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コブラ4


              10


 僕は、紙袋の中身を事務机の上に取り出した。いつの間にか僕のペニスはダラリと萎え、事務椅子に腰掛ける僕の股間からニトーッと垂れたカウパー液が床に水溜まりを作っていた。

 今だにモニターに映るモモコ患者は、両足を出産時の妊婦のように広げてはアンアンと喘いでいるが、しかし今はそれどころではなかった。
 前園さんのロッカーに隠されていた紙袋の中には、電動バイブ、巨大ディルド、ピンクローターに電マといったアダルトグッズがゴロゴロと詰まっていた。
 それらは明らかに女性用のアダルトグッズばかりで、それがここに置いてあるということは、これを使用するのは特Bに収容されている患者としか考えられなかった。

 そしてそれを証明するかのように、そのグッズを使っている患者達を撮影しているポラロイド写真が百枚近くある。
 これはきっとデジカメがまだそれほど普及されていない頃の写真と思われ、そのポラロイド写真の日付も、やはり1997年の物ばかりだった。それは、特Bの夜勤が長い前園さんが、かなり以前から患者への性的虐待をしていた事を示す証拠だった。
 そんなポラロイド写真に写る患者達は、そのほとんどが全裸のまま拘束ベルトで固定されている物が多く、固定されたまま電動バイブを性器に入れられているものから、真っ赤なロウソクを垂らされているもの、又は、目も背けたくなるような大量の汚物が撒き散らされたスカトロ写真なども交じっていた。

 そんな写真の数々を、背筋が凍る思いで見ていた僕は、そこでなんとも凄まじい1枚の写真を発見した。
 それは、十代と思われる幼い少女の写真だった。その少女は口に猿ぐつわを噛まされ、素っ裸の全身を拘束ベルトでベッドに固定されていた。
 その時の意識はあるらしく、少女は大きな目をギョロっと開いている。そんな身動きできない少女の体に1人の男が腰を振っていた。
 男は、両肩に極彩色の刺青を入れており、そんな彼が病院の職員ではない事は明らかだ。

(こいつは誰だ?)

 部外者がこの病棟に出入りするのはまず不可能だ。この地下にある特Bに来るまでにはいくつかのゲートを通過しなくてはならず、そのゲートは本棟にある監視室から監視カメラで逐一チェックされているため、侵入者や脱走者があった場合はすぐに警備員が駆けつけるシステムになっている。だから部外者がこの地下の特Bに侵入するのは、例え前園さんの手引きがあったとしてもまず不可能なのだ。
(では、いったいこいつは誰なんだ?)
 そう震えながらその悲惨な写真を見つめていた僕の頭に、ふと、あるシーンが浮かび上がった。
(・・・・まさか!)
 僕はその写真に映っている男のイレズミをしっかりと頭に焼き付けると、そのまま管理室を飛び出した。居室には目もくれずに特Bの廊下を走り抜けると、廊下の突き当たりを右に曲がって頑丈な鉄扉の前に立った。

『特別第三A病棟入口・関係者以外立ち入り禁止』

 そんな威圧感漂うプレートが掲げられている鉄扉に、震える手で鍵をガチガチと差し込むと、僕は大きく深呼吸しながら、ゆっくりとその重い鉄扉を開けた。
 扉を開いた瞬間、ズラリと並ぶ特別室の廊下にどこかの部屋から聞こえて来る男の泣き叫ぶ悲鳴が響いていた。

「もうしませんから許しでくだじゃい!」

 そんな中年男の叫び声の後に、バシっ!という鈍い音が続き、すかさずその中年男の「ぎゃゃゃゃ!」という悲鳴が響いた。
 一瞬にして僕の足が竦む。
 しかし、もうここまで来てしまった以上、ソレを確かめるまでは帰るわけにはいかない。

 僕は誰もいない廊下を、スリッパの音を立てないように素早く移動した。
 それを確認してどうこうするつもりはないが、しかしこの病院には何かとんでもない秘密が隠されているような気がして、それをただ単に知りたかっただけなのだ。だから僕は、一刻も早くソレを確認だけして、このアウシュビッツのような病棟から逃げ出したかった。

