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えんとつ10

2012/05/30 Wed 23:02

タイトル10



―10―

 長屋に戻った松沢は、さっそく『富士フィルムプリント』と書かれた袋から数枚の写真を取り出した。それは、双眼鏡に内蔵されているデジカメで東京スカイツリーから煙突の影が指す場所を撮影した写真だった。

 あらゆる角度から撮った写真を畳の上にズラリと並べた。
 どの写真も煙突の影の先はこの長屋を指していた。しかも、今、松沢がいるこの家の屋根にかなり近かった。
 松沢は興奮した。もしかしたら本当にこの家の地下に財宝が埋まっているかも知れない。そう思うと、やはりこれは何かのお導きではないのかと思い、何やら本当にこの地獄から脱出できそうな気がしてならなかった。
 しかし、喜ぶのはまだ早かった。例え、埋蔵金が埋まっている場所を探し当てたとしても、その広い土地のいったいどこを掘ればいいのかが問題なのだ。
 もちろん、それはパワーショベルといった重機があれば別だった。パワーショベルがあればそこらじゅうを掘りまくればいつかは埋蔵金が出て来るのである。
 しかし、松沢にそんな重機があるわけがなかった。それに、例えそれがあったとしても、ここは他人の土地であり勝手に穴を掘るわけにはいかない。しかも、ここには長屋が建っており、ここをパワーショベルで掘りまくるには、まずは長屋を解体しなければならず、それは絶対と言っていい程に不可能なのであった。

 となると、ここから埋蔵金を掘り出すには、埋蔵金が隠された確実な場所を見つけ出す事と、そして縁の下にこっそり忍び込みながら、地道に手掘りで掘って行くしか方法はなかった。
 幸い、縁の下に潜り込む事は簡単だった。この長屋に帰って来たその日に、既に縁の下に潜っては、隣りの金さんの家のキムチの壷を発見していたからだ。
 松沢は、もう一度写真を凝視した。
 確か、キッチンむらかみで見たあの写真の『とんがり帽子』は一メートルはあった。という事は、この煙突よりも一メートル伸びたその先端部分の影が、埋蔵金を隠した場所となるのだ。
 コンビニで買って来た小さな定規を写真に這わせた。定規のメモリを数え、それと同時に写真に写る長屋の屋根の瓦を数えて行く。
 そんな写真と定規を見つめながら、松沢は、あと少しあと少し、と必死に唱えた。あと少しで松沢が住んでいる家の瓦に達するのだ。
 しかし、定規のメモリは足りなかった。松沢の家まであと三メートルという微妙な所で、煙突の影の先は隣りの金さんの家の屋根を指していたのだった。

 双眼鏡を返しにリサイクルショップ三松へ行くと、レジの脇で三松の親父とバイトの女の子が楽しそうに話していた。
 そんなレジの横にある小さなブース。そのブースに掲げられた看板を見た松沢は、ニヤリと細く微笑んだ。

 店に入って来た松沢を見るなりギョッとした三松は、バイト店員に何やらコソコソと指示を出すと、自分はそそくさと店の奥へと進んで行った。
 そんな三松の後を双眼鏡を片手に付いて行く。カー用品の角を曲ると業務用厨房器機のコーナーがあった。
 サビだらけのシンクやコンロが真っ黒に焦げた焼き台、そして、若かりし頃の手塚治虫が描いた近未来ロボットのような巨大な食器洗浄機が、松沢の行く手を遮るように通路に立ち塞がっていた。
 どれもこれも潰れた店から借金の形に引き上げて来たような代物ばかりだった。冷蔵庫の扉には、未だに『丸一商店、九時、ホタテ2ケース』と書かれたメモがセロハンテープで貼ってあり、妙に生々しい。それら使い古された厨房器機には、潰れた店の店主の怨念が取り憑いているような気がして妙に気味が悪かった。

 そんな業務用の巨大冷蔵庫が立ち並ぶ通路の奥で、ムスッとしかめっ面しながら松沢を待つ三松の姿が見えた。
 双眼鏡を渡すと、三松は保証金にと預けておいた二万円をポケットの中から取り出し、それを気怠そうに松沢に返した。

「米松くん達を問い詰めてみたけどね、誰もあんたの事を知らないんだよ……あんた、この話しをいったい誰から聞いたんだよ……まぁ、ココだけの話しにしておいてやるから素直に名前を白状しなさいよ」

 何故か上から目線でそう言う三松に、とたんに松沢はカチンっと来た。今まで穏やかだった目をギッと険しくさせ、まるで町のチンピラのようにアゴをしゃくりながら三松の顔を睨みつけた。

