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ロリコン大作戦1

2012/02/18 Sat 14:20

「上戸彩言うんはロリコンになるとですか?」
 進藤実は真剣な顔をして加賀山治に聞いて来た。
 手には雑誌から切り抜いたとされる上戸彩の写真が握られていた。
 治は「彩か……」と呟きながらテーブルの上の「ポテトマヨネーズ野沢菜炒め」をジュルジュルと啜った。治は皿に残っている油とマヨネーズを啜りながらも時間を稼ぎ、答えを考えているのだ。
「やっぱり年齢から考えても上戸彩はロリとは言えんとですか……」
 なかなか治から答えが帰って来ないのに痺れを切らしたのか、ミノルが淋しそうに俯きながらテーブルの下に持っていた上戸彩の写真を見つめた。
「僕は年齢は関係ないと思うけどね……」
 治は皿の上のギトギトのマヨネーズと、ついでに皿の隅に転がっていた海老フライの尻尾まで綺麗に平らげると、そう言って水をゴクゴクと飲み干したのだった。


 加賀山治と進藤実は出会ってからまだ1時間も経っていなかった。
 しかしこの二人は、もう十数年来の親友かのように親しげに話し合えた。
 というのは、出会ってからまだ1時間しか経っていないが、意見交換はかれこれ5年になろうとしていたからだ。そう、この二人はインターネットの巨大掲示板「ロリコン大作戦」の超有名な名物住人だったのだ。
 ミノルと治。
 この二人の投稿を読みたいばかりに、ロリコンに興味がない人でも「ロリコン大作戦」を読んでいるほどで、毎日3万以上のアクセスがあるこの「ロリコン大作戦」のそのほとんどのアクセスが、ミノルと治の投稿が目当てと言っても過言ではなかった。
 この二人の投稿のどこにそんなに人気があるのか?
 まず、投稿のそのほとんどが「質問」のミノル。
 少し知能遅れなのか、質問内容もバカならその文章も誤字脱字だらけで、初めてミノルの投稿文を読んだ人はみんなイライラしているに違いない。
 しかし、そんなイライラしていた人達も「ミノルの質問」を読んでいくうちに、ついつい質問に答えてしまう。一度でもミノルの質問に答えようものなら、後は蟻地獄のようにミノルの世界に引きずり込まれてしまうのだった。
 一方、ミノルのその質問をことごとく打破していくのが治だった。
 治は掲示板の中では「早稲田卒」という事になっているが本当はまぎれもない中卒だった。掲示板を見ている人達は、オサムの『早稲田卒』がネタである事は知っていたが、しかしミノルただひとりだけはオサムの『早稲田卒』を信用していた。
 治は低能なミノルの質問に対しマジになって回答する。
「早稲田卒の私にわからない事は何もないです。なんでもすぐに答えます」と言っておきながら、そのくせ、治のその回答のほとんどは「ウィキペディア」から引用したものばかりだ。
 しかし、ミノルの質問が「ウィキペディア」に載っていないような難しい質問だと、治は突然機嫌が悪くなり「今日かぎりで引退します」と自虐投稿し、その後、匿名となった治は掲示板を荒らしまくるのだった(治の荒らしは約二日間ほどで、それを過ぎると普通に再登場する)。
 そんな二人の馬鹿馬鹿しいやりとりが妙に可笑しく、いつしかロリコン大作戦という掲示板の名物となり、中にはそんな二人を「自作自演だろ」と冷静に分析する者や、他の掲示板から「ウチにも来て下さい」とオファーがあったりと、二人は色んな意味での名物コンビとなっていたのだった。
 そんな名物コンビの二人がいよいよ顔合わせとなった。
 場所はオサムが住んでいる東京。
 九州の片田舎からわざわざ治を尋ねて出て来たミノルは、待ち合わせの渋谷駅に来るなりいきなり警察に捕まった。
 容疑は公然わいせつ罪。
 渋谷駅の構内で、大勢のミニスカート女子高生におもわず反応してしまったミノルは、駅構内で寝っ転がっていたホームレスの横に座り、通り過ぎて行く女子高生達を眺めながらセンズリを始めたのである。
 ミノルから「今、駅前の交番です。すぐ迎えに来て下さい」というメールを受け取った治が、待ち合わせ場所のハチ公前から慌てて交番に走ると、床に正座したデブが「すまんこってす!」と泣きながらおまわりさんに謝っている光景が飛び込んで来た。
(もしかしてこいつがミノル?)と、治は怪訝な表情をした。
 というのは、掲示板の中ではミノルの年齢は30歳という事だったが、しかしここで泣きながら正座をしている男はどう見ても50は過ぎているおっさんだからだ。
「あんた加賀山さん?」
 帽子から覗く目を三角定規のようにさせたおまわりさんが治に聞いて来た。
「いえ、違います」と言いたかったが、しかし焦っていた治は「そうです」と頷いてしまった。
「オサムちゃん!すまんこってす!」
 ミノルは正座の向きをクルッと治に向けると、そう叫びながら再び号泣した。
 おまわりさんは治の横にソッと立つと、「この人は障害者?」と小声でそう聞いて来た。
「はぁ……たぶん……」
「ま、被害届は出てないから、もう二度としないっつー事で、今日の所は帰っていいよ、いや、とっとと帰ってくれるかなあ、当分この辺ウロウロしないでよね」
 交番の奥から、ミノルの号泣に耳を押さえていた中年のおまわりさんがそう呟く。そして、早く出て行けとばかりにシッシと手を振った。
 治は交番の床に正座するこの男を見つめた。
 そしてこれ以上この男と関わり合いをもたないほうがいいのでは?とふと思った。
「オサムちゃん、行きまっしょう」
 ミノルはそう言いながらさっさと立ち上がると「お世話様」と不貞腐れ気味におまわりさんに頭を下げ、ひとり勝手に交番を出て行ったのだった。

