院内着がパラっと脱衣場の床に落ちると、目を疑う程に美しい美白裸体がそこに輝いていた。
 とにかく透き通るように白いその身体は、プルン!と小ぶりなヒップから背筋がスラッと美しく伸び、それはまるでバービー人形のようにスレンダーなスタイルだった。
 そして当然ながら胸も綺麗だった。決して巨乳ではなく、いやどちらかというと貧乳気味ではあるが、しかしそれはスレンダーな身体とのバランスが取れている丁度いい膨らみであり、その真っ白な乳肉がプルンと尖った釣り鐘型のオッパイの先には、桜貝のような乳首がツン!と上を向いていたのだった。

 僕の目に映るあずみちゃんの裸体は、まさしく「妖精」そのものだ。
 それは、ちょっと頭のおかしい妖精だけれど、僕は、そんな妖精の裸体を見つめながら、ふいに「彼女の為なら死ねる・・・」っと、愛と誠の岩清水君のような情熱的な言葉を口走っていた程だった。

 そんな彼女は、細くて小ちゃな身体を前屈みにさせると、その細い脚に白くて小さなパンティーをスルスルっと滑らせた。そしてそれを脱衣場の隅に置いてあった洗濯機の中にポイッと投げ入れると、あずみちゃんはピョンピョンと飛び跳ねるかのように浴室へと消えて行った。
 僕はすかさずモニターを浴室へと切り替えた。
 浴室の中はカメラが曇らないようにと随時換気扇が回っているため、モニターに映る浴室映像は鮮明に浴室を映し出していた。
 シャワーを出したあずみちゃんは、そのまま頭からシャワーをぶっかけた。そして噴射の強いシャワーに顔を向けると、そのまま降り注ぐシャワーに向かって「ふーっ・・・・」と安堵の溜息を漏らしていた。
 僕は、彼女が髪を洗い始めたのを確認すると、いよいよ作戦を実行に移した。いや、作戦実行などと大袈裟な事を言っているが、要するに、あの洗濯機の中からあずみちゃんの脱ぎたてホヤホヤのパンティーを盗んで来ると言う、タダそれだけの事である。

 僕は素早く廊下を進むと、音を立てないように脱衣場の扉を開けた。実際は、こんなビクビクしなくとも、患者が入浴している時は看護士は堂々と中を覗ける権限があったのだが、しかし、あずみちゃんに対してだけはどうしてもそんな手荒なマネはできなかった。

 洗濯機の扉をソーっと開ける。洗濯機のドラムに大量に積み重ねられたキチガイ共の洗濯物が、とんでもないケモノ臭を放ちながら僕を包み込んだ。この地獄のような汚物の中から一刻も早くあずみちゃんのパンティーを救出しなくては、ヤツラのケモノ臭が彼女のパンティーに染み付いてしまうのだ、と僕は焦る。
 しかし、そんなに焦る事はなかった。入浴が一番最後だったあずみちゃんの下着は、大量の洗濯物の上にパサリとその身を横たえていたのである。
 僕はそんなあずみちゃんのパンティーをソッと手にした。そのパンティーにはまだあずみちゃんの体温がほんのりと残っている。だからそれはあずみちゃんの物である事に間違いないのだが、しかし、ここは一応、念には念を入れないとマズい。もし間違えて、それが三号室のアル中おばさんの下着だったら大変だ。僕は白いパンティーに黒いマジックで書かれている番号を読み取った。

「11924・・・イイクニヨ。よし、間違いない」

 僕は静かに頷くと、あずみちゃんのパンティーだけを手にしたまま、静かに洗濯機の蓋を閉め、そして浴室を後にしたのだった。
 管理人室へ行くまでの廊下で、あまりの幸福感に包まれた僕はふと足を止めると、いきなり膝をグニャグニャと曲げながら、「♪生ムギ生ゴメ生タマゴ♪生ムギ生ゴメ生タマゴぉぉ~ぉぉぉぉ~♪」と、生前のいかりや長介が取り憑いたかのように「ドリフの早口言葉」を熱唱しながらこの悦びをヒシヒシと味わった。しかも、興奮するあまりに、ワケのわからない太鼓の音をバンバンバババン!と、そこらじゅうに唾を飛ばしながらリズミカルに口ずさみ始め、そして戦利品であるあずみちゃんのパンティーを右手で高く掲げては不気味なダンスを踊りながらで廊下を進む。
「♪カエルピョコピョコ三ピョコピョコ♪合わせてピョコピョコ六ピョコピョコぉぉぉ~ぉぉぉぉぉ~♪」と調子に乗って2番まで歌い出すハイテンションな僕。挙げ句の果てにはリオのカーニバルのように「ハッ!ハッ!アララララララ!」と奇声をあげながらサンバなのかなんなのかわからないデタラメダンスを尻をフリフリ踊り始めると、いきなり廊下から「うるせぇバカ!死ね変態!」という、五号室の茶髪患者のツッコミがすかさず入ったのだった。