 確か、ヤツがいたのは真ん中辺りの部屋のはずだった。僕は1部屋ずつ覗き込みながら素早く移動する。
 いきなり部屋を覗き込む僕に、牙を剥き出しては扉に体当たりしてくる患者や、物を投げて来る患者、又は、僕の目をジッと見つめながら、絞め殺されるニワトリのような奇声をあげる患者など、この病棟の患者は凶暴なヤツばかりだった。
 僕はそんな患者達にいちいち怯えながら急いで部屋を覗き移動した。
 すると、七号室と書かれた部屋に、ランニングシャツから刺青を出している男がスパスパと煙草を吸っているのを発見した。
 そう、この男は確か名前を中村といい、以前前園さんが「特に凶暴なヤツだから気をつけるように」と教えてくれた男だった。

 男は、いきなり部屋を覗いた僕に、一瞬、ギョッとした表情で動作を止めた。もちろん、部屋内での喫煙は禁止されている。っというか、煙草を病棟に持ち込むことすら、この病院では絶対に禁止されていることなのだ。
 僕は、この男がどうやって煙草を部屋に持ち込んだのかと一瞬不思議に思ったが、しかし今はそれどころではない、今は、彼のイレズミとポラロイド写真に写っていたイレズミが同じかどうかを確認するのが先決なのだ。

「・・・な、なんだよテメェは・・・・」

 男は火の付いた煙草をソッと後に隠しながら、ゆっくりと立ち上がった。今にも、この強化アクリルをぶち破って僕に襲いかかって来そうな迫力でノシノシと扉に近付いて来る。
 僕はそんな男の右肩に彫られている「おかめとひょっとこ」のイレズミをはっきりと確認した。間違いない。この男は、あのポラロイド写真に写っていた男に間違いない。
 それを確認した僕は、男がジワジワと迫って来る鉄扉から一歩下がった。
 そして特Bの方向へ体を向けようとした時、いきなり廊下の奥から「おい!」という威圧的な怒号が僕の背中に降り掛かった。

「なんだおまえは!」

 僕が慌てて振り向くと、そこには、まるで柔道の金メダリストのような体格をした屈強な男が三人、僕を恐ろしい目で睨んでいた。

「あ、いや、僕は、その、隣の特Bの夜勤看護士でして・・・・」

「特B?・・・メス豚の飼育係がウチに何の用だ・・・・」

 まるで刑務所の刑務官のような制服を着た厳つい大男が、肩を怒らせながら僕に向かってノッシノッシと向かって来た。
 そんな大男達の足下には、顔中をパンパンに腫らせては、まるでホラー映画の特殊メイクのような顔をした患者が、大男のうちの1人に襟首を掴まれては引きずられたままヘナヘナと倒れている。
「いえ、ちょっと、こちらの夜勤の方にお知らせしたいことがありまして・・・・」
 迫って来る大男にビビりながら慌ててそう答えると、七号室のイレズミ患者が慌てて煙草の火を消しているのが見えた。

「あん?お知らせ?・・・なんだよお知らせって・・・」

 キャッチャーミットのような巨大な握り拳を作ったまま足を止めた大男は、僕の目の前に立ち塞がりながら小さな僕をヌッと見下ろした。
「いや、あの・・・そこの患者が、部屋の中で煙草を・・・・」
 僕は、大男の意識をイレズミ患者に向けさせようと咄嗟にイレズミ患者の喫煙を密告した。

「なにぃコラぁ!」

 鉄扉の強化アクリルの向こう側からイレズミ患者の籠った叫び声が聞こえて来た。
 イレズミ患者はバンバンとアクリルを叩きながら、「ふざけてんじゃねぇぞ小僧!」と動物園のゴリラのように必死に叫んでいる。

「・・・どうしてそれが特Bのおまえにわかったんだよ・・・・」

 大男は爪楊枝のような細い目で僕を威圧的に見下ろしながら呟いた。

「いや、それは、その、隣までですね、煙草のニオイがプ~ンと・・・・」
「匂ったのか?」
「はぃ・・・・」
「隣まで?」
「はぃ・・・・」
「煙草のニオイがこの頑丈なコンクリートを伝って隣まで匂ってきたって言うんだな?」
「・・・・・はぁ・・・」