     ※

「東京という街は恐ろしか街ですね……」
 渋谷の雑踏を進みながらミノルが独り言のように呟いた。
「キミはいったい何を考えてるんだ」
 治はミノルの隣りまで早足で来ると、少し怒り気味でそう聞いた。
「いや、私はなぁんも疾しい事はしとりません。あいつらは私を九州の田舎モンとバカにしとるだけですたい」
「しかし、キミは許して下さいと謝っていたじゃないか。何もしていないなら謝る必要はないはずだ」
「……色々あるとですよ。人生には」
 ミノルは急に立ち止まり空を見上げると「東京の空は汚なかねー」と叫び、そして薄気味悪い笑顔を浮かべながら「腹ば空いたとです」と治に振り返ったのだった。

 治は道玄坂にある「キッチン山波」にミノルを連れて行った。
 ここは戦後間もなくから営業しているという老舗の洋食屋のくせに、一度もメディアに取り上げられた事が無いという不思議な店だった。
 どういうわけかこの店は洋食屋のくせに洋食と呼べる商品はオムライスとチキンライスだけだった。
 あとはキムチがあったりカツ丼があったりと、とにかくコンセプトの無いメニューばかりで、メディアに取り上げられない原因がなんだかわかるような気がする。
 しかしこの店のそんなマニアックな所が治は堪らなく好きで、週に一度は必ずこの洋食屋の窓際でインスタントのコーヒー(180円)を飲みながら文庫本(官能系)などを開いては文学青年を気取っていたのだった。
「この店、なかなかいいでしょ」
「…………」
 ミノルは薄汚い店内を見回した。
「ほら、あそこのカラーボックスに並んでいる少年サンデー。何か感じない?」
 治はカウンターの横にある油でギトギトになった緑のカラーボックスを指差した。
「…………」
「サンデーのロゴを見てわかるように、全号古いんですよ。しかもめちゃめちゃ古い。なんと、まだ『がんばれ元気』が連載されてる号が普通に並んでるんです。僕は最初知らずにフツーに読んでて、途中で、あれ?なんて思って発行日見たら昭和五十年なんだもん、正直言ってこれはカルチャーショックですよ」
「…………」
「んでね、親父さんに聞いてみたの、この古い雑誌はわざとですか?ってね、だってほらこの店古いじゃん、それでわざと演出的に古い雑誌置いてるのかと思って、だから聞いてみたんだけど、そしたらあの親父さん何て言ったと思います?」
「…………」
「隣りの床屋が廃業した時に貰って来た雑誌だから俺ぁわかんねぇ、ってフツーに言ったんだよね……スゴいでしょ、アレ、マニアが見たら卒倒モンの雑誌ですよ、それをあんなに油だらけにして、『俺ぁわかんねぇ』ですからね、僕は正直言ってカルチャーショック受けましたよ、実際」
 治の口癖『カルチャーショック』。この言葉は掲示板でも治の投稿にいつも出てくる言葉だが、しかしミノルは『カルチャーショック』の意味を知らない。掲示板でカルチャーショックという字を見る度に、ミノルの頭の中では『カーマはきまぐれ』の曲がボンヤリと流れるだけだった。

