ロリコン大作戦5
2012/02/18 Sat 14:19
「ヤツラ熟女軍団はあの店の中で暴れている。きっと大勢のロリコン同志達が今もあの中で戦っているはずだ」
「自分、やりますばい、そしたらオサムッちゃんの知り合いの北九州ロリコン連合の会長さんを紹介してくれっとやろ?」
興奮したミノルはカッターナイフを取り出した。
「いや、それを使ってはダメだ。それはルール違反だ、そんなモノを使ったらキミの名前はヒーローどころかバカにされるだけだ」
「……じゃったらどけんして倒せばよかですか……」
「……イカすんだ。熟女達をオーガスムスに達せさせればキミの勝利だ。うん、ヴィクトリーだ」
「ヴィ……ヴィクトリー……」
ミノルはそう呟きながらゴクリと唾を飲み込んだのだった。
二人はそのまま呼び込みの前に歩み寄った。チラッと後を見てみると、少女はかなり後方まで行ってしまい、治はとりあえずは安心した。
「ほい、お二人様いらっしゃい!」
呼び込みが明石家さんまのノリで二人に声を掛けて来た。
「どうですか!ピチピチギャルが沢山いますよ!」
呼び込みの声を聞きながらミノルが治の顔を不審げに見つめている。
焦った治は必死でピンサロを眺めながら情報を収集する。
そして、ふと看板を見ると「新人レイちゃん初来店!」と手書きで書かれた張り紙が張ってあるのに気付いた。
「……あのぅ……例(レイ)の件だが……いますぐ大丈夫か?」
やぶれかぶれの治は、呼び込みに向かって咄嗟にそう言った。
「例の件?……」
呼び込みが不思議そうな顔をして治を見た。ミノルも益々不審そうに治の顔を見る。
「例(レイ)だよ例(レイ)!例の件は今どうなっているか聞いているんだよ!」
治は「例(レイ)」を強調しながら、看板の張り紙を目で合図した。
「あっ……あぁあぁはいはい、例!レイね!はいはいレイ!」
呼び込みはやっと『新人レイちゃん』に気付いたようだった。
「大丈夫ですよ!レイは今すぐご案内できます!」
呼び込みの嬉しそうな声にすかさずミノルが口を挟んだ。
「熟女達は中におっとか?」
すると呼び込みは少し嫌な顔をして「お客さんそれは失礼でしょうウチはピチピチの……」と言おうとしたので、治はすかさず「マニアなんだ」と呼び込みに小さな声で合図した。
「……あ、あぁ、そーいうー事ね、はいはい、大丈夫ですよ、中には熟女達がウジャウジャしてますよ!」
ベテランの呼び込みで助かったと治はホッとした。
「オサムッちゃん。熟女は中におるらしいばい。どけんすっと」
「どげんもこげんもないだろ。ロリコン戦士の名に賭けて見事退治してやろうじゃないのよ」
二人が店先に一歩乗り出すと、呼び込みが「ありがとうございます!お一人様8千円、前金となっております!」と二人の行く手を遮った。
「……助けてやるのに銭ば払え言うとりますよオサムッちゃん」
「いや、それが我々ロリコン戦士のマナーなんだ。黙って二人分支払いなさい」
「えっ?自分が払うとですか?」
「当たり前だろ。キミの名前を全国のロリコン連合に売るチャンスじゃないか……それともキミはもしかして熟女にイモを引いてるのか?」
「そ、そげんこつありまっしぇん!」
「ならばキミが払いなさい。さっきの親子丼の代金は私が払ってやったんだ、これでおあいこだ」
ミノルは渋々ながら二人分を呼び込みに渡した。
店内に入る途中、治は呼び込みを捕まえ「僕にはできるだけ若いコで、そしてあいつにはとびっきりのババァを付けて下さい」と耳打ちしてやった。
呼び込みは「へぇ~ババ専とは珍しいねぇ~」と声を押し殺しながら笑ったのだった。
店内は小さなスピーカーから大音量が放たれ、赤や青や黄色のネオンがあっちこっちで点滅していた。二人席のボックスシートの上では、スケスケのネグリジェのようなものを着たおばさん達がスーツ姿の親父達の股間に吸い付いていた。
「こいつらがロリコン戦士ね?」
ミノルがスピーカーの音に負けないように大声を張り上げながら治の耳にそう叫んだ。
「そうだ!でもこの状態を見ると熟女達に負けているようだぞ!」
治も負けずに声を張り上げた。
