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仕込み屋1

2012/01/14 Sat 15:15

               1

「我々!ニコニコ山猫団はこの犯罪とも呼べる代表者の横暴を国民の代表とし徹底的に糾弾する構えでありまして」

大通り沿いのコンビニエンスストアーの前で、黒塗りの街宣車が凶器とも言えるような大音量でがなり立てていた。

「なんだいいったいありゃ」

マルイチスーパーの社長、丸田一也は、腕を組みながらその街頭演説を聞いていた近所の床屋の親父に聞いてみた。

「なんかさ、あのコンビニでバイトしてたヤツがレジから金を盗んだとか盗まねぇとかで店長とケンカして解雇されたらしいんだけどよ、それに対してなんだか知んねぇけどあいつら怒ってるみてぇだな」

床屋の親父は鼻糞をほじりながらそう言うと、「ま、あそこの社長も随分と派手にやってたみてぇだし、自業自得ってやつじゃねぇの」と、黒塗り街宣車をみつめながらヘラヘラと鼻で笑った。

丸田は「そりゃあ大変だな……」と言いながらも、腹の中では「ざまぁみろ!」と叫びながらヨダレを垂らして笑っていた。

丸田がそのコンビニに敵意を抱いているのは当然と言えば当然だった。
なぜなら、そのコンビニはつい一年ほど前に丸田が経営するマルイチスーパーの真正面に、まるで宣戦布告をするかのように開店したからだ。

創業40年のマルイチスーパーはこの地域を縄張りとする大型スーパーだった。
創業当初は「八百屋・丸一」という猫の額ほどの小さな店だったが、しかしバブル景気にうまく乗っかった丸田は事業を拡大し、周辺の土地を片っ端から地上げすると巨大スーパー・マルイチとして生まれ変わらせたのだった。

「安さと真心をモットーに地域住民の皆様と共に歩むスーパーマルイチ」

そんなインチキ臭い社訓を事務所の壁にベタベタと掲げながら巨額の富を得ていた丸田は、次の目標は選挙に出馬する事だと密かに企んでいるくらいだった。
そんなスーパーマルイチの売上げが一年前からガクンと落ちて来ていた。
そう、例のコンビニが通りを挟んだ向こう側にオープンしたのがその一番の原因だった。

地域の皆様から愛される創業40年の大型スーパーが、昨日今日やってきたコンビニなんぞ屁でもねぇや、とタカをくくっていた丸田も、さすがにこれには地団駄を踏んで悔しがった。
なんとか手を打たねぇとヤベェぞ……腐った弁当紛れ込ませて食中毒でも出してやるか……などと丸田が思っていた矢先、例の右翼団体の街宣活動である。

やっぱり俺ってぇ男はついてやがるぜ……と、街宣車を眺める丸田は、選挙の出馬に尚一層意欲を湧かせるのであった。

「それにしても最近の右翼ってヤツぁ、昔と比べると変わっちまったな」

床屋の親父が知ったか顔でそう言った。

確かに、この右翼は一風変わっている。
まずその名前。
普通の右翼のように「大日本○○会」や「日本○○同盟○○社」といった見ただけでオッカナイ名前ではなく「ニコニコ山猫団」というまるでジブリの世界のような名前なのである。
街宣車に掲げられているスローガンも、従来の「北方領土返還」や「日教組撲滅」といった下町のヤンキーやボーソーゾクが好きそうな漢字だらけのスローガンではなく、この街宣車に掲げられているのは「みんな仲良くニコニコ町づくり」や「いつもニコニコ明るい笑顔」といった、まるでインチキ政治家の街宣演説カーのようなスローガンだった。
しかもそんな街宣車から流れている歌が凄い。
今までならお決まりの軍歌がBGMとして使われているのが定番だったが、しかしこの右翼はなんと「崖の上のポニョ」の主題歌を巨大拡声器から垂れ流ししているのだ。

「ったく、ふざけてるよな」

床屋の親父が腕を組みながら「ケッ」と笑うが、しかし、その街宣車の中に押し込められている隊員達は、従来のソレと変わりなく、実に凶暴極まりない目付きで周囲を取り巻く野次馬たちを威圧しているのだった。

「ま、丸ちゃんも手広くやってるから気を付けねぇとな、あんなゴロツキに狙われちゃ客商売はひとたまりもねぇや」

床屋の親父はそう言いながら気怠そうに店に引き上げて行った。

丸田はそんな床屋の親父を「ふん」と鼻で笑いながら、いつかオマエのその薄汚い店も地上げしてやっから待ってろよと細く微笑んだのだった。

     2

数日続いた騒々しい街宣活動も終わり、散々叩かれた挙げ句に客足がパタリとなくなったコンビニは「しばらくの間お休みさせていただきます」という張り紙が張られ、廃墟のように静まり返っていた。