「……以前から言おう言おうと思っとったとですが……」
 古い少年サンデーに興奮し始めた治に、ミノルがいきなり話しの腰を折った。
「……なに?」
「……オサムちゃんの言うとる事は自分にはいまいち理解できんとです」
 ミノルはそう告げると、テーブルの隅に置いてあった丸い『星占いくじ』を手にし、それをガラガラと振っては無意味に中の小銭の音を確かめた。
 とたんに治はムカッときた。治という人間は、自分より立場が上だと思った人間(例えば先輩や父親)にはとても服従なのだが、しかし、相手が自分よりも劣っていると思った人間(例えば母親や近所のちびっこ)に対してはまるでヒトラーかムッソリーニの如く支配しようとする性格の持ち主だ。そんな性格の治の意見が、今この田舎者のおっさんに否定されたのである。
 これが掲示板だったら、すかさず「もう引退します」と書き込みして、あとはミノルが書き込む内容に対して「アホ丸出し」や「死ねばいい」などと匿名で書き込んでは荒らしてやるのだが、しかし、今回はリアルである。
否定された治は、目の前にいるこの忌々しい田舎者にどうやってダメージを与えてやろうかとそればかり考えていたのだった。

 小さなテーブルの上にキッチン山波のコンセプトの無い料理が並び始めた。

 治はいつも食べている「ポテトマヨネーズ野菜炒め」の一品だけだったが、しかしミノルは、チキンライス、カルビー焼肉定食のカルビー単品、串カツ2本、たこ焼き、と4品を注文し、おまけにデザートにミックスパフェを注文するという、まさに「豚」であった。
 豚と化したオサムは、テーブルに並べられる品を豪快に口の中に押し込んだ。そして下品にグッチャッグッチャとやりながら「このタコヤキは冷凍物をチーンしたやつばい」などといちいちコメントを発するため、口から飛び出したチキンライスの米粒などがテーブルの上に散乱していた。

「ところでミノルちゃんはいったい何をしに東京に来たんですか?」
 汗だくになりながらカルビーを口の中に押し込むミノルに、治は露骨に嫌な顔を向けながら聞いた。
「……はい。自分はいよいよある計画を実行しよう思いまして、わざわざ東京に出て来たとですよ」
 ミノルはグチャグチャと音を立てながら、足下においてあった大きなボストンバッグの中を漁った。そしてその中から1枚の雑誌の切り抜きを取り出すと「これば見てやりんさい」と不敵な笑顔を浮かべながらソレを治に渡した。
 ソレは雑誌から切り取った上戸彩のグラビア写真だった。
「これがどうかしたの?」
 治は見慣れた上戸彩の笑顔を眺めながら、タコヤキを同時に2ヶも口の中に押し込んでいる豚のようなミノルに聞いた。
「……はい。自分はこの東京で少女に悪戯してやろう思って九州から出て来たとですよ」
 一瞬、治の目が深海魚のように黒くなった。
「少女に悪戯って…………それと上戸彩とどういう関係があるの?」
「いやぁ、東京みたいな大都会なら彩ちゃんみたいな可愛い少女がいっぱいおる思うて、その写真、九州から出てくる時に駅前のラーメン屋に置いてあった雑誌からかっぱらって来たとですばい」
 ミノルはそう言うと、そのかっぱらい行為がさも勲章でもあるかのように誇らしげに笑った。
 治はそんなミノルを怪訝に見つめながら「少女に悪戯?……」と目玉を天井に向けた。
 確かに数日前から掲示板には、『ボンノウ』と名乗る男がミノルの書き込みに対していちいち「少女とヤった事ないくせに」と挑発していた。それに対し、ミノルも「今はヤった事ないけどいつかはヤりますよ」といとも簡単に釣られていた。
 ちなみに、掲示板でミノルを挑発していたその『ボンノウ』という男は紛れもなく治だった。