「情けなかねー!」
治はそう叫ぶと、ソファーの上で尺八をされている親父の肩をポン!と叩き「頑張らんね!」と叫んだ。
二人は上下の列順で並んで座らされた。ミノルが前で治がそますぐ後だった。
しばらくすると、西城秀樹の『情熱の嵐』がスピーカーから流れ出し、その曲に合わせて女達が一斉に席移動を始めた。
『ようこそ今宵も浦安ピンクパンサー6号店へ!大人の楽園!大人のディズニーランド!浦安ピンクパンサー6号店、只今花びら回転中!皆様はりきってハッスルハッスルしてください!』
物凄い低音で叫ぶマイクの声はほとんどが聞き取れなかった。
「いらっしゃーい!マコでーす!」
治の隣りにそう叫びながらバケモノが現れた。
「あらぁー若いのねー若いでしょー若いわよねー」
バケモノはそう叫びながら治のジーンズのボタンを外し始めた。
一方、問題のミノル。
まるで菅井きんのような老婆がヨボヨボとミノルの隣りに座るのが見え、治は腹を抱えて大爆笑した。
そんなミノルは一度は菅井きんの首を絞めようとしたが、すぐに数人の店員たちに取り押さえられ、それからというもの驚く程大人しくなってしまった。
続いて郷ひろみの『お嫁サンバ』が流れると、また女達が移動を始めた。
バケモノのようなマコがやっと去ったと思ったら、今度は水木しげるの漫画に出て来るような妙に幸の薄そうな女が現れ、出しっ放しの治のチンポに顔を埋めた。
妖怪のような女にしゃぶられながらも、治は観葉植物の間からミノルを覗いた。
またしてもミノルの相手は老婆だった。今度は『渡る世間』に出て来そうな品のある老婆だったが、またしてもミノルは老婆の首を絞めて店員に取り押さえられた。
すると、治が爆笑している横をミノルが屈強な店員達に押さえつけられながら引きずられていった。なんとミノルはさっそく退場処分となったのだ。
治も店を出ようと、急いでその幸の薄そうな女を股間から退けようとしたが、しかし幸の薄そうな女は治の下半身にしがみつき離れようとしない。
「悪いけど、僕帰るから!」
そう叫んでも、幸の薄そうな女は「途中で帰られると私の給料が下がるのよ……帰るなら次の人の時に帰ってよ……」と、恨めしそうな目で睨みながら治を離そうとしない。
これはマズいと治は思った。退場される時に見たミノルはかなり落ち込んでおり、きっと精神的に不安定になっているはずだ。このままヤツをこの町に放てばヤツは何をしでかすかわからないのだ。
治がなんとしてでも帰ろうと幸の薄そうな女を説得するが、幸の薄そうな女は治の声など聞こえないフリをして黙々とチンポをしゃぶっていた。これはもう自分もこの幸の薄そうな女の首を絞めて退場になるしかない!と思った矢先、スピーカーから流れる曲が、敏いとうとハッピー&ブルーの『星降る街角』に変わった。
そのとたん幸の薄そうな女はすかさず立ち上がると治に向かって「バーカ」と一言残し、さっさと席を変わって行った。
今だ!と立ち上がると、そんな治の目の前には黒木メイサによく似たハーフの女の子がおしぼりを持って立っていたのだった。
「あれ?お帰りですか?」
黒木メイサは大きな目をクリクリとさせながら首を斜めに傾けた。
「……いえ……違います……」
治はわざとらしくトボケながらも、またゆっくりと席に座った。黒木メイサが「若いですねー」と治に微笑みかけながらテーブルの上のおしぼりを交換し始めた。
(ミノル……すまん……)
治が心でそう詫びると、黒木メイサは「では後半もハッスルして下さいねー」と言いながら、古いおしぼりを持ったまま素早く立ち去った。
「は?」
と、黒木メイサの後ろ姿を見ていた治の横に、ジャイアント馬場が女装したような巨大なババアがドスン!と座った。
「いえ、僕、帰りたいんですが!」
治はそう叫ぶが、ジャイアントレディーはそれを許してはくれなかったのだった。
結局、それから約20分ほど、林家こぶ平のようなおばさんとダウンタウンの浜ちゃんのようなオカンに捕まった治は、制限時間一杯でやっと解放された。
店を出るともう外は真っ暗だった。呼び込みに「僕のツレは?」と聞くと、「知らねぇよあんな変態」と喰ってかかってきたので、治はとりあえずその場を逃げ去り駅に向かって走った。
