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ロリコン大作戦2

2012/02/18 Sat 14:19

 道玄坂のキッチン山波を出た二人は、ミノルがどうしても東京のネットカフェに行きたいという事から、治は行きつけのネットカフェにミノルを連れて行った。店内に入って来た二人に、店長が「おや、治君にお連れ様とは珍しい」と、蒸気機関車のようなミノルを見て薄ら笑いを浮かべた。瞬間に治はミノルをここに連れて来た事を後悔した。
 店長がTBSの報道特集で、顔にモザイクを掛けられながらも「犯行のあったあの日、確かに治君は進藤容疑者を連れてウチの店に来ていました」と証言するシーンが頭を過る。しかし、もう遅い。とにかくこれ以上証言者が増えないようにと、治は急いでミノルをネットカフェの一室に押し込んだのだった。

「東京のネットカフェ言うてくさ、九州の店となーんも変わらんとやないですか」

 ミノルはそう言いながらカップルシートのソファの上で尻をピョンピョンと飛び跳ねさせクッションを確かめていた。
「当たり前じゃない。ここは全国チェーンの店なんだもん、どこ行ったって同じでしょ……」
 治がそう呟いていると、ミノルがキーボードをカチカチと叩き始め『ロリコン大作戦』のトップページを開いた。
「今、自分とオサムちゃんが一緒にいるって書いたら、みんな驚くやろねぇ……」
 そう言いながらミノルはソレを書き込もうとしたため、治は慌ててPCの電源を落とした。
「……なんばすっと?」
 汗だくのミノルが眉間にシワを寄せながら治を睨んだ。不意にプ~ンと動物園のような匂いがミノルの口から漂って来た。
「あのさぁ……」と、治が言い掛けた瞬間、「キサン、なんで電源落としたとか!」と物凄い勢いでミノルが治の胸ぐらを掴んだ。
 それは今まで大人しかったミノルからは想像も付かない激しさだった。その半端じゃないデブの馬鹿力に治は慌てて「ちょっと待って!ちょっと待って下さい!」と敬語で叫びながら足をバタバタともがかせた。
 散々首を絞められた後やっと解放され脅える治。ハァハァハァ……と肩で息をする興奮したミノルの口からはやっぱり動物園の香りが漂っていた。
「人の楽しみを邪魔したらいかんばい……」
 しばらくすると興奮が治まって来たのか、ミノルはまた機関車トーマスのような眠たそうな目に戻ると再びPCの電源を入れた。

 治はとたんにこの得体の知れない人物が薄気味悪く感じて来た。

 そして、先程の異様にギラついたまるで精神異常者のようなミノルの目を思い出し、こいつなら本当に少女殺しをやりかねない……と、ブルブルっと一瞬体を震わせた。
フフン♪フン♪と鼻歌を歌いながら、再び「ロリコン大作戦」を開いたミノルは、「二人が一緒にいる言うて書いたら、ルパンさんもエロ坊主さんもここに来っとやなかですか」と嬉しそうに笑いながら

《自分は今東京のネトカッフゥエにオサムちゃんといまーす》

と打ち込んだ。
 相変わらずカタカナが苦手なミノルは、3文字以上のしかも小文字が入ったカタカナはまともに書けない。
 そこにすかさず名無しが現れ、そんなミノルの書き込みに《日本語で書けよバーカ》と返してきた。
 突然ミノルの目は病的にギラギラと輝き始める。

《私は日本語書きましてるつもりですがおまえが日本語読めなないじゃないの》

 物凄い勢いでそう打ち込むと、ひとこと「死ね!」と叫び、投稿ボタンを押した。

ミノルのその投稿に更に名無し達が喰い付く。

《北朝鮮帰れアホ》
《読めなないじゃないのプッ》
《身障は消えろキモイ》
《ロリコンの言語障害キターーーー》


 ミノルはそれらのレスに坊主頭を掻きむしりながら怒っている。しかし、今日のミノル中傷は少ないほうだ。中傷内容もまだまだ柔らかい。
 それはなぜかというと、いつもミノルを糞味噌に中傷しているのが、ミノルの隣りに座っている治だからである。
 治はキチガイのように泣き喚きながら必死になって書き込みを続けるミノルを見て、こいつはいつもこんな風に狂いながら書き込みしていたのか……と恐怖を覚えた。
「オサムちゃん、ぼさーっと見とらんと、あんたもなんか書いちゃりない」
 ミノルがそう言って隣りの治に顔を向けた。
 ミノルのボテッと肉の付いた頬には怒りの涙がビショビショに垂れ流れていた。
「あ、あぁ……」
 治はそう言いながら携帯を開いた。
「なんで携帯で入れると?パソ使うたらよか」
 ミノルは不審な表情で治に言うが、治は「こっちのほうが早撃ちできるから……」と答え、ピッピッピッと携帯ボタンを押し始めた。
同じPCから書き込みしているのがその後の捜査で判明するのを怖れた治は、嘘を付いてまでも慣れない携帯で書き込みを始めたのだった。