 大男は「ふん」っと鼻で笑うと、いきなりイレズミ男がいる七号室の小窓を開けた。
 アクリルの小窓を開けられた部屋の中からは、明らかに煙草のニオイと思われる香りがモワッと溢れ出て来た。
 僕は、心の中で(ほらね)と呟きながら、恐る恐る大男を見上げた。
「てめぇ・・・上等じゃねぇか・・・」
 イレズミ患者が小窓から僕を覗き込み、低い声でそう脅した。
 しかし、こうも明白に喫煙が発覚してしまっては、今さらイレズミ患者も逃げ切れないだろう。ふふふ、こいつは確実に懲罰房送りだな。
 そう思った僕は強気になって「あなたの喫煙は院の規律違反ですよ」と、胸を張って言ってやった。そして、手柄を立てた小役人のように「へへへへ」っと大男を見上げると、大男は、いきなり胸のポケットからマイルドセブンの箱を取り出した。
「いやいや、僕は煙草は吸いませんので・・・・」
 そう僕が辞退すると、なんとその大男が持っているマイルドセブンの箱は、七号室の小窓にサッと向けられたのだ。

「申し訳ない中村さん・・・」

 大男がそう言いながらイレズミ患者に煙草を差し向けた。
 中村と呼ばれるイレズミ患者は、小窓から僕の顔をおもいきり睨みながら「ちっ」と舌打ちをし、そして大男の手から煙草を1本抜き取った。
「えっ?でも、これは、えっ?」
 僕は焦った。
 あたふたと焦りながら大男を見上げる。

「おまえ、新入りか?」

 大男はケモノのような汗臭さを全身から発しながら低く呟いた。
「・・・はい・・・昨日から特Bに配属されました・・・・」
 すると、大男とその後にいた別の大男達、そして七号室のイレズミ患者までもが、一斉に鼻で「ふふん」っと笑った。いや、大男達の足下に引きずられているアンパンマンのような顔をした患者までもが笑ったかも知れない。

「とりあえず、ちょっとウチの事務所まで来いや・・・ここのシキタリをきっちりと教えてやるから・・・・」

 大男が低くそう呟くと、いきなり大男の後から別の大男がしゃしゃり出て来て、僕の肩の白衣を鷲掴みにしながら「よし、行こうか・・・」と引っ張った。
 僕はフラフラと体をよろめかせながら「いや、ちょっと待って下さいよ」と震える声をあげた瞬間、いきなり僕の背後から「松岡君!ちょっと待った待った!」という声が聞こえた。
 振り向くと、そこにはジャージ姿の前園さんがニヤニヤ笑いながら立っていたのであった。


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「こんな事だろうと思ったんですよね・・・・」

 特Bの管理室の椅子に座る前園さんは、呆れた表情で僕を見つめながら「ふふふふ」っと笑った。
 前園さんはパチンコ帰りなのだろうか、先程、耳の穴に入っていたパチンコ玉はもう無くなっていた。

「あのままだったら、市原さん、間違いなくあいつらにハンバーグにされていましたよ・・・・」
 前園さんはそう言いながら、事務机の上に散らかしたままのポラロイド写真を1枚1枚手に取って眺めていた。
「・・・あ、あの人達はいったい何者なんですか?・・・ここの職員ですか?」
 僕は、机の上に出しっぱなしになっていたポラロイドを見つめる前園さんを恐る恐る見つめ、(しっまった・・・)っと思いながら小声でそう聞いた。前園さんのロッカーを勝手に荒らしたというのがバレてしまい凄く気まずい。

「えぇ、あいつらは私と同じ無資格の看護士ですよ。隣は特に危険ですからね、ここの看護士達は誰もここの夜勤をやりたがらないんですよ。だから我々のような無資格の看護士が雇われているんです・・・」