小走りに走りながらミノルの携帯電話に電話を掛けてみた。
(……おかけになった電話は電波の届かないところにおられるか電源が入っていないため……)
無情なアナウンスが治を更に焦らせた。
浦安の駅に着くと、駅の中をグルグル回りながらミノルの姿を捜す。時刻はもう7時だ。もしかしたらどこかでめしでも喰っているのではないだろうかと、駅周辺の飲食店をくまなく捜したがミノルの姿はどこにもいなかった。
治はとりあえず電車に乗った。もしかしたらミノルはホテルに帰っているかも知れないと思ったからだ。
しかし、ホテルに着くと、フロントの従業員から「遠藤様は先程チェックアウトなされましたが……」と言われた。
チェックアウト?ナゼだ?……治は呆然とフロント従業員を見つめていたが、後に並んでいたヤクザに「どけや」と言われ、慌ててホテルを後にしたのだった。
そのままトボトボと歩いていた治はいつの間にかいつものネットカフェに辿り着いていた。いつものように店長に笑いかけ、いつもの部屋へと入ると、いつものように『ロリコン大作戦』のページを開いた。
しかし、そこにもやっぱりミノルの投稿は書き込まれていなかった。なぜか無性にミノルが可哀想になった治は、掲示板に「ロリコン連合総長」という名で書き込んだ。
《ミノル戦士へ。浦安でのあなたの活躍を忍びの者から聞きとても感動しました。あなたを正式なロリコン連合の戦士とする事を認め、そしてあなたの浦安での功績を讃え、あなたをゴールドロリコン会員とさせて頂きます。今後も少年少女達の明るい未来の為に頑張って下さい》
普通ならミノルが泣いて喜ぶようなコメントだった。これならきっと、どれだけヘコんでいたってミノルは喰い付いてくるだろう、と思い、とにかくミノルの返答を待つ事にした。
30分が経過し、1時間が過ぎた。普段なら治に対するレスには10分以内に書き込むというヒマな野郎なのに、2時間待ってもミノルからの返答は書き込まれて来なかった。
待っている間、隣りの女の部屋からオナニーらしき声が何度か聞こえて来たが、いつもならすぐに飛びつく治も、この日ばかりはどうもその気になれなかった。
4時間待ってもミノルからの返答が来なかった。
諦めた治はネットカフェを出て家に帰ったのだった。
家に着き玄関の前で足が止まる。またしてもデンジャラス・タイムだった。しかし、今夜こそは家に帰らないとさすがにマズかった。以前、3日間家に帰らなかった事があるが、その時は部屋にある荷物を全て捨てられてしまった。だから今夜、家に帰らなければまたしても部屋の荷物を全て捨てられてしまう可能性は大アリなのだ。
度胸を決めて玄関の鍵を開けた。居間からテレビの音が微かに聞こえてくる。きっと父親が晩酌の刺身などをツマミにしながらスポーツニュースなんかをボンヤリ見ているに違いない。
このまま知らん顔して部屋に立て篭り、そのまま寝ちまえばいいさ、と自分を励ましながら忍び足で階段を上がろうとすると、それまで息を殺して待ち伏せしていたのだろうか、まるで獲物に襲いかかる豹のようなスゴい勢いで、父親がいきなり居間から飛び出して来た。
「わあ!」と驚いた治は階段から落ちそうになりながらも、慌てて階段を駆け上がろうとした。
父親の右手には黒々としたフライパンが握られている。
あんなモノでまともに叩かれたら耳から脳味噌が飛び出すに違いない。
治は「わあぁぁぁぁぁぁ!」と叫びながら階段を駆け上がって行ったのだった。
ミノルの書き込みが「ロリコン大作戦」から消えてから、既に3ヶ月が過ぎようとしていた。
あの日から何度かミノルの携帯に電話をしていた治だったが、しかしいつ掛けても電波が繋がらない事から、治はミノルに電話を掛けなくなっていた。
ミノルというキチガイの存在が治の記憶から消え去ろうとしていたそんな矢先、いきなりミノルから一通のメールが届いた。
《オサムちゃんお元気ですか自分は浦安で負けたとですよだからゴォルード・ロリコン会員は返しますと総長に伝えてください》