《ミノルちゃん。そんなアホ共はスルーして、例のスク水から垂れる股間水について語り合いましょう》

 治は、できるだけ二人が一緒にいないような内容を書き込んだ。

「スク水の股間水かぁ~よかね~……この近くに児童が集まるプールはあっとですか?」
 投稿を読んだミノルが、そう言いながら隣りの治に振り向いた。
 確かすぐ近くのホテルに児童ばかりが集まっているスイミングスクールがあったはずだが、しかし、ミノルは本当にそこに行きかねないため、治は「さぁ……どうかな……」ととぼけてみせたのだった。

 掲示板では相変わらずミノルを釣ろうと必死になっている名無し共がガンガンと攻撃していた。その中傷にいちいち釣られて気が狂っているミノル。
 そんなミノルが「見とれ……今におまえらびっくりさせたるけんね……」と唸りながら、「のぉ、オサムちゃん。こいつら驚かせるためにも、どけんしても例の作戦を実行せねばならんね」と不敵な笑顔で笑いかけてくる。
 治はそんなミノルの不気味な笑顔に苦笑いをしながらも、こっそり携帯から《本当におまえ死ねよ!》と書き込んでいたのだった。

     ※

「自分が少女を捕まえてくっとですよ、そしたらオサムちゃんが車で迎えに来て自分と少女を乗せて走ってくれればよかとです」
 ミノルはつい1時間程前にあれだけ食べておきながらも、今また大量にケチャップが塗られたアメリカンドッグを頬張りながらそう言った。
「車なんて無理だよ。それに僕は車持ってないし」
 治が慌ててそう言うと、ミノルはムシャムシャと動かしていた口を急に止め、治の顔を怪しむように覗き込んだ。
「あれぇ……こないだ掲示板に、彼女とくさぁ湘南までドライブしたこつ書きよらんでしたか?」
「……いや、あれは親父の車で……」
 ドライブしたというのは本当だったが彼女は嘘だった。
「じゃあ親父さんの車を借りればよかやないですか」
「そんな事親父にバレたらマジに殺されるよ……」
「心配せんでもよかですって。オサムちゃんには絶対に迷惑ばかけよらんですから」
 もうこの時点で迷惑なんだよ!と、怒鳴ってやりたい所だったが、しかし、また首を絞められる恐れがある為それは控えた。
 ミノルは誇らしげにニヤニヤと笑いながら、ボストンバッグの中から一冊のノートを取り出しそれを治の前にそっと置いた。

『大都会東京の少女の悪戯計画』

 表紙には恐ろしく汚い字でそう殴り書きされていた。カタカナもろくに書けないミノルが「悪戯」という難しい漢字を書いているとこを見ると、明らかに辞書からの丸写しだとわかった。
 表紙を開く。

『作戦その1 少女をさがす』

「さがす」という字の下に、「探す」と「捜す」という漢字が何度も消しゴムで消した後が見られる。
辞書とにらめっこしているミノルの姿がふと浮かび、治は吹き出しそうになるのを懸命に堪えていた。

『渋谷や原宿でお気に入りりの少女とかさがす上戸彩さんみたいなな大都会かわい少女をさがす』

 大都会かわい少女。都市伝説のようなそのフレーズに治はおもわずプッと吹き出してしまった。
「何かおもしろい事書いてあるとですか」
 ミノルは座った目をゆっくりと治に向けた。治が慌てて「いや、ここにも上戸彩が出て来るから、ミノルちゃんはよっぽど上戸彩のファンなんだなぁって思ってさ……」と誤摩化した。
 するとミノルは急にニタァ~っと顔を弛め「上戸彩さんは自分の天使ですばい」と薄気味悪く笑った。
 アホらしくなって次のページを開く。

『作戦その2 少女に好きな物をやる』

「あげる」ではなく「やる」と書いている所が、もはやミノルの中では少女は人間ではなく動物なのであろうと治は少し怖くなった。

『ペコやらキィーティーやら好きな物を少女にやるアイスでもいいでもアイスはとけるかもしれんよ』

 カタカナが苦手なミノルがさっそくやってくれた。
 ミノルのカタカナをそのままGoogleで検索すれば、きっと「それは:キティちゃん?」と出てくるだろう。
 笑いを堪えながら次のページを開く。

『作戦その3 少女を車に入れて逃げる』

「入れて」というのがまたしても少女を人間扱いしていない。

『オサムちゃんの車に少女入れて暗いところに連れて行く』

 治は、計画ノートに自分の名前が書かれている事に激しく動揺した。何も知らない人がこのバカノートを読んだら、間違いなくこの「オサムちゃん」という人物を共犯者だと思うに違いない。
 治は動揺しながらも次のページを開いた。

『作戦その4 順番はジヤケンで決める』

 治はもはやそのジヤケンに笑う気も失せていた。

『オサムちゃんとケンカにならないようジヤケンで決める計画したのは自分だから自分が一番やと言うとケンカなるかもしれんからジヤケンで決めるでも二人で一緒に悪戯してもいい』