 前園さんはそう言うと、ジッと眺めていた自分の私物のポラロイドをポンと机の上に投げた。僕は、それを咎められることが恐ろしく慌ててその話題を引っ張った。
「みなさん、求人募集かなんかでココにやって来たんですか?・・・・」
 そんな僕に、前園さんは「は?」と呆れたように笑った。
「求人募集しても、こんな職場に働きに来るヤツなんていないでしょ・・・・給料は激安だし危険だし汚いし・・・もしかすると命まで狙われますからねぇ・・・・」
「・・・じゃあ・・・どうやって?・・・・」
「この特別病棟の無資格看護士は、みんな元々ここの患者だったヤツですよ。ここを退院しても精神病院出の者なんてどこも使ってくれませんからね、だからここの院長がね、お慈悲でここの退院者を雇っているってわけですよ・・・・まぁ、お慈悲って言うより、職のない退院者を激安で上手く利用してるだけなんだけどね、ふふふふふ・・・」
 僕はドキドキしながら恐る恐る前園さんの顔をジッと見た。
 すると前園さんは僕と目が合うなり、「そうですよ。もちろん私も特Aの元患者でした」と、サラリと言ってのけたのだった。

「私は若い頃からアル中でしてね。ここの病院は出たり入ったりを何度も繰り返していたんです。それで、あれは今から十五年くらい前になりますかね・・・・私はとうとう幻覚を見るようになってしまいましてね、その幻覚ってのが、またリアルでねぇ、女房が私を殺そうとしている幻覚なんですよ。で、こりゃマズいぞって思った時にはね、気がつくと女房の腹をブスッと刺してましたよ・・・・」

 身動きもせず聞いていた僕の喉はいつしかカラカラに乾いていた。目の前に飲みかけのぺプシがあったが、今はそれを手に取る勇気は僕にはなかった。

「まぁ、急所が外れていましたから、幸い死にはしませんでしたけどね。それで私は精神鑑定されて、刑務所の代りにこの病院に隔離されたんですよ。もちろん特Aです。四年間完全隔離されましたよ」

 前園さんはそう笑いながらサントリーのウーロン茶をゴクッと飲んだ。
 その隙に僕もぺプシを飲もうかと悩んだが、しかし、前園さんの唇がペットボトルからプチョっと離れた瞬間からまた話しが始まったため、そのタイミングを逃してしまった。
「でもね、四年間も地獄の特Aに隔離されたおかげで酒をヤメることができましたよ。うん。だから今こうしてここで働かせてもらえるんですけどね・・・」
 前園さんはそう頷きながら煙草に指を伸ばした。
 僕はぺプシを飲むなら今しかない!と思いながら、ソッとペプシに手を伸ばしながら、誤魔化すかのように「もう、全然お酒は飲みたくないんですか?」と擦れた声で聞いた。
「いや、そりゃあ飲みたくなる時もありますよ・・・退院して最初の頃は、こっそり飲んだりしてたんですけどね、でもね、一滴でも飲んじゃうとたちまちフラッシュバックが起きてね、また気持ち悪い幻覚を見るんですよね・・・」
 僕はそんな前園さんの話しを聞きながら、カラカラに乾いた喉に生温いぺプシをゴボコボと流し込んだ。
 幸い、炭酸はほとんど抜けていたせいか、それはすんなりと僕の胃袋の中へと流れ込んでくれた。

 僕はそんなペプシを飲み干すと、ゲップが出そうなのを我慢しながら「よくヤメることが出来ましたね」と無意味に感心したりして、無意味に前園さんを煽てたりした。そうやってこの話しを終わらせないように話しを引っ張らなければ、話題はテーブルの上のポラロイド写真に行ってしまうと、僕は焦っていたのである。

「まぁね・・・私は重病のアル中患者でしたからね・・・・まぁ、あれだけアル中だった私が酒をヤメられるようになったのはね、他に趣味ができたからですよ・・・」
「へぇ・・・趣味ですかぁ・・・・」
 僕は頷きながら「どんな趣味です?」と、優しく微笑みながら聞いた。

「これですよ」

 前園さんはポラロイド写真をヒラヒラさせながらそう笑った。
 その瞬間、僕の腹の底から途方もなく長いゲップが、「ブゴォォォォォォォ・・・・・」と、まるでスイスの管楽器のような音を立てて特Bの廊下に響き渡ったのだった。


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「これはね、私の趣味なんですよ・・・ですから、ここにいる患者達はみんな私のコレクションなんです・・・」