地域はまたいつもと変わらぬのんびりとした住宅街に戻っていた。

コンビニが潰れ、また客足が戻って来たスーパーマルイチは活気を取り戻し、丸田の選挙出馬計画もいよいよ本格的にとり進められていた。

そんなある日、マルイチスーパーでちょっしたトラブルが発生した。

そんなトラブルを発見したのが、この業界では知らぬ者はいないと言われる凄腕万引きGメン、金山幸雄。
今年度の万引き被害総額がとんでもない数字を出した為、丸田が警備会社から雇った救世主だ。
Gメン金山は数々のドキュメンタリー番組やワイドショーで何度も特集を組まれる程の凄腕で、どんなプロの万引き者も彼の目を誤魔化す事はできなかった。
毎日のようにスーパーの事務室にはGメン金山に挙げられた盗人たちが連行され、おかげでマルイチスーパーの万引き被害額はみるみると激減していったのだった。

そんなGメン金山がいつものように買い物客を装い、スーパーの端にある調味料棚に身を潜めていた。

Gメン金山が息を潜めながらジッと見つめる隣りの生活用品コーナーは、このスーパーでも最も万引きがされやすい万引き多発地帯だ。
棚の背が高く周りから見えにくい事や、フロアの一番端という事で防犯カメラが行き届かないという理由から、万引き者たちはよくこのコーナーに品物を持ち込んでは犯行に至るというケースが多かった。

Gメン金山は長年の勘とその状況で、その男がついさきほど飲料水コーナーで手にした缶コーヒーをポケットの中に入れるだろうと確信していた。

Gメン金山はたとえコーヒー1本だろうとアメ玉一個だろうと見逃しはしない。
Gメン金山に商品の価値は関係なかった。
捕まえるというのがGメン金山の最大の目的であり、たとえそれが老人だろうと子供だろうと容赦はしなかった。
それがカリスマ万引きGメンとしての金山のプライドだった。

「あのおっさん、たった105円のコーヒーなんか盗ろうとしてやがるよ……どうせ近所のホームレス野郎だろ、どー見ても甲斐性のなさそうなボンクラだもんな……」
Gメン金山が相方の新人、松村に呟いた。

「ポケットに入れた瞬間にパクりますか」
新人の松村は、まるで撃ち落とされた獲物に食らい付く猟犬のように、Gメン金山の指示を待ちながら異常に興奮していた。

「いや、あいつがポケットに入れたままレジを通り過ぎて店に出た瞬間に確保するんや。レジを出る前やと『払うつもりでいた』なんて言い訳する阿呆がいるからな……」

松村はその男に「早く盗め」と願いながらゴクリと唾を飲み込んだ。

1週間前に警備会社に入社した松村は、柔道有段者という経験からこの万引きGメンに配属された。
最近の万引き者の中には、開き直って暴れるといった凶暴なヤツも多く、松村のような格闘家系Gメンは重宝されていたのだ。

Gメン金山達が隣りのコーナーから見ているとも知らず、その男はさりげなく腰を掻くふりをしながらズボンのポケットの中に缶コーヒーを入れた。

「よし、盗ったぞ……」

男は缶コーヒーをポケットに入れた瞬間、いきなり早足になって歩き始めた。

物凄い早さでコーナーを曲がる男。
男の姿を見失った柔道松村は「ヤバっ!」と慌てて走り出そうとした。

「アホ!落ちつけ!……慌てんでも大丈夫や、出口はひとつしかねぇから。レジんとこで待ち伏せしてりゃあ奴さんノコノコと現れるよ」

Gメン金山は馴れたものだった。
余裕の表情でレジに進むGメン金山を見て、新人の柔道松村は「さすがカリスマだ……」と密かに感動したりしていたのだった。



     3

Gメン金山と柔道松村が、レジの後にある「清算商品袋詰台」で、カップ麺などをスーパーの袋に入れながら張り込んでいると、缶コーヒーを万引きした男が何食わぬ顔でノコノコと現れた。

ポケットを膨らました男はそのままレジを素通りすると、何事も無かったかのように平然と自動ドアを抜け外に出て行った。

「いいか、慎重に行くぞ……」
Gメン金山がそう柔道松村に言うと、既に興奮していた柔道松村は「おう!」と低く叫ぶ。

Gメン金山達が外に出ると、男は駐輪場の前で自転車を探していた。

「よし……」

Gメン金山が男の横に並び、松村が逃げ出せないようにと背後に立ち塞がった。

「お客さん、何か忘れてませんかね?」

この瞬間がGメン金山は最高に好きだった。
万引き者にそう告げる瞬間は、まるで駅裏のファッショヘルスで馴染みのヘルス嬢にアナルを舐めてもらっている時と同じくらいの快感だった。