 治は、狭い車内でミノルと二人して泣き叫ぶ少女に悪戯するシーンをリアルに思い浮かべた。
 当然少女は抵抗するだろう。抵抗されたミノルは、あの馬鹿力で少女の首を絞めかねない。少女のぐったりとした体と青ざめた顔。それを海の中へと無情にも投げ捨てるミノル。翌日、目撃者の証言から車が判明し、親父のところに数人の刑事が尋ねて来る。親父が真剣な顔して「治。正直に言ってくれ……」と親父らしくない弱気な顔を見せる。コクンと頷く息子を見て、母親が泣き叫びそして刑事達が「とりあえず署に行こうか」と妙に優しく接してくる。玄関を出る時、後から親父の「もう終わりだぁ!」という声と共にキッチンに置いてあった何かが割れる音が聞こえて来る。立ち止まり後を振り向くと、角刈りの刑事さんが「早く乗れ」とサニーの後部座席に押し込められる。翌日、テレビや新聞が大騒ぎする。取調室で刑事さんから見せてもらった新聞には「女児誘拐殺人犯逮捕」という大きな見出しに、自分の名前とミノルの名前が容疑者として書かれていた。

…………………………。

 一気に想像した治は思考回路が正常に働かなくなっていた。
 高校生の頃、夕食のおかずが気に入らないとバットを持って母親を追いかけ回し、裸足で近所中を逃げ回っていた母親は保護され治は警察に連行された。
 その時の取調官は宮地という入歯臭い老刑事で、「今回は許してやるが次やったら少年院に放り込むぞ!」と治の頬を1発引っ叩いた。
 それからというもの、宮地刑事は治の家に様子を伺いにきていたが、母親が「最近は大人しくしてくれています」(本当は昨夜クリームシチューを顔面に投げつけられた)と宮地刑事に言うと、宮地刑事は「そうかそうか」と仏様のような目をして治の肩を抱き、「お袋さんを大事にしろよ」と臭い息を治の顔に吹きかけたものだった。
 そんな宮地刑事も定年を迎え、それからというもの治の家には来なくなったが、そんな宮地刑事の顔を治は今となりふと思い出したのだ。
「どうしたと?なかなかスゴい計画で驚いとるとですか?」
 ミノルは誇らしげにそう言うと、次のページを早く見てくれといわんばかりに、自ら次のページを開いた。

『作戦最終章 これを3回繰り返す』

 治はぼんやりと絶望しながら視線を下記へと走らせた。

『上戸彩さんに似た少女と新垣結衣さんに似た少女とシヨコンタさんに似た少女と3人やる大都会はいっぱい少女がいるけんよくさがしてお気に入りの少女さがすオサムちやんのお気に入りも入れるオサムちゃんはたぶん深田きょうこさんだと思うワラ』

 絶望の中それを読んでいた治は、ミノルが書く文に「、」や「。」が無いのを眺め、ふと近所の「電波おばさん」を思い出していた。
 電波おばさんとは、治の近所に住んでいる有名なキチガイ(朝のワイドショーで2回も取り上げられた)で、おばさんの家の前には『他人様の家に電波をぶつけるな電磁波をぶつけるな警察と国家に通報しますやめてください電磁波(毒)は脳を破壊する通報する』といった「、」や「。」のない意味不明な張り紙が数百枚も張られている。
 電波おばさんは対人恐怖症と極度の被害妄想から10数年ヒキコモリを続け、電波おばさんが活動するのは深夜と決まっていた。ある時、コンビニの帰りに奇声を放ちながら走り回っている電波おばさんを目撃した事があるが、それはもはや人間ではなくムーミンの世界だと治は寒気がした。
 その後も何度か深夜に、首を左右に振りながら「ペンタゴン!」と叫び、もの凄い勢いで走り去って行く電波おばさんとすれ違った事があるが、その時はもう恐ろしさを通り越して、ただひたすら爆笑してしまった治だった。

 そんな電波おばさんとミノルの文は、内容も書き方もよく似ていた。
「これだけの計画を練りましたとですよ、結構大変やったとですが、しかし、どけんしてもこいつらを見返してやらんならんですからね……」
 ミノルはそう言いながらPCの画面に映る「ロリコン大作戦」の掲示板に目をやった。
「さっそくですか、車の手配ば頼んます」
 ミノルは計画ノートをボストンバッグに大切にしまい込むと、早く行こうとばかりにソファーを立ち上がった。
「いや、そんなに慌てなくてもいいでしょう……」
 立ち上がるミノルにそう言うと、ミノルは「明後日は眼科にいかんならんとですよ。ばってん明後日は九州に帰らないかんとです。消防団の古賀さんに白内障かも知れん言われてですね長江先生に見てもらうとですよ。だから早く計画ば実行せなならんとです」と右目を押さえながら言った。

 治は「明後日?」とふと思う。

 今日はもうこんな時間だから少女など見つけれるはずがない。という事は、実行は明日だ。明後日にはこのバカは眼科の為に九州へ帰るのだ。
 明日1日をなんとか逃げ切れば、翌日にはこのバカは東京から、いや俺の目の前から消えてくれる……
 治は(これだ!)と思いながらスッと立ち上がると、ミノルをジロリと見つめながら「まずはアジトの確保が必要だな……」と不敵な笑顔を浮かべたのだった。

(3に続く)

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