たったそれだけの文だったが、しかしこの3ケ月間、かなり彼なりに凹んでいたのだろうという気持ちがこの短いメールの文章からひしひしと治に伝わって来た。
治は無性にあのバカでキチガイで迷惑だったミノルが可哀想に思えた。
治はすぐにミノルに返信した。
《白内障は大丈夫だったか?あの後、浦安の店にロリコン連合の総長もお見えになり、是非ともミノルちゃんにお礼を言いたかったと、キミに会えなかった事を随分と悔しがっていたよ。今度、東京に遊びに来るような事があったらその時は総長を紹介するからお楽しみに。ではお元気で》
治は送信ボタンを押しながら「頑張れよ、キチガイ」と呟き、携帯電話をパタンと閉じたのであった。
その2日後。
いつものように行きつけのネットカフェに顔を出した治は、いつものように店長に笑いかけいつもの部屋に向かおうとした。すると入口カウンターに立っていた店長が残念そうな顔をしながら「隣りのあの子、今月一杯で解約して出てっちゃったよ……」と呟いた。
「へぇ……あの子、仕事見つかったんだぁ……」
治がそう呟くと、店長は親指を立てながら「コレコレ、コレだよ。あの子、1階のドラッグストアーの店員とデキてたんだよ。それで結婚するとかしないとかでその男のアパートに引っ越して行っちまったというワケさ……ったく、営業妨害しやがってあの糞店員」と苦々しく言い放った。
「ま、でもすぐに誰か新しい住人が入るでしょ、これだけ不景気なんだもん、家賃払えずに部屋を追い出されたヤツがいっぱいいるからね……」
治はそう店長を慰めながら部屋に行こうとすると、後で店長が「いや、新しいヤツ入ったんだよ!オサム君もよく知ってる人!アイツが入れ替わりに入ってくれたからホント助かったよ!」と嬉しそうに叫んだ。
ん?……僕のよく知ってるヤツ?……と治が不思議そうに足を止めると、隣りの部屋のドアがいきなり開き、中から髭だらけのミノルがノソッと現れた。
「わあ!」
同時に目が合った二人は互いに声を出して驚いた。
「ミ、ミ、ミノルちゃん、ど、ど、どうしてここに?!」
驚いた治がそう聞くと、大きな洗面器を持ったミノルは「おぉ!やっと会えたとですねオサムっちゃん!今度、九州からこの大都会東京に骨を埋める覚悟で出てきたっとたい!これからよろしゅう頼んますばい!」と人間技とは思えない口臭を撒き散らしながらそう叫んだ。
「で、出て来たって、どういう事?」
「はい。自分は九州を捨てて来たっとですばい、もう東京の人間になったとですよ」
「…………」
「それで……さっそくですが、オサムッちゃんにお願いがあっとですよ……」
ミノルは洗面器を部屋の中にポンッと投げ捨てると、ソファーの横に置いてあったボストンバッグから一冊のノートを取り出した。
「これ、自分が考えた新しい計画ですたい。今度こそ少女に悪戯をしてやろう思うとりますけん、是非ともロリコン総長にば会わせてもらえんですか」
ミノルは凄まじい闘志で目をギラギラさせながら治の目を見つめていた。
「ロリコン総長は、今、どこにおるとですか?」
ミノルは人間技とは思えない口臭で治に顔を近づけた。
治はすかさず店長を指差した。
「あれ、あの人がロリコン連合の総長……うん、これから何かわからない事があれば、総長に何でも相談するといいよ……」
治は入口のカウンターで何やら書き物をしている店長に向かって「ね!総長!」と叫んだ。
店長は「ん?」と振り向きながら、治とミノルを見てとりあえず笑顔で手を振って見せた。
「ほう……あのお方が総長さんやったとですか……いやぁ~東京ちトコは大物が沢山おる言うてサトシ叔父が言うとりましたが、こんな近くにあんな大物がいるとは……スゴか街ですばい東京は……」
ミノルは店長を見つめながら深く頷いた。
そう深々と頷いているミノルの後ろで、治は足音を消しながら廊下の突き当りまで走りきると、非常階段へと飛び出した。
「冗談じゃねぇ!あんなキチガイもう懲り懲りだぁ!」
治はそう叫びながら非常階段を駆け下り、スゴか街・東京の人混みの中へと紛れ込んで行ったのであった。
(ロリコン大作戦・おわり)