「え?」

男は驚きながらGメン金山の顔を見た。

「え、じゃなくてさぁ、アンタ何か忘れ物してるでしょ」

そんなGメン金山を見ていた柔道松村は「テレビと同じだぁ」と感激している。

「まだ清算してない物があるんじゃないの?」

「…………」

Gメン金山は黙っている男のポケットが膨らんでいるのを確認した後、「ま、とりあえず事務所に来てもらえますか」と男の手を掴んだ。

「なにするんですか!やめて下さいよ!」
男は大きな声でそう叫ぶと、掴まれていた腕を引いた。

「大きな声を出すなゴラァ!」
背後の柔道松村が男に負けないくらいの大声でそう叫び男の右肩を鷲掴みにする。

「ちょっと!やめてくださいよ!」

「いや、だからね、ここではアレだから、事務所に行ってゆっくり話しを聞きますから……」

Gメン金山は再び男の腕を掴む。
かなりのギャラリーが集まって来ていた。
買い物を済ませた主婦達がヒーローを見るような目でGメン金山を見ている、とGメン金山は思っている。

「離して下さい!」
男はそう叫びながらGメン金山や柔道松村の手からすり抜けると、いきなりスーパーに向かって走り出した。

「待て!」
そう叫ぶGメン金山の心の中では太陽に吠えろ!のメインテーマが流れ始めた。

男はスーパーの中に入ると、後から追って来た万引きGメンに向かって「やめて下さいよ!」と叫びながら、ガタイのいい柔道松村に掴み掛かった。

柔道松村は、向かって来た男の胸ぐらを無意識に掴む。
柔道有段者の松村にとったら、こんな痩せ細った親父など赤子の手を捻るようなものだ。

松村はギャラリー達の目を引く為にわざと「大人しくしろ万引き犯めーーー!」などと大きな声で叫ぶと、「えいや!」と見事な背負い投げで男を床に叩き伏せた。

その見事な柔道松村の「1本!」に、ギャラリーの主婦達から「おぉぉ」という歓声まで沸き起こった。

悔しいのはGメン金山である。
本来、ここで注目を浴びるのは、万引きGメン歴10年テレビ出演歴5回のカリスマ万引きGメンの自分でなくてはならないのだ。

そんなGメン金山は、床で這いつくばりながらまだ逃げようと暴れている男の頭を押さえ付け「万引きGメンの金山だ!大人しくしろーい!」と啖呵を切った。

その時だった。
床でもがいていた男の口からダラーっと血が垂れた。

白い床には暴れ回る男の血が擦り付けられ、実に生々しい捕り物劇となってしまったのだった。

口から血を流す男は、柔道松村に強烈な寝技で押さえ込まれ「助けてくれーーーー!」と叫ぶ。
「よし、じゃあもう暴れるなよ……」
Gメン金山はそう言いながら男のズボンの腰を力強く握ると、ハァハァと興奮状態にある松村に「よし、離せ」と、まるで怒り狂う闘犬を落ち着かせるようにそう言った。

起き上がらされた男は口から血を垂らしながら項垂れていた。
そして、二人の男に両脇を抱えられながら、捕まった宇宙人のように事務所に連行される男に、突然、ギャラリーの中の男が声を掛けて来た。

「あなた、もしかして前田さんじゃないですか?」

男がそう声を掛けると、連行される万引き男は「あぁ、柿島さん……」と小さく嘆いた。

「あなたはこの男の知り合いですか……」
男を連行しながらGメン金山が柿島とよばれたその男に尋ねた。

「はい、そうです。あ、あの、前田さんはどこに連れられていくのでしょうか」

「裏の事務所で事情を聞きます」

「あのぅ、心配ですので私も付いて行ってよろしいでしょうか……」

「まぁ、お知り合いなら……どうぞ」

「いや柿島さん、これは誤解なんです、勘違いしないで下さい」

事務所に引きずられる万引き男が、後から付いて来た柿島にそう話し掛けると、柔道松村が「何が誤解だ盗人め」と吐き捨てた。

「盗人!?……前田さん、あんたいったい何やってんだよこんな大事な時に!」

柿島がそう叫びながら万引き男を見返した。

「いや、だからこれは誤解なんですよ!勘違いしないで下さいよ柿島さん!」

万引き男は必死にそう叫ぶが、柿島は「見損ないましたよ前田さん……」と呟きながら大きな溜息を付いたのだった。

(2へつづく)

          目次 2話


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