「あんたさぁ、今の自分の立場ってのがわかってんのか? なんならこのまま警察行って話ししてもいいんだぜ?」

 松沢のその言葉に、一瞬三松の目が泳いだ。
 いける、と思った。この親父はまだまだ使えると松沢は思った。

 三松を従えながら店内を物色して回った。
 三松が押している買い物カートの中には、家庭菜園用の小さなスコップと土木作業用の大きなスコップが並んで入っていた。

「もっとさぁ、簡単に穴が掘れる機械は無いのかよ…」

 ラックの一番下の、黒ずんだ取っ手に『天池建設』とマジックで書かれたツルハシを覗き込みながら松沢が言うと、三松は下水道のように臭い息を吐きながら「いったい何をやらかす気だい」と松沢に顔を近づけた。
 首筋に吹き掛かる三松の生暖かい息から逃れるようにして素早く体を起こすと、「地面に穴を掘りたいんだよ」と呟きながら、今度は『村松組』とプリントされているヘルメットを何気に手に取った。そして、こんなものまで売ってるのか、と中古屋のハイエナ的根性に感心しながらも、ヘルメットの裏に『家内安全』の御守りが差し込んであるのを発見した松沢は慌ててそれを元に戻した。

「穴なんか掘ってどうするんだよ」

 三松が不思議そうな顔をして松沢を見た。
 松沢は鋭いツルハシを手に握りながらソレを三松の顔に向け、「あんたを埋めるんだよ」と言うと、以外にも三松は本気でビビった。

「ははは。嘘に決まってるじゃん」と言いながら再び作業道具が並ぶラックを覗き込む。

「実はね、大黒乃湯の埋蔵金を見つけちゃったんだよ。あんたもこの町の人間なら聞いた事くらいあるでしょ『大黒乃湯埋蔵金伝説』。俺ね、遂にあの埋蔵金の在処を見つけちゃったのよね……」

 そう言いながら小型のツルハシを手にした。まるでヒーロー戦隊に出てくる悪役が持っていそうな鋭いツルハシだった。小さな取っ手が松沢の手にフィットし、たちまちこいつが気に入った。
 小型ツルハシを買い物カートの中に入れる松沢に、三松は真剣な顔をしながら「嘘だろ?」と聞いて来た。

「本当だよ。間違いない話しさ。今月の終わりには大判小判がざっくざくだよ」

 松沢はそう笑いながら、レジの横にある小さなブースに視線を投げた。そのブースには『金券・古銭、高価買い取り』という看板が掲げられていた。

「もし、俺が大判小判を持って来た時は、高価買い取りをよろしく頼むぜ」

 そう言いながらブースを指差すと、三松はそれを本気にしていないのか「フン」と鼻で笑った。

「買い取りレートは、公表されている一般の貴金属買い取りレートでいいよ。金の値段だけでいいってことさ。歴史的価値の分はあんたの儲けにすればいい」

 松沢がそう告げると、三松は肉付きの良い頬をタプタプと揺らしながら「本当に小判を持って来たらな」と不敵に笑った。

 これで小判の換金はクリアできたと安心した。
 埋蔵金の小判を掘り出したものの、まともにそれを警察に届けた所で、所詮は大黒乃湯のコソ泥からたったの一割り程度の謝礼金を貰うだけで終わってしまうのだ。
 かといって、その小判をネコババしたとしても、それを換金するのは尋常ではない。その筋の裏ルートを辿って小判を売り捌くなど、ド素人の松沢には危険すぎる程に危険なのだ。
 推定額六億の財宝ともなれば、そこそこの犯罪組織が関わって来るだろう。それが日本の暴力団ならまだしも、中国辺りの黒社会なんてのが関わって来たら厄介だ。松沢などひとたまりも無く抹消されてしまいそうなのだ。
 そんな危ないルートで、命の危険に晒されながら、せっかくの財宝を二束三文で奪い取られるのはごめんだった。それならば、多少足下を見られるとしても、この三松の親父に売り付ける方がよっぽど安全なのだ。

「今月中に財宝を持って来る。取りあえず、三億くらいは用意しててほしいんだが、用意できそうか?」

 松沢が真剣な表情でそう言うと、三松のニヤケていた顔の筋肉も次第に引き締まって来た。

「それが本当に大黒乃湯の埋蔵金だったなら、即金で五億出してもいいよ」

 三松はデブ特有の小さな目をキラリと光らせながらニヤリと微笑んだ。そんな三松の不敵な笑いは、『紅の豚』が飛び立つ瞬間に見せる笑顔によく似ていた。

(つづく)

《←目次に戻る》《11話へ続く→》



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