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「自分、やりますばい、そしたらオサムッちゃんの知り合いの北九州ロリコン連合の会長さんを紹介してくれっとやろ?」
興奮したミノルはカッターナイフを取り出した。
「いや、それを使ってはダメだ。それはルール違反だ、そんなモノを使ったらキミの名前はヒーローどころかバカにされるだけだ」
「……じゃったらどけんして倒せばよかですか……」
「……イカすんだ。熟女達をオーガスムスに達せさせればキミの勝利だ。うん、ヴィクトリーだ」
「ヴィ……ヴィクトリー……」
ミノルはそう呟きながらゴクリと唾を飲み込んだのだった。
二人はそのまま呼び込みの前に歩み寄った。チラッと後を見てみると、少女はかなり後方まで行ってしまい、治はとりあえずは安心した。
「ほい、お二人様いらっしゃい!」
呼び込みが明石家さんまのノリで二人に声を掛けて来た。
「どうですか!ピチピチギャルが沢山いますよ!」
呼び込みの声を聞きながらミノルが治の顔を不審げに見つめている。
焦った治は必死でピンサロを眺めながら情報を収集する。
そして、ふと看板を見ると「新人レイちゃん初来店!」と手書きで書かれた張り紙が張ってあるのに気付いた。
「……あのぅ……例(レイ)の件だが……いますぐ大丈夫か?」
やぶれかぶれの治は、呼び込みに向かって咄嗟にそう言った。
「例の件?……」
呼び込みが不思議そうな顔をして治を見た。ミノルも益々不審そうに治の顔を見る。
「例(レイ)だよ例(レイ)!例の件は今どうなっているか聞いているんだよ!」
治は「例(レイ)」を強調しながら、看板の張り紙を目で合図した。
「あっ……あぁあぁはいはい、例!レイね!はいはいレイ!」
呼び込みはやっと『新人レイちゃん』に気付いたようだった。
「大丈夫ですよ!レイは今すぐご案内できます!」
呼び込みの嬉しそうな声にすかさずミノルが口を挟んだ。
「熟女達は中におっとか?」
すると呼び込みは少し嫌な顔をして「お客さんそれは失礼でしょうウチはピチピチの……」と言おうとしたので、治はすかさず「マニアなんだ」と呼び込みに小さな声で合図した。
「……あ、あぁ、そーいうー事ね、はいはい、大丈夫ですよ、中には熟女達がウジャウジャしてますよ!」
ベテランの呼び込みで助かったと治はホッとした。
「オサムッちゃん。熟女は中におるらしいばい。どけんすっと」
「どげんもこげんもないだろ。ロリコン戦士の名に賭けて見事退治してやろうじゃないのよ」
二人が店先に一歩乗り出すと、呼び込みが「ありがとうございます!お一人様8千円、前金となっております!」と二人の行く手を遮った。
「……助けてやるのに銭ば払え言うとりますよオサムッちゃん」
「いや、それが我々ロリコン戦士のマナーなんだ。黙って二人分支払いなさい」
「えっ?自分が払うとですか?」
「当たり前だろ。キミの名前を全国のロリコン連合に売るチャンスじゃないか……それともキミはもしかして熟女にイモを引いてるのか?」
「そ、そげんこつありまっしぇん!」
「ならばキミが払いなさい。さっきの親子丼の代金は私が払ってやったんだ、これでおあいこだ」
ミノルは渋々ながら二人分を呼び込みに渡した。
店内に入る途中、治は呼び込みを捕まえ「僕にはできるだけ若いコで、そしてあいつにはとびっきりのババァを付けて下さい」と耳打ちしてやった。
呼び込みは「へぇ~ババ専とは珍しいねぇ~」と声を押し殺しながら笑ったのだった。
店内は小さなスピーカーから大音量が放たれ、赤や青や黄色のネオンがあっちこっちで点滅していた。二人席のボックスシートの上では、スケスケのネグリジェのようなものを着たおばさん達がスーツ姿の親父達の股間に吸い付いていた。
「こいつらがロリコン戦士ね?」
ミノルがスピーカーの音に負けないように大声を張り上げながら治の耳にそう叫んだ。
「そうだ!でもこの状態を見ると熟女達に負けているようだぞ!」
治も負けずに声を張り上げた。
「情けなかねー!」
治はそう叫ぶと、ソファーの上で尺八をされている親父の肩をポン!と叩き「頑張らんね!」と叫んだ。