 ミノルはそのボンノウを見返すためだけにわざわざ東京に来たというのか?……
 こいつは本物のバカだ、と、そう思った治は、ミノルのあまりの幼稚さに驚きながらも、一方ではその病的な執拗さに、言い知れぬ不気味さを背筋にゾッと感じていた。

「自分もロリコン大作戦ではそこそこ有名になった男ですけんね、少女の一人や二人、悪戯もでけんでどげんすっとか!言うて思い立ったとですよ」
「で、でも、なにも東京にまで出て来てそんな事しなくても、九州でやればいいじゃない」
「いやぁ~九州みたいな田舎ではどうもこうもならんですよ」
 ミノルは年期の入ったスプーンをチキンライスの皿の上に置き「ごちそうさまでした」と両手を合わせて呟くと、「やっぱり男が勝負賭ける時は東京ですばい」と力強く頷いたのだった。
 これはマズイ事になったぞ……と、治はふと思った。
 いや、この田舎者のロリコンが東京で人を殺そうが少女を誘拐しようが、そんな事はどうでもよかった。しかし、もしそれをこの田舎者に唆したのが自分だとバレたらどうなるだろうか?
 自分自身も法律的に罰せられるのだろうか?
 ミノルが逮捕され、その動機が「ロリコン大作戦」という危ないサイトだとわかり、それを示唆したのが自分だと言う事が公になり、それでマスコミあたりが騒ぎだそうものなら、そうなれば、間違いなく自分は父親に家を追い出される。今でさえ仕事をしていない自分に父親は「生活費を納めないなら出て行け!」と毎朝物凄い剣幕で怒るくらいだ、こんなことがバレたら今度は本当に殺されるかも知れない……
 今年で29歳になる治は、ふいに父親の貪よりと重く輝く病的な目を思い出し身の毛がよだった。

「もう準備は万端ですばい。ここに道具も全部用意してきとるとですよ」
 ミノルが足下のボストンバッグを開けて治に中を見せた。
 40年前の新婚さんが新婚旅行に持って行くような、そんなヤケに古くさいボストンバッグの中には、ガムテープ、手錠、大型カッターナイフ、ピンクローター、そしてなぜか不二家のぺこちゃんグッズが押し込められていた。
「ぺ、ぺこちゃんは何に使うの?……」
 治は感情を落ち着かせようと、何度も深呼吸をしながらミノルにソッと聞いた。
「これは獲物を誘き寄せる為の餌ですばい。このぺこちゃんの人形でくさぁ、ヒュッと少女を誘き寄せてパッと浚っちゃろう思うとります」
 ミノルはヒュッとパッを大袈裟なジェスチャー入りで説明した。
 今時、ぺこちゃんの人形で付いて来るような少女は東京にはいないよ……と言い掛けて治は慌てて言葉を呑んだ。新聞の見出しに「ロリコンサイトで知り合った男が指示」とデカデカと載っている光景が目に浮かんだからだ。
「さっき交番でバッグの中を調べられた時、これはナニするんだと聞かれよったですよ。でも自分は咄嗟に友達の引っ越しの手伝いに来たとです言うて誤摩化してやりましたけん大丈夫やったとですが、でも手錠とピンクローターにはさすがに気まずかったとですね……」
ミノルはそう言いながら苦笑した。
「……なんて言ったの」
治がコーヒーを飲む手を止めて聞く。
「は?何がですか?」
「だから、手錠とローターについては何と説明したのって聞いてんの」
「あぁ、それはですね、これは友達に頼まれて九州から買って来たおみやげばい、キサンらなんか文句あっとかー!言うて、怒鳴り上げてやったとですよ」
「……おまわりさんは……もしかしてその友達って誰って聞いてきた?」
 治は武勇伝気取りのミノルに恐る恐る聞いてみた。
「はい。聞きよりました。だから自分言うてやったとですよ、加賀山治さんばい!嘘や思うなら本人に聞いてみればよかろうも!ってくさ言うてやりました」
 ミノルは勝ち誇ったように笑っていた。
 治は「これで自分が犯行に関与しているのは否定できなくなった」とガックリと肩を落としたのだった。

(2話に続く)

          目次 2話


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