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 管理室の事務机に静かに座った僕は、机の上にあずみちゃんの使用済みパンティーを見つめながら、「さて・・・」っと感情込めてひとこと呟いた。

 激カワ女子高生が4日間履き続けたパンティー。

 これに興味を示さない男がこの世の中に何人いるだろうか。
「そんな汚ねぇモン、全然興味ねぇしぃー」と、あたかもキムタクの口調を意識しながらそう思った御仁がもしこのブログに御見えでしたら、その方は今すぐにでもこのブログを立ち去って頂きたい。そんな想像力に欠けた御仁は、今すぐこの変態小説を立ち去り、無料のサンプル動画見放題のインチキ臭いサイトへと飛び、ほんのわずか数十秒のエロ動画に煽られては慌ててズボンを下ろし、「おぉぉ・・・すげぇ・・・」と唸りながらチンポをシゴいたのはいいものの、しかし発車寸前に動画は終わり、いきなり現れた「会員登録はこちらにアクセス!」という冷血な画面を見つめながら後悔の射精するがいい。

 僕は、そんなあずみちゃんの白いパンティーをジッと見つめながらも、同時に浴室監視モニターに映るあずみちゃんの裸体を見つめた。
 残念ながら、モニターにはあずみちゃんの背中しか映っていないが、しかし、椅子の上で前屈みになりながら洗髪しているあずみちゃんのポッコリと突き出した尻はバッチリと拝む事が出来る。僕はその白桃のような見事なケツのワレメにカメラをズームする。幸い、カメラがズームする時の電子的なズーム音はシャワーの音で掻き消される為、あずみちゃんには気付かれる事はまずない。

 真っ白な尻の谷間の中に、ほんのりと黒ずんだ部分が見えた。彼女のカルテによると、彼女がこの病院に入院したのは今から二ヶ月前。恐らくこの二ヶ月間、彼女はきっと無駄毛の処理を怠っているに違いない。という事は、そこにほんのりと見える谷間の黒ずみは、彼女の「ケツ毛」という可能性もなきにしもあらずなのだ。

 激カワ女子高生のケツ毛。

 これに興味を示さない男というのは、この世の中にいったい何人いるのだろうか。
「それ、興奮するとこじゃないっしょ」と、これまた、あたかもスマスマのキムタクがゲストの笑福亭鶴瓶にツッコミを入れる口調で、今、この小説にツッコミを入れた御仁が御見えでしたら今すぐにこのブログをお去り下さい。激カワ女子高生の「ケツ毛」、若しくは「尻谷間の黒ずみ」にロマンを感じない御仁は、今すぐ、「タイトルだけやたらとショッキングなくせに小説内容が薄く、その癖やたらめったら広告の多い官能小説ブログ」へとお進み下さい。そしてそんなブログでタイトルだけショッキングな小説を読んでいると途中でいきなり現れる「続きを読む」を何の疑いもなくクリックし、するとその小説の続きどころか、「淋しいからあなたを待ってます・・・」と、いきなり現れた「出会い系」の広告に、コンニャロ!と頭に来たあなたは、更に更にそのブログの隅に貼ってある「家出娘が待ってるよ!」というあまりにも不自然なバナーを踏んでしまい、そしていつの間にかどこか遠い世界へと導かれて行ってしまうのであります・・・。

 僕は、モニターに映るそんなあずみちゃんの尻の谷間をドアップにしながら、白くて小さなパンティーを恐る恐る広げた。
 そんな彼女のクロッチは予想以上に凄まじい汚れだった。恐らく、保護房に入れられた2日間は睡眠剤で眠らされていた為、尿道にカテーテルを入れられていたのだろう、そこからジワジワと尿が洩れ、それが4日経った後、この壮大なシミを作り上げたに違いない。
 クロッチにはそんな茶色くシミ付いた小便のシミがまるでアメリカ大陸のように全体に広がり、そしてその中心に、本命であるオリモノ群が「縦ジミ一本主義」的に膣の姿を形取りながらクリーミーな色合いを醸し出していた。