二人は上下の列順で並んで座らされた。ミノルが前で治がそますぐ後だった。
しばらくすると、西城秀樹の『情熱の嵐』がスピーカーから流れ出し、その曲に合わせて女達が一斉に席移動を始めた。
『ようこそ今宵も浦安ピンクパンサー6号店へ!大人の楽園!大人のディズニーランド!浦安ピンクパンサー6号店、只今花びら回転中!皆様はりきってハッスルハッスルしてください!』
物凄い低音で叫ぶマイクの声はほとんどが聞き取れなかった。
「いらっしゃーい!マコでーす!」
治の隣りにそう叫びながらバケモノが現れた。
「あらぁー若いのねー若いでしょー若いわよねー」
バケモノはそう叫びながら治のジーンズのボタンを外し始めた。
一方、問題のミノル。
まるで菅井きんのような老婆がヨボヨボとミノルの隣りに座るのが見え、治は腹を抱えて大爆笑した。
そんなミノルは一度は菅井きんの首を絞めようとしたが、すぐに数人の店員たちに取り押さえられ、それからというもの驚く程大人しくなってしまった。
続いて郷ひろみの『お嫁サンバ』が流れると、また女達が移動を始めた。
バケモノのようなマコがやっと去ったと思ったら、今度は水木しげるの漫画に出て来るような妙に幸の薄そうな女が現れ、出しっ放しの治のチンポに顔を埋めた。
妖怪のような女にしゃぶられながらも、治は観葉植物の間からミノルを覗いた。
またしてもミノルの相手は老婆だった。今度は『渡る世間』に出て来そうな品のある老婆だったが、またしてもミノルは老婆の首を絞めて店員に取り押さえられた。
すると、治が爆笑している横をミノルが屈強な店員達に押さえつけられながら引きずられていった。なんとミノルはさっそく退場処分となったのだ。
治も店を出ようと、急いでその幸の薄そうな女を股間から退けようとしたが、しかし幸の薄そうな女は治の下半身にしがみつき離れようとしない。
「悪いけど、僕帰るから!」
そう叫んでも、幸の薄そうな女は「途中で帰られると私の給料が下がるのよ……帰るなら次の人の時に帰ってよ……」と、恨めしそうな目で睨みながら治を離そうとしない。
これはマズいと治は思った。退場される時に見たミノルはかなり落ち込んでおり、きっと精神的に不安定になっているはずだ。このままヤツをこの町に放てばヤツは何をしでかすかわからないのだ。
治がなんとしてでも帰ろうと幸の薄そうな女を説得するが、幸の薄そうな女は治の声など聞こえないフリをして黙々とチンポをしゃぶっていた。これはもう自分もこの幸の薄そうな女の首を絞めて退場になるしかない!と思った矢先、スピーカーから流れる曲が、敏いとうとハッピー&ブルーの『星降る街角』に変わった。
そのとたん幸の薄そうな女はすかさず立ち上がると治に向かって「バーカ」と一言残し、さっさと席を変わって行った。
今だ!と立ち上がると、そんな治の目の前には黒木メイサによく似たハーフの女の子がおしぼりを持って立っていたのだった。
「あれ?お帰りですか?」
黒木メイサは大きな目をクリクリとさせながら首を斜めに傾けた。
「……いえ……違います……」
治はわざとらしくトボケながらも、またゆっくりと席に座った。黒木メイサが「若いですねー」と治に微笑みかけながらテーブルの上のおしぼりを交換し始めた。
(ミノル……すまん……)
治が心でそう詫びると、黒木メイサは「では後半もハッスルして下さいねー」と言いながら、古いおしぼりを持ったまま素早く立ち去った。
「は?」
と、黒木メイサの後ろ姿を見ていた治の横に、ジャイアント馬場が女装したような巨大なババアがドスン!と座った。
「いえ、僕、帰りたいんですが!」
治はそう叫ぶが、ジャイアントレディーはそれを許してはくれなかったのだった。
結局、それから約20分ほど、林家こぶ平のようなおばさんとダウンタウンの浜ちゃんのようなオカンに捕まった治は、制限時間一杯でやっと解放された。
店を出るともう外は真っ暗だった。呼び込みに「僕のツレは?」と聞くと、「知らねぇよあんな変態」と喰ってかかってきたので、治はとりあえずその場を逃げ去り駅に向かって走った。