 前園さんは低くそう呟きながら濁った目をギラリと光らせた。
「もちろん、私がこんな事をしてるなんて病院側は知りませんよ・・・こんな事が世間に知れたら大騒ぎになりますからね・・・・」
 前園さんは、「でも・・・」と話しを続けながらゆっくりと煙草の煙を吐いた。
「この第三特別病棟で働いている無資格の看護士達は全員知ってますけどね・・・・」
 僕の脳裏に、先程の大男の不気味な細い目がフッと浮かび上がった。
「で、市原さんがさっき特Aであったこの男ね・・・・」
 前園さんは、ポラロイドに映っている、おかめひょっとこのイレズミを入れた男を指でトントンと叩きながら僕を見た。

「こいつ、中村っていうシャブ中なんですけどね、ここら辺りでシャブの総元締してるヤツなんです・・・5年前、宇都宮で自分の組の親分と兄貴分を射殺して逮捕されたんですけど、でも弁護士が優秀だったから彼は精神鑑定を受けて、見事、精神病のライセンスを取ったんです。それからずっとここに隔離されてるんです・・・」

 僕の頭の中で、シャブ中・総元締・射殺、という言葉が激しく入り乱れた。

「まぁ、いわゆる、ヤツはここのボスですよ。だから、私たちみたいな元患者の無資格看護士なんてのは、みんなあいつの手下なんです」

 僕の頭の中で入り乱れていた雑魚言葉は一気に吹っ飛び、「ボス」っという言葉だけがひたすら壮大に聳え立った。
「だからね、あっちの無資格の看護士達は、煙草や食べ物や酒、それにシャブなんかも提供しなきゃならないんです。もちろんこっちも・・・」
 前園さんの言う「あっち(特A)」という言葉から、僕はすぐに「こっち(特B)」を連想した。という事は、こっちが提供するのは・・・・・と、僕がそれを言い掛けた時、前園さんが僕の顔を見つめながら静かに頷いた。

「そう。こっちは女を提供しなくちゃならないんです・・・・」

 前園さんはそう言いながら、苦虫を噛み潰したような顔をしてポラロイドに映るボスの顔を指でトントンっと叩いたのだった。

 女。
 この場合の「女」は、もちろん特Bに収容されている患者を意味する。ここは社会から隔離された精神病院。その中でも、社会からも病院からもそして家族からも見放された孤独な異常者達が厳重に隔離されている地下の第三特別病棟。しかもそこは、夜ともなれば医師や看護士の姿は消え、元患者である無資格看護士達の支配下となり、彼らは患者を暴行し虐待しそして犯す。無秩序となった夜の病棟はドラッグとセックスと暴力に満ち溢れては狂気と化し、そして地獄と化していく・・・・

 ここなら、そんな野蛮な話しもありえない話しではない。そう思う僕は、看護士として問題の多いこの僕が、なぜこの病院にすんなりと雇ってもらえたのか、今やっとわかったような気がした。
 こんな僕を二つ返事で快く雇ってくれたこの病院の院長は、僕のような脛に傷を持つ看護士ならば、この狂気の第三病棟で上手くやっていけるだろうと、きっとそう思ったに違いないのだろう。

「こういうの・・・嫌いですか?」

 ふいに前園さんが、全裸でロープに縛られた患者が肛門にバイブを入れられながら下痢糞を垂らしているポラロイドをヒラヒラと振りながら、僕を試すかのようにそう笑った。
 僕はゆっくりと瞼を閉じ、疲れた目に潤いを与えた。あまりにも衝撃的な事実を聞かされていた僕の脳は、瞼が閉じられた暗闇の中でひとときの安らぎを味わった。そして、脳が落ち着いて来た所でゆっくりと目を開けると、僕は机の上に置いてあった1枚のポラロイドを摘んだ。

「・・・ソッチ系よりも、僕はコッチ系が好きですね・・・」

 僕は、催眠剤で眠らされている患者が背後から犯されている写真を前園さんにヒラヒラ振りながら、不敵に笑った。

「あなたとは上手くやっていけそうだ・・・・」
 前園さんはそう笑いながら僕に握手を求めて来た。
 僕は、まだ喉の奥に残っていたゲップをゆっくりと吐き出しながら、前園さんの手を強く握ったのだった。

(つづく)

《目次に戻る》 《第5話へ続く》



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