 そんなクロッチを一言で表現するなら、それは「悲惨」だった。このクロッチを広げたパンティーを四号サイズの額縁に入れ、銀座1丁目の画廊「ギャラリー新陽堂」の片隅にソッと掲げていようものなら、物知り顔の初老の男性がその額に収められたあずみちゃんのパンツを見つめながら「ほう・・・・」と深い溜息をつき、そして、画廊の隅で、中国の消印が押された段ボールの中からニセモノのピカソの絵をせっせと取り出していたベレー帽のホモ主人に、「これこれ、この『悲惨』という素晴らしい作品の作者は誰かの?」と、きっと尋ねるであろうと予想できるくらいの、それはそんな芸術作品だった。

 クロッチの中心に一本の線を作っていたオリモノは、4日の間に何重にも重ねられてはまるで瘡蓋のようにカリカリに乾いていた。僕はそんな悲惨なクロッチを恐る恐る鼻先に近付け、アイドリング程度にほんの少しだけ「クン・・・」っと嗅いでみた。
 一瞬、「おや?」っと首を傾げてしまった。そう、これほどまでに悲惨な芸術作品にも関わらず、そこにはあの使用済みパンティー独特の「ツーン!」とした刺激臭が漂って来ないのである。

「嘘だろ?」

 僕はもう一度クンクンと嗅いでみた。しかし、そこにはクレゾールの消毒臭が漂っているだけで、あの野趣あふれる暴君な香りはない。ただ、ほんのりと汗とアンモニアが乾いた香りはするものの、しかし肝心なイカ臭やチーズ臭といった、日本古来より伝わる女性本来のオマンコ臭がまったく漂って来ないのである。
 これにはさすがに調子抜けした。先日など、ナメクジ女のパンティーの匂いを嗅いだ時には、そのあまりの強烈な臭さに目をやられポロポロと涙を流しながらもクンクンとそのゲテモノを嗅いだものだが、僕はそれくらいの強烈な刺激臭を、いや、それ以上の魑魅魍魎とした激臭をこの激カワ女子高生が4日間履き続けたパンティーに期待していたのだ。
 なのに、まさか無臭とは・・・・僕は落胆した。

 しかし僕のペニスは、そんな僕の心情とは裏腹に、強烈に勃起していた。
 スボンからソレを取り出すと、既に尿道から溢れていた大量の我慢汁が僕の紀州梅のような亀頭をギラギラと輝かせている。
 僕は彼女のパンティーを鼻に押し付けながら深い息を吸い、そして事務椅子に凭れて足を伸ばしながらペニスをシコシコとシゴいた。何重にも積み重ねられたオリモノ化石の奥から、微かに「人間らしい匂い」が漂い、おもわず興奮した僕はその一本筋のオリモノを舌先でチロチロと舐めた。
 化石のように固まっていたオリモノは、まるで瞬間冷凍されていた冷凍食品のようにみるみるとその身を溶かし始めた。すると僕の舌先に、あの濃厚なオリモノ特有のなんとも言えないドロッとした食感が絡み付いて来た。僕はそんな彼女の汚物を味わいながら舐めまくり、実際に彼女のアソコを舐めている気分に浸っていたのだった。

 と、その時だった。

 一瞬、僕の耳に信じられないような「声」が春の微風のようにさりげなく通り過ぎて行った。
 今のはまさか・・・・
 僕は凭れていた事務椅子から身体を起き上がらせ、慌ててモニターのリモコンを手にすると、浴室監視モニターに向けて音量を上げた。

「ふうぅぅぅん・・・・」

 間違いない。その声は、まさしく浴室のカメラが捉えた音である。
 慌てた僕はカメラの角度を微調整し、かろうじて椅子に座る彼女を斜めから撮影する事に成功した。
 僕はそんなモニターを見つめながら、まるで目の前で飛び降り自殺の瞬間を目撃したかのように凍り付いた。そう、なんと彼女は、自分の股間にシャワーを押しあてていたのである・・・・


(つづく)

《目次に戻る》 《第10話へ続く》



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