小走りに走りながらミノルの携帯電話に電話を掛けてみた。
(……おかけになった電話は電波の届かないところにおられるか電源が入っていないため……)
無情なアナウンスが治を更に焦らせた。
浦安の駅に着くと、駅の中をグルグル回りながらミノルの姿を捜す。時刻はもう7時だ。もしかしたらどこかでめしでも喰っているのではないだろうかと、駅周辺の飲食店をくまなく捜したがミノルの姿はどこにもいなかった。
治はとりあえず電車に乗った。もしかしたらミノルはホテルに帰っているかも知れないと思ったからだ。
しかし、ホテルに着くと、フロントの従業員から「遠藤様は先程チェックアウトなされましたが……」と言われた。
チェックアウト?ナゼだ?……治は呆然とフロント従業員を見つめていたが、後に並んでいたヤクザに「どけや」と言われ、慌ててホテルを後にしたのだった。
そのままトボトボと歩いていた治はいつの間にかいつものネットカフェに辿り着いていた。いつものように店長に笑いかけ、いつもの部屋へと入ると、いつものように『ロリコン大作戦』のページを開いた。
しかし、そこにもやっぱりミノルの投稿は書き込まれていなかった。なぜか無性にミノルが可哀想になった治は、掲示板に「ロリコン連合総長」という名で書き込んだ。
《ミノル戦士へ。浦安でのあなたの活躍を忍びの者から聞きとても感動しました。あなたを正式なロリコン連合の戦士とする事を認め、そしてあなたの浦安での功績を讃え、あなたをゴールドロリコン会員とさせて頂きます。今後も少年少女達の明るい未来の為に頑張って下さい》
普通ならミノルが泣いて喜ぶようなコメントだった。これならきっと、どれだけヘコんでいたってミノルは喰い付いてくるだろう、と思い、とにかくミノルの返答を待つ事にした。
30分が経過し、1時間が過ぎた。普段なら治に対するレスには10分以内に書き込むというヒマな野郎なのに、2時間待ってもミノルからの返答は書き込まれて来なかった。
待っている間、隣りの女の部屋からオナニーらしき声が何度か聞こえて来たが、いつもならすぐに飛びつく治も、この日ばかりはどうもその気になれなかった。
4時間待ってもミノルからの返答が来なかった。
諦めた治はネットカフェを出て家に帰ったのだった。
家に着き玄関の前で足が止まる。またしてもデンジャラス・タイムだった。しかし、今夜こそは家に帰らないとさすがにマズかった。以前、3日間家に帰らなかった事があるが、その時は部屋にある荷物を全て捨てられてしまった。だから今夜、家に帰らなければまたしても部屋の荷物を全て捨てられてしまう可能性は大アリなのだ。
度胸を決めて玄関の鍵を開けた。居間からテレビの音が微かに聞こえてくる。きっと父親が晩酌の刺身などをツマミにしながらスポーツニュースなんかをボンヤリ見ているに違いない。
このまま知らん顔して部屋に立て篭り、そのまま寝ちまえばいいさ、と自分を励ましながら忍び足で階段を上がろうとすると、それまで息を殺して待ち伏せしていたのだろうか、まるで獲物に襲いかかる豹のようなスゴい勢いで、父親がいきなり居間から飛び出して来た。
「わあ!」と驚いた治は階段から落ちそうになりながらも、慌てて階段を駆け上がろうとした。
父親の右手には黒々としたフライパンが握られている。
あんなモノでまともに叩かれたら耳から脳味噌が飛び出すに違いない。
治は「わあぁぁぁぁぁぁ!」と叫びながら階段を駆け上がって行ったのだった。
ミノルの書き込みが「ロリコン大作戦」から消えてから、既に3ヶ月が過ぎようとしていた。
あの日から何度かミノルの携帯に電話をしていた治だったが、しかしいつ掛けても電波が繋がらない事から、治はミノルに電話を掛けなくなっていた。
ミノルというキチガイの存在が治の記憶から消え去ろうとしていたそんな矢先、いきなりミノルから一通のメールが届いた。
《オサムちゃんお元気ですか自分は浦安で負けたとですよだからゴォルード・ロリコン会員は返しますと総長に伝えてください》
たったそれだけの文だったが、しかしこの3ケ月間、かなり彼なりに凹んでいたのだろうという気持ちがこの短いメールの文章からひしひしと治に伝わって来た。
治は無性にあのバカでキチガイで迷惑だったミノルが可哀想に思えた。
治はすぐにミノルに返信した。
《白内障は大丈夫だったか?あの後、浦安の店にロリコン連合の総長もお見えになり、是非ともミノルちゃんにお礼を言いたかったと、キミに会えなかった事を随分と悔しがっていたよ。今度、東京に遊びに来るような事があったらその時は総長を紹介するからお楽しみに。ではお元気で》
治は送信ボタンを押しながら「頑張れよ、キチガイ」と呟き、携帯電話をパタンと閉じたのであった。
その2日後。
いつものように行きつけのネットカフェに顔を出した治は、いつものように店長に笑いかけいつもの部屋に向かおうとした。すると入口カウンターに立っていた店長が残念そうな顔をしながら「隣りのあの子、今月一杯で解約して出てっちゃったよ……」と呟いた。
「へぇ……あの子、仕事見つかったんだぁ……」
治がそう呟くと、店長は親指を立てながら「コレコレ、コレだよ。あの子、1階のドラッグストアーの店員とデキてたんだよ。それで結婚するとかしないとかでその男のアパートに引っ越して行っちまったというワケさ……ったく、営業妨害しやがってあの糞店員」と苦々しく言い放った。
「ま、でもすぐに誰か新しい住人が入るでしょ、これだけ不景気なんだもん、家賃払えずに部屋を追い出されたヤツがいっぱいいるからね……」
治はそう店長を慰めながら部屋に行こうとすると、後で店長が「いや、新しいヤツ入ったんだよ!オサム君もよく知ってる人!アイツが入れ替わりに入ってくれたからホント助かったよ!」と嬉しそうに叫んだ。
ん?……僕のよく知ってるヤツ?……と治が不思議そうに足を止めると、隣りの部屋のドアがいきなり開き、中から髭だらけのミノルがノソッと現れた。
「わあ!」
同時に目が合った二人は互いに声を出して驚いた。
「ミ、ミ、ミノルちゃん、ど、ど、どうしてここに?!」
驚いた治がそう聞くと、大きな洗面器を持ったミノルは「おぉ!やっと会えたとですねオサムっちゃん!今度、九州からこの大都会東京に骨を埋める覚悟で出てきたっとたい!これからよろしゅう頼んますばい!」と人間技とは思えない口臭を撒き散らしながらそう叫んだ。
「で、出て来たって、どういう事?」
「はい。自分は九州を捨てて来たっとですばい、もう東京の人間になったとですよ」
「…………」
「それで……さっそくですが、オサムッちゃんにお願いがあっとですよ……」
ミノルは洗面器を部屋の中にポンッと投げ捨てると、ソファーの横に置いてあったボストンバッグから一冊のノートを取り出した。
「これ、自分が考えた新しい計画ですたい。今度こそ少女に悪戯をしてやろう思うとりますけん、是非ともロリコン総長にば会わせてもらえんですか」
ミノルは凄まじい闘志で目をギラギラさせながら治の目を見つめていた。
「ロリコン総長は、今、どこにおるとですか?」
ミノルは人間技とは思えない口臭で治に顔を近づけた。
治はすかさず店長を指差した。
「あれ、あの人がロリコン連合の総長……うん、これから何かわからない事があれば、総長に何でも相談するといいよ……」
治は入口のカウンターで何やら書き物をしている店長に向かって「ね!総長!」と叫んだ。
店長は「ん?」と振り向きながら、治とミノルを見てとりあえず笑顔で手を振って見せた。
「ほう……あのお方が総長さんやったとですか……いやぁ~東京ちトコは大物が沢山おる言うてサトシ叔父が言うとりましたが、こんな近くにあんな大物がいるとは……スゴか街ですばい東京は……」
ミノルは店長を見つめながら深く頷いた。
そう深々と頷いているミノルの後ろで、治は足音を消しながら廊下の突き当りまで走りきると、非常階段へと飛び出した。
「冗談じゃねぇ!あんなキチガイもう懲り懲りだぁ!」
治はそう叫びながら非常階段を駆け下り、スゴか街・東京の人混みの中へと紛れ込んで行ったのであった。
(ロリコン大作戦・おわり)

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